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Marvin Gaye『What's Going On』(1971)

アルバム情報

アーティスト: Marvin Gaye
リリース日: 1971/5/21
レーベル: Motown(US)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は1位でした。

メンバーの感想

The End End

 "コンセプト・アルバム"のあるべき姿ってこれかも!設定があるわけでも、ストーリーを順番に語るでもなく、各曲を貫くひとつのムードが形を変えながら止まることなくずっと漂っていて、なんていうか、"ガワ"でやっていない感じが素晴らしい。
 そして、全編にわたってベースがすごすぎる。小気味よくリズムを刻むこともできるし、ドキッとするほどの長い無音を作り出してきたり、ずっと耳が奪われてしまう!「Save the Children」の3拍子に対してベースが2/8でウォーキングっぽく動くポリリズムのアイデア、レディオヘッドの「How to Disappear Completely」の元ネタだったりしないですかね。(?)

コーメイ

 何人もの会話から始まり、温かな雰囲気が続くと思った。が、歌詞自体は、反戦的なもので暗いものである。Marvin Gayeの持つ温かさと内容のどうしようもない暗さのコントラストが、聴いていて良かった。
 全体を通して、曲調という観点から、やや穏やかなもの、丸い感じに持っていこうとしていた。だが、歌詞は、暗く、重い。だが、このバランスが、次の曲への興味に変わり、それを追っていくうちにアルバムを聴き通せていた。

しろみけさん

 A面、ほぼ一曲じゃん。直前に素晴らしい作品をリリースしたスライやカーティスと共に、ついにソウル/R&Bシーンで作家主義が顕現してきた。そして歌われているメッセージが直線的で、これまでのランキングの中でも最もポリティカルだ。つまり、歌手のスコープでもって社会問題についてリーチすることが新聞やラジオとは別角度の社会的意義を有することを、この男は誰の目にも明らかな形で証明した。"歌のチカラ"なんて言い方にしたらお台場の音楽特番みたいで陳腐だけど、それよりも厳密な"歌の役割"は疑うべくもなく存在している。そう信じている歌手だけが『What's Going On』を作れる。

談合坂

 70年代的な明瞭さを伴って、グッド・バイブスで歌い上げる。もしもこれがレコーディングスタジオが箱として見えるようだったり、マイクの少ないライブ録音的なローファイさがあったりしたら、こんなにも鮮やかな力は生じていないのだと思う。アルバムとして、プロダクションにおける芯が通っているというのが何よりも強力な地盤となっていることを感じさせる。なんというか、修辞の関わらない次元でも優れた弁論術を見せられているみたい。

 "ローリングストーンランキング1位のアルバムより、ART-SCHOOLのファーストアルバムの方がかっこいい"みたいな腐しでもしようかなと思っていたが、その必要がマジでない(そもそもあるわけがない)。ここまで洒脱さと生々しさが明確な人格とともに耳に届くアルバムはそうそう無いだろう。それこそ、ケンドリック・ラマーやビヨンセ、マドンナ、フランク・オーシャンのような格式高さを持つアーティストたちに近い響きがある。なんというか、この少し聞き流せてしまうくらいの軽やかさ含め名盤という扱いになっているのだろう。これをかけながら適当に談笑しても許されるっしょ?みたいな。全員受け入れる懐の広さと個人の語り方のスマートさの塩梅に惚れ惚れとする。

みせざき

 流れるように耳にすんなり入るこのR&Bだが、内容は悲痛な叫びや抵抗を表すものだった。バンドサウンドは勿論のこと、ストリングスの音もその重要性を際立たせていると感じる。メッセージ性みたいなものは、強烈な反骨精神によるパンクだけでなく、こうしたしっとりした曲調でも訴えることができるのだと思った。

六月

 いつか聞こうと思っていたけど聞けてなかったアルバムで、今回やっとはじめて聞いてみたんだけど、最初何が何だかわからないまま聴き終わってしまった、とりわけA面では、5曲目まで全く切れ目なくシームレスに楽曲が続いていくのだが、それがたとえばThe Beatlesの『Abbey Road』におけるB面メドレーでいうそれとは全くちがって、構成の見事さよりも奇妙さが勝る。なんか全く別の曲を繋げてるのではなく、同じような曲調が少しずつ変わりながら続いているのが、そのヘンテコさに寄与してるのだと思うのだけど、その同じモチーフを変奏していく感じは、全くサウンドは異なるけれど、ハウス・ミュージックにも似ているような気がする。しかし永遠に続くかに思えた演奏も、途中でバツっと途切れ、6曲目「Mercy Mercy Me (The Ecology)」に突入する。レコードではここで切り替わるわけではなく、この6曲目までがA面らしいからここを繋げなかったのはなんで?という気持ちになる。
 一体、Marvin Gayeはこのアルバムで何を作ろうとしたのだろう?たぶん、突然変異的に生まれてしまった、もし何かが罷り間違っていたら、"モータウンの看板歌手が突然社会情勢について歌い出した怪作"というふうに受け取られていたかもしれない奇怪さがこの作品には潜んでいるような気がしてならないのだ。

渡田

 さりげなく始まって、穏やかなR&Bなんだろうなと、特に印象も持たずに聴いていると、いつの間にか曲が壮大になっている。盛り上がるとか、慌ただしくなるとかではなく、音楽が体の内側に入って、中から押し広げられていく感じ。自分の心の中で壮大さが展開していく。
 不思議な例えかもしれないけれど、クリスマスソングにも似た安心感がある。その安心感がどこか鬱と表一体になっている気がするところも。

次回予告

次回は、Paul McCartney 『Ram』を扱います。

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