『Live at Leeds』をデカい音で聴くとデカい音がする──「或る歴史と或る耳と」RS編30週目を終えてのレビュワー座談会:中編
ローリング・ストーン誌「史上最も偉大なアルバム500」のランキングを年代順に聴き、数人のレビュワーが感想を残していく企画「或る歴史と或る耳と」。今回はその特別編として、ここまで100枚の名盤を評してきた参加メンバーたちが集合し、雑感やアルバムへの思いを語った座談会の様子をお届けします(参加メンバーのうち、「桜子」「みせざき」は日程の都合により不参加)。
休符!証言!素人意見!
しろみけさん:そろそろ各々の愛聴盤の話をしましょうか。
和田醉象:俺はミーターズだな。ドラムが良かった。ブラック・サバスも好きだけど、良いのは前から知ってたからね。
湘南ギャル:ミーターズの回はみんな面白いこと書いてた気がする。あんなに"休符!"みたいな音楽も珍しい。
The End End:"これがアリになっちゃうんだ"っていうのを感じたかな。何が良いのかわからないけど良い。スカスカでヨレヨレで、なんなら上手いのかどうかもわからない。
しろみけさん:バックビートおじさんもニンマリですね。
和田醉象:あとはヴァン・モリソンとかストーンズとかも普通に良かった。その代わり、R&Bにはあんまりはまらなかったな。
しろみけさん:そんな和田さんでもミーターズはハマったんですね。
和田醉象:デッドな音が好きでね。録音の仕方も面白いし、バンドの絡み方が手に取るようにわかるのが良かったな。
湘南ギャル:イケイケのファンクじゃなくて、ちょっとローテンションなのも良かったね。
六月:俺はお気に入りが2枚あって。ソウルはアイザック・ヘイズで、ロックはMC5。
湘南ギャル:MC5、マジでヒップホップの人たちかと思ってた。
しろみけさん:めっちゃカッコいいよね、MC5。
The End End:村八分みたいだった。
六月:まず『Kick Out the Jams』っていうのが俺の気持ちなんです。ジャムってる奴らを蹴り飛ばせ、っていう。それでその通りの演奏をやるのは凄いと思うし。それで最初のMCが紹介する時の言葉がすげぇ良くて。
"兄弟たち、姉妹たち
手を挙げてくれ
みんなで騒いでくれ
俺は革命が起きているのを聞きたいんだ、兄弟たち
小さな革命が起きているのを
兄弟たち、姉妹たち
一人ひとりが決断する時が来たんだ
自分がこの世界の問題になるのか、それとも解決策になるのか
兄弟たちよ、選ばなければならない
決断に必要な時間は五秒、五秒でいいんだ
この惑星で自分の目的を理解するのには
今が動くときだと理解するのには
五秒しかかからない、今がその時なんだ
兄弟たちよ、証言する時が来た。
証言する準備はできているか?準備はできているか?
これが証言だ—The MC5!"
……これ、超カッコよくないですか?
The End End:カッコいい。すげぇ売れてるわけじゃないのにすげぇ売れてるヅラしてるじゃん?それもカッコいいよね。
しろみけさん:なんか、彼らを見てると若い頃のビートルズを思い出すんだよね……。
湘南ギャル:あ、憑依した。
和田醉象:この時はまだ若いよ?
しろみけさん:いや、もう……。MC5を見てると、私まだこんな気持ちになれたんだって思える。こんな風にライブで騒いでたな、チケット取りづらかったなって……。
和田醉象:次行こ次。
コーメイ:俺のフェイバリットはー……あの、素人意見で申し訳ないんだけど。
しろみけさん:ヤバい!!!
The End End:こいつ、今から本質を突くぞ……
コーメイ:アルバム全体だったら『Let It Bleed』やなぁ。まず、レコードを買って針を落として、一音目がこれやったら良いんやろなっていう。あと、最初と最後で盛り上がるけど、途中でローリング・ストーンズが元々志向していたルーツとかアイデンティティが出てくるし、それが捨て曲じゃないのが良い。
しろみけさん:明確にリードシングルって感じの曲があって、他のところでルーツだったり好きなことをやってる気がする。『Let It Bleed』だと「Gimme Shelter」とか。
渡田:ストーンズって結構具合悪いよね。こんなに不気味でカッコイイバンドとは思わなかった。なのになんでこんなにポップなんだろう。売れようとしているのに気持ち悪くなっちゃう感じ。
The End End:ギターもポストパンクみたいなんだよね。コーラスのかかった冷たい感じ。
コーメイ:聞いてて、自分と距離があるから安心しちゃうというか。
キモい先輩、登場|ライブに行ってこれだったら超嬉しい
渡田:僕は曲単体だったらレナード・コーエンの1曲目(「Avalanche」)。アルバムだったら、前から好きなんだけど『Fun House』だね。
The End End:ストゥージズは1stも良かったね。筋肉がないのが良い。
渡田:なんかサビで盛り上がられると冷めちゃうんだけど、レナード・コーエンとかストゥージズはずっと同じで、それを続けられると緊張しちゃう。勉強をしてて意識が集中する感覚に近いかも。反復を繰り返してゾーンに入る、みたいな。今までの自分の好きな曲を考えてみると、そういうのが多いんだよね。自分の音楽趣味の一番の手本はイギー・ポップかも。
しろみけさん:お、ついに孤立から抜けれた?
渡田:いや……今回は時代の流れが別の場所にあって、自分だけ置いていかれてるけど、 1個だけ好きな先輩のバンドがいるっていう。憧れのキモい先輩がいるだけで、波には乗れてないよね。"この企画で音楽を聞いてるとその時代を追体験することになる"ってのが本当なら、僕は完全に孤立状態だよ。ただ好みの音楽が一つあるだけ。
しろみけさん:なるほど。
渡田:だけど、"イギー・ポップがいるなら"みたいな気持ちはあるよ。何かが起きる気はしてるんだよ。奴らが這い出してくるのはまだでしょ? 留学生のデヴィッド・ボウイくんとか。
しろみけさん:デヴィッド・ボウイはまだだね、来年かも。
The End End:逆に言えば、イギー・ポップは先輩として認識できるってことだよね? ルー・リードは1人でノートに向かってひたすら何かを書いてるだけで学校では誰にも気づかれてないけど、イギー・ポップは変わり者として認識されてはいるっていう。
渡田:その先輩を観て育った後輩たちがジョン・ライドンとかイアン・カーティスとかモリッシーとかで、そういう具合の悪い奴らだけで文化祭をやれる年が20年後とかに来る。
湘南ギャル:私はザ・フーのスタジオ盤はそんなに好きじゃなかったけど、『Live at Leeds』は凄く良かった。
The End End:全くの同意見です。『Tommy』は正直しょうもなかった。『Live at Leeds』はレビューでも書いたけど、デカい音で聴けば聴くほどデカい音がする。
湘南ギャル:『Live at Leeds』はドラムとベースのキモさみたいなのが出てた。ライブに行ってこれだったら超嬉しいよね。
しろみけさん:ザ・フーは主人公って感じかも。『Tommy』は物語を作って、その中で主人公を動かしてたけど、『Live at Leeds』はバンド自体のキャラクターが立ってる。
和田醉象:ドリームバンドみたいだよね。ドラムはハイハット使わないし。
The End End:フ・ザーのドラマー、ムース・キーン……
90年代のR&Bすぎる|アタシ、救われました……。
談合坂:個人的に、この時代はライブ録音みたいなのが多すぎて、前みたいなレコーディングのワクワク感はなくなったかな。その中で1枚フェイバリットを出すとしたら、アイザック・ヘイズの『Hot Buttered Soul』かな。その次にサンタナとマイルス(・デイヴィス)がいて、後はレッド・ツェッペリンとか。
しろみけさん:アイザック・ヘイズはどこが良かったですか?
談合坂:シンプルに全部カッコいい。ジャケットもいい。
湘南ギャル:90年代のR&Bすぎるよね?
The End End:わかる、内容も90年代みたいなんだよね。
しろみけさん:前回のジェファーソン・エアプレインと一緒で、未来の耳で聞いてるみたいなんだよね。
談合坂:しかもネオ・ソウルっぽい嫌さがない。タメとかシャッフルをさせないで、スクエアでやってるのがいい。
The End End:ひけらかしてないよね。あと、1曲目がトリップ・ホップすぎる。ポーティスヘッドみたい。
六月:というか、ポーティスヘッドがサンプリングしてたはず。
The End End:マジ?やはり私の耳は誤魔化せない……。
葱:てか、これヤバい。90年代のヒップホッパーすぎる。
湘南ギャル:早すぎる。
しろみけさん:アウトキャストじゃないの?
しろみけさん:その次点がサンタナとマイルス。
談合坂:ここはワールド・ミュージック的な、アウトサイダーにしなかったことの偉さというか。これをリアルタイムでちゃんと作って出したのが凄い。
渡田:カッコいいけど、あの世界に入る勇気はないよね。
The End End:でも、これからこの世界の風はどんどん吹いてくるんじゃない?
六月:どっちも宗主国目線じゃない感じがある気がする。
しろみけさん:そうね。でも確かに『Bitches Brew』の世界に入る勇気はないかも。"お前行ってこい!"ってあの中に背中押されて入ったら怖くて吐いちゃう。
The End End:私は2枚あるかな。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの3枚目とカーティス・メイフィールド。
和田醉象:カーティス良かったよね。
The End End:アタシ、救われました……。"何も問題を解決はしてくれないけど、ただポジティブな気持ちにさせてくれるもの"って大事だなって、カーティスを聴いて思いました。「Move On Up」さえあればアタシは毎日ご機嫌でいられる……っていう。何も理由がなくても、なんかやれそうな気がする。
しろみけさん:自分の中で「September」と同じ枠かも。最強の曲。
湘南ギャル:「September」とは違うんだよな〜。あれはちょっと上っ面すぎる。
The End End:「September」までいくと、躁なんだよ。「Move On Up」はちょっと違うんだよね、俺はこれを聴きながらノリノリでお料理がしたいのよ。こっちは健康的。
渡田:「September」の方が麻薬に近いかもね、あれはドーピングだよ。
The End End:あれは元気の前借り。モンスターと一緒。
しろみけさん:確かに。なんで「Move On Up」がテーマソングの朝の番組がないんだろうね。
六月:個人的には小西康陽っぽいというか。ピチカート・ファイブも曲調は明るいけど中身は暗いっていうか、そういうのに引き継がれていく気がする。
しろみけさん:カーティスも他の曲ではシリアスなメッセージとか出してるし、あと黒人としてのアイデンティティがちゃんとある人だからね。
The End End:そう。それでもこれをやってくれる、っていうのがね。
The End End:ヴェルヴェッツはこの企画で初めてまともに聴いてきたけど、3枚目が一番好きですね。"本当はこういう感じでやりたいんすよ"っていうのが前半なんだけど、「The Murder Mystery」とかで"でもやっぱり、こういうのしかできないんすよ"ってのがわかる感じ。そのままならなさがたまらなく愛おしいですね。
和田醉象:正体現したね。
渡田:わかるわ。"あぁ我慢できない!"って感じ。
The End End:あと、「Pale Blue Eyes」のアルペジオが流石に美しすぎ。
葱:これ世界で一番いい曲。
遅い方が良い音楽|超スタンダード
葱:前提として、この時代の私の聞き方は、完全に今の自分の趣味に繋がってるかでしかなくて。その前提だとブラック・サバス『Black Sabbath』とニール・ヤング『After the Gold Rush』が良かった。
The End End:私も『Black Sabbath』は好き。2枚目はサッパリだめだったけど……。
葱:2枚目も好きなんですけど、とにかく遅いのがいい。ハード・ロックとかの始祖みたいな感じだと最初思ってたから、"こんなに遅いんだ!"っていう。最近の自分は遅い方が良い音楽だと思いながらスロウ・コアとかを聞いていて。それで遅ければ遅いほど一つの音にパワーが入るってのを感じたのと、単純に90年代のスマパンとかHumとかの重いオルタナに直系の影響があるんだなと。
和田醉象:わかる。遅いってか溜めるよね。
葱:この40枚の中では目立ってたかな。
The End End:ヘヴィ・メタルのヘヴィって遅さなんだなと。
葱:遅いと下品じゃないというか。早くて重いと"……ウィッス"みたいな……(笑)。
葱:あとは『After the Gold Rush』って、世界で一番良いアルバムなんじゃないですか? スリントがカバーしてたり、オアシスもやってるし、サニーデイもやってるし。私の好きなものに影響を与えたのはニール・ヤングなんだなと。
和田醉象:90年代以降のメロディメイカーってみんなニール・ヤングが好きなイメージ。
葱:「Southern Man」のギターソロが凄い。裏でジャッジャッってやる感じとか。これはオルタナですねぇ、っていう。この2枚は自分のオルタナの趣味と繋がってるなっていう良さみがあったなと。
しろみけさん:同じオルタナっぽい重みで言うと、ツェッペリンはどうだったの?
葱:なんかダサいよね。
談合坂:ツェッペリンで、イデアとしてのラウドネスが初めて出てきてるじゃないですか。アンプとか音量とか関係なしに、"うるさい"。
しろみけさん:まず声がでかい、っていう。
談合坂:音色としてデカさを作るっていう。
しろみけさん:私も2枚あって。まずは『Bitches Brew』、抗えない。これはずっと大好きだから。とにかくね、みせざきさんのレビューが良かったんですよ。
The End End:書き出しから"まずはカッコ悪いことを言いたい"だもんね。みせざきは最近どんどん文章が洗練されてきてて良い。
しろみけさん:このランキングで改めて聞いて、マイルスがジェームス・ブラウンを聞いてたのがわかったね。しかも、ファンクをやるんじゃなくて、既にファンクの本質をやろうとしているっていう。直進するんじゃなくてグルグル回る運動がファンクっていうのを掴んでて、ここにそれがあるってのがすごい。マイルスがいないのにマイルスの音だし。しかもソロとか明確なテーマがない。
葱:どの要素で好きになれたの?
しろみけさん:それこそ、みせざきさんの言う通り、"では音楽に語らせましょう"ですよ。しいて言うなら、なんか変なことをしたらマイルスにどつかれる怖さだけがここにある。その反道徳的な感じが良い。
The End End:"マイルスの前に"っていう括弧付きで全員が平等な感じね。
しろみけさん:それと、もうひとつ好きなのがジェームス・テイラー『Sweet Baby James』。この企画をやりながら、自分の良い/悪いの基準が"その時代の汎用とされてるものからの差分がある"っていうのがあるなと。その点、ジェームス・テイラーはその差分がほぼないのにずっと聞いちゃう。超スタンダード。
葱:タイムレスだね。
しろみけさん:あと、弾き語りとバンドの入れ替わる感じというか。波のある構成なのが良かったかもね。
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中編はここまで。次回はとうとう解散したビートルズをしのんで、ビートルズ卒業式を開催します。