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Joni Mitchell『Blue』(1971)
アルバム情報
アーティスト: Joni Mitchell
リリース日: 1971/6/22
レーベル: Reprise(US)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は3位でした。
メンバーの感想
The End End
ブルースともフォークとも違った角度のアコースティック・ギターの方法論がある気がする。金延幸子がジョニ・ミッチェルと並べて語られるのもよくわかったような気がするけど、金延幸子がどこか浮世離れして自由に空を歩いているような歌を歌うとすれば、こちらはしみったれた浮世のどうしようもなさを背負って立ってくれているような雰囲気がある。
比類なきグッドメロディが全体を貫いているけれど、個人的にはもっとこの不思議なギタープレイをたくさん聴きたかったので、これ以前のアルバムも聴いてみようと思う。
コーメイ
今の日本で、このアルバム収録曲の数曲をかけると、この透明感あふれる声が好きだという人が一定数いると思われる。とくに、店の中(小さなカフェなどこじんまりかつ日当たりがいい店)や街中でこれらの楽曲に出会うと、"あ、これいいな。なんて曲だろう?"と調べて聴いてみると、ハマる人が、いてもおかしくはない。そのくらい、時代の経過を感じさせず、みずみずしさを保ったアルバムであろう。
桜子
今関東平野の端っこで聴いています。冬晴れの日、田園風景の街が黄金色に染まっていくさまを映す友人の瞳まで黄金色になります。瞳に映る私もこの色に染まっているのかと思うと、その時は、自分の内側と外側の乖離、距離感が消えた気持ちになって、取り繕うのを辞められるんです。そういう勇気をこの歌声からも、もらえます。
考えを放棄してしまいたいくらい、ただただ感じていたいくらいの陶酔、信仰の境地へ連れて行ってくれる音楽です。とにかく、皆さんこれを聴いてください!
湘南ギャル
彼女が歌うと、世界が広がっていく。例えじゃなくて、本当に面積が広がっていると思う。広がっていくのが目に見える。広い海を見ている気持ちと、小さい小鳥を見ている気持ちを同時に感じる。人工物であることが信じられない。世界遺産に行ったらこういう気持ちになるのかな。自分の世界まで広がっていくような、初めて音楽を聴いた時と同じ新鮮な喜びを感じた。
しろみけさん
いやぁ、何よりもこの声ですよねぇ。ヘッドボイスで芯のある声なんだけど、声量のグラデーションと一抹の憂いのおかげでギターやピアノの弾き語りでもクドくならない。名だたるミュージシャンが彼女を信奉しているのも頷ける、こんなの幾らでも曲を提供したくなりますよね。歌詞も、当時のボーイフレンドとの関係を歌ったものが多いと一般には言われているけど、固有名詞を意味ありげに散りばめたりすることなく、詩世界の中で完結させているのも素敵。後のテイラー・スウィフトまで繋がる女性シンガーの系譜の元にいる人なんだなと。
談合坂
このアルバムを聴きながらこんな風に歌ってみたいという思いを抱くのだとしたら、その気持ちは鳥を見て空を飛びたいと思うときのそれに近いんじゃなかろうか。絶妙なテンションの楽曲も、飛び回る歌声も、自分にはない軸を使って動き回っているように感じられる。憧れるわけではなくとも、当たり前に地面から足を離して空中にいる鳥を見ているときみたいに、その奏で歌う感覚がどんなものなのだろうかと思いがめぐる。
葱
水のような透明度でいて、彼女本人の存在自体は一切漂白されていない。ピアノを中心とした前半から、リズミカルな「Carey」を経て表題曲「Blue」に至るアルバム構成のうまさも含め、非の打ち所がないというか、これ以上ないと否応なしに思わされる。ジャンルレスな名盤という言い方はよくあるが、削ぎ落とされた末に音楽の核の部分だけが残った、本当にジャンルというカテゴライズがいらない一枚だと思いました。
みせざき
高低の差が激しいボーカルが掴みづらかったけれど、だんだんその表現域が分かる気がしてきた。やはりボーカルが一番光るものだと思った。メロディー、声、ギターそれぞれがあまりに独特だが、その個性は後々にも語り継がれるような輝きを秘めたものだと思う。
六月
女性だけが持つことのできる覚悟、みたいなものがこのアルバムからは感じられる。それを抜きにしても、特にメロディーラインやコード進行の点において、こうなるかなという予想をいちいち裏切っていくひねくれた部分があって(2曲目の「My Old Man」などは特に目まぐるしくそれらが変わっていくだいぶトンチキな曲だと思う)、それがクセになってきて聴いていて楽しい。
和田醉象
以前金延幸子をこの企画で聞き直して、影響受けすぎて一曲仕立ててしまったのですが、それからも似たようなものを探していたのですが、これかもしれねえ。
私が金延さんの音楽に求めるものと近いものがここにあった。Joniは割とフォークというかそこから音楽的アプローチを広げていかないけど、金延さんは割とニューエイジな表現にまで手を伸ばしていたりして、明確な違いがあり、同型のものと類するにはいささか乱暴かもしれないが、とりあえずちゃんと聞いてみてかなり興奮した。歌の抑揚の付け方の感じ、それから、すこしエキゾチックな雰囲気もあり、それらがまとう雰囲気をにせている感触がする。
調べたら、金延さんはJoni Mitchellと似てると言われて困惑したことがあるそうだ。そうかもしれない。ジャンルが違う。でも持ってる武器やその使い方が似ている。他人の空似かもだけど同じようなルートをたどった人がメインストリームを日本でも海外でも築いた、というのはなかなかに面白い現象だと思います。
渡田
どの曲も"澄んだ音楽"という印象。開幕は室内音楽としてのイメージが強いが、それがだんだん開放的に展開していく様からは、映画の大自然のシーンを感じさせる。
何をいっているかわからないけれど、繊細な美しさを歌っていることをなんとなく感じながら聴ける曲だった。
次回予告
次回は、Allman Brothers Band『At Fillmore East』を扱います。