イエロー・マジック・オーケストラ『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』(1979)
アルバム情報
アーティスト: イエロー・マジック・オーケストラ
リリース日: 1979/9/25
レーベル: アルファ(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は5位でした。
メンバーの感想
The End End
聴き過ぎて、好き過ぎて簡潔には語り切れないので、「ライディーン」の話だけする。
首都高を走りながら、できればお台場側からレインボーブリッジを渡りながら「ライディーン」を聴くのが大好きだ。その間だけ、周りの景色すべてが“1970年代末に思い描かれていたアジアの未来都市・東京(トキオ)”になるのが本当にたまらない。3年ほど前にそのようなタイミングで聴いて“、ああ、わたしは今YMOが想像していた未来の東京に生きているんだ…!”という高揚感と、完全に斜陽の国の首都と化した実際の姿とのギャップに対するやるせなさとが混じり合って、他では感じたことのない興奮を覚えたことが強く印象に残っている。
そして、この曲はまだ見ぬ未来の(さらに架空の?)東京を描いたものなのに、同時に大陸の雄大な草原を馬が駆け抜けていく景色も浮かぶのが凄まじい。中沢新一も言っていたように、シンセサイザーのシンプルな波形は、芸術や文化以前に在る生命の原初的な部分とダイレクトに接続し得るものだと思うし、わたしたちをどこへだって連れていってくれるものだと思う。
桜子
ほとんどインストなんですけど、聴いた人が歌える主メロがある曲が多いのが良いですよね。
テクノに大衆性を持たせつつ、耳の肥えたリスナーからも好まれ、テクノの入口になっている要因の1つだと思います。
ドラムが淡々としてて、そのグルーヴも好きです。
湘南ギャル
最近イタロディスコを聴いていたんだけど、それと近いサウンドに感じる。ドイツもそうだけれど、戦に弱い国がテクノに強いのは偶然なのか、なにか理由があるのか、ずっと気になっている。
YMOの話をすると、RYDEENのフュージョンらしいメロディアスさが苦手で、少し避けていた節があった。杞憂だった。淡々としたビートだけど、どこかキャッチー。とっつきやすいのに、飽きがこない。シンプルなのに、遊び心がある。嬉しい矛盾に溢れた作品だった。
しろみけさん
もっと人間らしくなく、そして動物らしく。「TECHNOPOLIS」のスラップ、「RYDEEN」で遠くに聞こえる馬の音、「DAY TRIPPER」のギターソロ…。少なくとも自分の耳が惹かれたのは、そういう動物的な逸脱を孕んでいる部分だった。「YMOは機械的なグルーヴを追求しつつも、結局は人間らしいグルーヴに回帰する特異な3人組」という了解が形成されるのもわかる。
芸術における人間らしさとは?という問いを立ててみる。その点、YMOは人間←→非人間ではなく動物←→非動物というスケールを採用しているような気がしてならない。もっと人間らしくなく、そして動物らしく。そういうワイルドネスの獲得の過程を、私は便宜上「芸術」と呼んでいるのだなと、アルバムが再生されてから終了するまでずっと考えていた。
談合坂
上手く表現する言葉が出てこなくて嫌な言い方になってしまうけど、俗っぽい(大衆的、というのもまた何か軽いような気がする……)人間臭さがなによりの魅力だと思った。溜めも焦らしもなくて、トランス状態に招き入れるようなこともなくて、あくまでもポップとして聴かせているところが強みなのかと。
デイトリッパーが今っぽ過ぎてやられました。
葱
親は結構YMOのことを好きだが、いかんせん音楽のインプットが80年代で止まってしまっているのでYMOを「今聞いても古くない」という言葉でその魅力を説明する。言いたいことは分かる。今作を聴くとかつてのリスナーが衝撃を受けたであろう衝撃が立ち現れる。本作以上に洗練された音作りやパッケージングがなされた作品は多くあるが、ここまで異形さやいい違和感を生んでしまった作品はないだろう。東洋的なメロディーと西洋的なシンフォニーが少々ぎこちないシンセサイザーの元で何故かここまで気持ちよく響くのか、不思議だ。これがバンドマジックなのだろう。
みせざき
テクノのメロディーの気持ちよさ、というのが全編通して感じ取れます。この旋律、口ずさめてしまえるようなメロディーが本作には十二分に発揮されているのがMJに目がとまるまでの普遍性を獲得できた理由なのだと思いました。続、、
和田はるくに
小学生の時にマイケルジャクソンが好きだった。代表作のスリラーに入るハズだったというBehind the Mask」には原曲があり、それは日本のバンドだ、ということでyoutubeで調べて聞いてみたことがあった。その時全くかっこいいと思えず、次のおすすめに出てきたP-MODELのSPEED TUBEを聞いて以来、私の人生はこの体たらくだ。
話が外れたが、ある意味私の音楽人生の岐路にあったアルバムである。だが、小学生にはこの内容はやっぱり重たいかもしれないなと感じる。今は余地ができて楽しむことができた。
ある意味、私の人生の転換期の一つになるかもしれなかったアルバムなのだが、ちゃんと通しで聞いたことがなく、「Castalia」は初めて聞いた。細野の映画サントラ的に考えると、この曲はBGMを作るあたりの手腕が出ているのだろうか。
今「Behind the Mask」を聞くとこっちの方がはるかにソリッドでかっこいい。
渡田
母が好きなアルバム。中学生の時に友人に教えてもらったそうです。母はこれをきっかけにデヴィッドボウイやJAPANや忌野清志郎とか色々な音楽を聴くようになったよう。
母は、もしあの時、あの子にYMOを教えてもらわなければ、クイーンもボーイ•ジョージも聴かなかったろう、JAPANや戸川純や他の色々も知らないままだったろう…と言うが、では世の中には…
本当は音楽を楽しむ感性を持っているはずなのに、それに適う音楽に出会わなかったせいで、自分に音楽のことを教えてくれる友人がいなかったせいで、一生自分が音楽好きだと気づかずに終わることもあるのだろうかとも考えてしまう。
しかし、今改めてソリッドステイトサヴァイヴァーを聴いて思うのは、こういう聴いた途端に、電流みたいに、一瞬で自分が音楽が大好きな人間だということを気づかせてくれる音楽があるならば、そんな不幸はきっと起こらないのだろう。
それに、こういうアルバムは水面下でこれを聴くべき人の元へ、自然とたどり着く力があるように思える。
私は母にこのアルバムを教えた同級生の気持ちがよく分かる。こういうアルバムは誰かに教えたくなる。こういうものを心から良いと思える感性を持っていて、それでいてまだそれを聴いていない、クラスのあの子にこっそり話したくなる。流行り物に興味がなくて、だからといって自分が何が好きかも分かってないようなあの子に教えてあげたくなる。
「私最近こんな曲を聴いてるの」「すごく変わってるけど貴方なら絶対にいいと思うはずだから聴いてみて」って言いたくなるに決まっている。
このアルバムがリリースされた時、きっと全国の中学高校で、私の母とその友達のようなやり取りが行われたと思う。自分の母を含め、当時このアルバムが出た時、一体どれくらいの子供が自分の音楽好きを自覚したのだろうか。
中学高校くらいの人間にとって、それまで考えたこともなかった音楽の世界への冒険を呼び起こしてくれる強烈なアルバムは限られていると思うし、特別なものだと思う。
そういう特別なアルバムの一つが、『ソリッド•ステイト•サヴァイヴァー』なのだと思う。
次回予告
次回は、PANTA&HAL『マラッカ』を扱います。
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