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宇多田ヒカル『First Love』(1999)
アルバム情報
アーティスト: 宇多田ヒカル
リリース日: 1999/3/10
レーベル: East World(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は17位でした。
メンバーの感想
The End End
ローエンドの設計がモダンすぎる。ただ太いんじゃなく、倍音で大きいように聴かせるベースだ。いまでこそこういう音像のポップスは日本にもいくらでもあるけど、16歳がいきなりこれを持って出てきたら、これまでの全部が突然古臭くなってしまうくらいの衝撃があっただろうな。小室哲哉以外にも、この作品が書き換えてしまったルールに"終わらされた"人は沢山いるんだろう。
これって実際に楽器を演奏して録音しているパートはあまり多くないですよね…?全部シンセサウンドだったら気にならないと思うのだけど、生楽器の音色を多く使っているから、なんだか”めちゃくちゃ上等なカラオケ”みたいな音像だと感じてしまった。冨田恵一が打ち込んだドラムとこのバックトラックを(ドラムに限らず)聴き比べると余計に、"タイミングや強弱でグルーヴを作る"という意識の薄さに驚いてしまう。宇多田ヒカルの歌という圧倒的なソウルを引き立たせるためにわざとやってるのか?と思うほどに。
桜子
まず歌い出しの
"な なかいめのベ ルで"
の譜割りでビビりますよね。
これまでには無かった感じ。リズムに誠実で気持ち良い。
編曲も歌も、ビートが気持ち良くて、ダンスが曲を作っているのか、それとも曲がダンスを生み出しているのか、聴いてるとそんな気持ちになります。
俊介
TLCとかsoul to soulみたいな90sのr&bサウンドすきだから結構にててめちゃくちゃ良かった。サウンドはまんまだけど、トラックに対する詞の乗せ方に「宇多田ヒカル」がモロに出てて素敵。ファーストの時点で既に確立されてた。これ15歳で作ったんですか。
わざわざ「人間活動」専念するまで身の回りのこと生活に関することがなにも出来なかったらしいけど、15歳でここまで才能開花したらもはやしょうがない。
部屋に積み上げられた払い方のわからない領収書の束に頭抱えたり自分の家の家賃と光熱費知らなかったり賃貸の借り方もよく知らないとこも最高だよヒッキー。
湘南ギャル
物心がついた頃、世の中のあらゆるスピーカーからR&Bが流れていた。テレビ、ラジオ、ショッピングモールやスキー場、どこかで聴いたフェイバリットを探しに、TSUTAYAへ連れて行ってもらう。リアーナ、ブリトニー、ビヨンセ、安室奈美恵、そしてもちろん、宇多田ヒカルも借りる。ウォークマン使ってた頃って、ひとつのアルバムを本当に何百回も聴いていたよね。鮮明に残された記憶は、Automaticの一音目が流れた途端、私の心を小学生に戻した。サボってたゴーヤの観察日記、そろそろ書かないとダメだ。本当に懐かしくて、胸がいっぱいになる。しかし予想外だったのは、胸がいっぱいになっただけということだ。今聴いても素晴らしくてまたハマりそうだ!とか書くことになると思っていた。私は、00年代サウンドの黄金期と衰退を見てしまった。そして、宇多田ヒカルだけでなくリアーナやビヨンセといった当時のスターたちがその人気に安住することなく進化し続けているのを、現在目の当たりにしている。その二つの要因が、私の感性に変化を与えたんだろう。
しろみけさん
ネオソウルといいブレイクビーツといい、取り込んだ作品の解像度を下げずに射出できるのは天賦の才だと思う。制作当時の年齢を考えなくても、それをやっている時点でもう只者ではない。なのに洋楽の輸入だけになっておらず、譜割とリズム感だけで記名性が生まれてしまうほどのオリジナリティも炸裂している。何をするにしても、足して2で割っていない。足されたものはそのままに、なんなら➕というより✖️される形で、膨大な存在にむくむくと伸長していくような。こんなポップス、この企画で聞いたことがない。あらゆるゲームとは無縁の場所で育ってしまった、地肩の強さをひしひしと感じる。
談合坂
この作品が存在した後の世界しか知らない世代なので、正直なところ宇多田ヒカルが登場した衝撃の大きさを正確に読み取るのは難しいと思った。あまりにも自然で正統なJ-POP文脈で聴いているので。
材料は全てシンプルで、複雑な調合をしているということでもなくて、純粋な調理の技術で決めに行けるのがもう敵わないな……と思う。
葱
安心した。しっかり''○周してかっこいいアルバム''だったから。勿論クラブに目を向けたモダンなR&Bの金字塔なのは間違い無いしそりゃ最高ではあるんだけど、1曲目の最後と2曲目のイントロの大味なギターの使い方、時々使われるスクラッチ音、「甘いワナ」のAMラジオっぽく加工されたトラックの感じとか、しっかり平成の音楽の香りがした。今年リリースされたフィメールR&Bのアルバム、何より人間宣言後の宇多田ヒカルのアルバムに比べるとしっかりどこか洗練されていない印象がある。とはいえ、逆に言うとこのレベルの作品を作った上で伸び代しか無かったのが異常だ。私が修学旅行で「本当にはいてない安村」という演芸を披露して1日だけクラスのヒーローになってた年齢で「時間がたてばわかる Cry」なんて歌詞を書くなよ!
みせざき
最初はあまりに斬新なビート、クリアさとこの表現力ある歌声との兼ね合いが掴みづらかったが、跳ねるようなビートとボーカルの言葉の絡み合いに徐々に納得・感嘆できました。歌謡曲だけどバックを漏れなく最先鋭で塗り固めるという心意義の強さのようなものを感じました。そしてファンクやクラブなど多方面のサウンドもまとめ上げる幅の広さも宇多田ヒカルならではのものだと思いました。
和田醉象
幼い頃、本当によく椎名林檎と宇多田ヒカルを親から聴かされていたんだけど全く覚えていないし、それこそ音楽を聴くようになってからこの両者は結構苦手なものとして意図的に避けてきた過去があった。
それを15年越しに再度聴いてみたわけだけど、「あっ、これお前だったのか!」の発見だった。
私は主体的に音楽を聞くようになるきっかけがマイケル・ジャクソンだったんだけど、初期というよりかはBad以降の中期、Invincibleみたいなキャリア末期のアルバムが好きで、特に「I Just Can't Stop Loving You」や「Speechless」みたいな、音像に余白があるバラードに特別な感情を抱いて無視できないことがあった。長らくこの2曲との出会いは初めてのものだと思っていたんだけど、実はもっと運命的なものだった。「First Love」に好きになった理由のすべてがあった。よく見知っていたからこそ特別な感情を抱いていたんですね。これこそ音楽への「First Love」、なんちゃって。
他にもEXILEのTi Amoをカラオケで歌っている人を見て「なんか聞いたことあるな」と思っていたら原型が「Never Let Go」にあったり、と自分の経験と結びつけがちで、あんまり音像に対する正確な感想が今すぐ持てないかも。(正直たった今の自分の好みにはあまりそぐわない内容ではある。)
こんなに自分の中にあるアルバムを再発見できたのは良かったけど、それがこういう趣旨のランキングに乗っていることに違和感もあり、「あ~」と列車の外に顔を出して言ってみたくなる。
渡田
ユーミンの「ひこうき雲」ぶりに、若者による完成された作品に圧倒された。
それも印象的なメロディやサビ、歌詞によってではなく、あくまで派手すぎない繊細なフレーズによって惹きつけてくる。これは妥協のない作詞作曲が行われた証左だと思う。
これが15歳の女の子による作品となると、同い年の時に聴かなくて本当に良かったと思う。20歳のユーミンによる「ひこうき雲」に対しては、まだ天才少女に対する憧れや嫉妬心を持つこともできるだろうけれど、「First Love」に対しては、嫉妬の芽生える余地もなく、もう音楽をやろうなんて思わなくなるかもしれない。
次回予告
次回は、椎名林檎『無罪モラトリアム』を扱います。
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