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John Prine『John Prine』(1971)
アルバム情報
アーティスト: John Prine
リリース日: 1971/10
レーベル: Atlantic
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は149位でした。
メンバーの感想
The End End
近頃バンドのメンバーが"現実から逃げ込む場所としてポップ・カルチャーを好んでいる"というような話をしていて、それに関連したことをよく考えている。
彼女はいくつかの映画やミュージシャンを挙げながら"オルタナティヴな現実"とも言うべき世界を示してくれた。それは誰にとってもリアルでないから、それ故に誰にとっても逃げ場所として機能するように思えた。
方やノスタルジーというのは現実から逃げ込む先を過去の現実(大いに脚色されたものではあるが)に求める心の動きだけれど、その像をリアルな思い出として自分の中に持っている人にしか共鳴しないところに限界がある気がする。この作品の提示するノスタルジーに、残念ながら私は同化できなかった。
コーメイ
シンガーソングライターという括りでも、こんなに日米の違いが出てくるかというのが、今回のアルバムの感想である。日本だと、良くも悪くも水気があり、それを体感せざるを得ない。だが、今回のアルバムは、レコードジャケットにもあるように麦をずっしりと体感し、水分は何処へやら、水はどこにあるのかと探してしまった。温かく、だが乾燥した雰囲気についていけるようで、やっぱりいけなかったと思ったアルバムであった。
桜子
メロディが淡々としながらのんびりしていて、バックトラックも大きな起伏を感じ取れない曲があったりして自分には刺激が足りなかった......。退屈だけどじっとしなきゃいけない授業中みたいな気持ち......。
ただ、電車の旅とか、車窓で流れる景色を観ながら聴くのにはうってつけだと思いました。
湘南ギャル
悪い人じゃない、なんなら良い人なんだけど、特にこれ以上知る気が起きないなーみたいな人ってどうしてもいるじゃん。あまりにそれかも。これは自分の、物を面白がる能力が不足しているだけなんだけど、自分との共通点は見つからないし、飛びつきたくなるような相違点も探せなかった。会っても毎回天気の話をしちゃうと思う。
しろみけさん
これまでにも何度か登場したカントリー/フォークの様式なのに、エレピを入れるだけでこんなにモダナイズされるのか。冒頭の「Ilegal Smile」はまさにベッドルーム・ポップの先駆とも言うべき仕上がり。むしろギターを抜いた方が今のリスナーも楽しめるような予感がしている。「Paradice」のバイオリンや「Pretty Good」のファズギターなど、物々しく使っても良さそうなパーツを歌に干渉しないくらいの温度感でアレンジしてるのも面白い。
談合坂
カントリーと聞くとユートピアたる"あの頃"に居続ける音楽のように思ってしまっていたけど、あるルールにさえ則っていれば色々買い足してしまって良いのだというのを理解できたような。風景よりもフォーマットが世界の構築に役立っている。柄と数字の組み合わせさえ揃えばどんな絵柄でもカードゲームが遊べる、みたいな。語り口だってごくごく私的だし。ただただ遠ざかっていく古さとは違う、今日に至るカントリーの力場を見ていける気がする。
葱
Cat Stevensのレビューを行った際にも感じたが、どうしても英語の歌詞を軸にしている楽曲は一聴しただけではふわっとした印象しか得られない。けれど実際に彼の歌詞を読むといい意味で何か伝えるものがあるというよりは、彼らの目に映るもの、頭に浮かぶもの、記憶に残るものを小気味良くメロディに乗せた音楽のようで、英語を喋っている人でも初めて聴いた時の印象は変わらないのかもしれないな、なんて考えていたらアルバムを聴き終えていた。
みせざき
こんなに若いのに、どこからこういう達観視できる貫禄が生まれるのだろうか。きっと他の人よりもこの若さでも積み重ねて来た経験の密度が違うのだと思った。
「Sam Stone」はジョン・プライン自身が兵役を経験したことによる歌で、イエス・キリストの存在意義にも問いを投げかけながら、反戦へのメッセージを投げかける、詩の重さと愚直なメッセージが心に響いた。
六月
あまりにド直球なフォーク・カントリーなので戸惑ってしまった。Neil Youngさえ出てきている中で、これを聞いたとてどうすればいいのか。思わず、本企画における禁じ手の"わかりません"の一語で終わらせたくなるのをグッと堪えて、我慢して聞いてみるけれど、"アメリカの皆さーん!これのどこがいいのか教えてー🥲🥲🥲"というような気持ちになる。歌詞が特別なのだろうかとネットに載っている歌詞(探してみると、このアーティストは歌詞の和訳どころか、日本版のWikipediaの記事すらない、かなり日本ではマイナーな部類に入るミュージシャンだ)をみていると、本当に歌詞も、農村部に住むアメリカ人の生活を歌ったもので、これを極東の2001年生まれの23歳が楽しめと言われる方が無理だ、というどうしようもない断絶を感じた。本格的に何から何までそりが合わない、どうしようもないということもあるのだなと思う。
和田醉象
続けざまにカントリーを聴くことで、自分の音楽の趣味の守備範囲の狭さをつくづくと実感させられる。
現時点では、ジャンルとしてカントリーミュージックというものがあり、世の中に受容されている、という現実はよく分かるのだが、その中でも色々あるカントリーミュージックの善し悪しがわからない。
更にはスピーカーで聴いてもイヤホンで聴いてもあまりしっくり来ない。困ったもんだ。ハーモニカプープー状態で全く自分にウケない。
音楽面にはもはや触れまい。ここについて論じたり検証するだけの含蓄が自分にあるとは思えない。実際他のカントリーとの違いがあまりわからない。
音楽が纏っているのどかな雰囲気と違い、歌詞は全体的に陰惨だ。"現実から逃れる方法を探している"だとか"朝鮮戦争で友達を失った"とか。もう少し明るくなることを扱っても良いんじゃないかと思ったが、これがウケたんだろうかを71年頃当時戦争だったりで国内の雰囲気も冷たく、歌われていることに共感できる風土が整っていたのだろうか。だとしたら、かなり自分が思っているアメリカと違う。ずっと陽気な国だと思っていたから。
渡田
派手な演出のないまま曲を聴かせるのが、純粋なフォーク、カントリーとしての印象を強く残す。
綺麗なBGMとしての印象に乗せて、アメリカ人にとっての原風景を描き出す曲は、時代も国も違う自分にはちょっと刺さりにくかった。どこかに共通点の一つくらいあっても良いと思うんだけど……
次回予告
次回は、Led Zeppelin『Led Zeppelin Ⅳ』を扱います。
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