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T.Rex『Electric Warrior』(1971)
アルバム情報
アーティスト: T.Rex
リリース日: 1971/9/24
レーベル: Fly(UK)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は188位でした。
メンバーの感想
The End End
冗談みたいなサウンドで、今や(このアルバム時点では)オーセンティックになったロックンロールやブルース・ナンバーを炸裂させる。これがスタンダードなハイファイさを目指していたら、ビートルズとあまり区別がつかないのではないか?と思うほどソングライティングはポップで、真っ直ぐだ。
その真っ直ぐさを素直に目の前に差し出すことへの躊躇いがおそらくあり、躊躇いや恥じらいを誤魔化すために、目と耳を奪う装飾をまぶしてしまう。そんなグラムの"装い"に現れている過剰さという美学が、歌い方やギターのサウンドやドラムにかかるエコーの全てに昇華されていると思う。愛らしくて、美しくて仕方がないや。
コーメイ
今までのアルバムとは異なり、ヌルヌル進んでいき、なかなか捉えどころがないアルバムであった。この様子はまるで、アリスが気付けば、不思議な世界に迷い込む印象と同じ感じであった。ときどき"うわぁ、少しだせぇよ"となるときもある。しかし、ところどころ現れる鉱石が、なかなか癖になる。そのようなアルバムであった。
桜子
Oasisのサンプリング元って「Get It On」なんだ!!!初知りです!
歌声が、セクシーで良いですね。トラックはクラシカルというか、過去の色んな音楽を吸収してきたんだって思うけど、このトラックにこの歌声が乗るという事が、なんだか新しい事に感じます。
湘南ギャル
急に音像がモダンでビビる。テラハのメインテーマか?構成する音が少なすぎるわけじゃないのに、しっかりと交通整理されていてすっきり聞こえる。このスマートさが今っぽいのかな。元管楽器奏者としては、サックス入れてここまで馴染ませてくれるのがめちゃくちゃ嬉しかった。ギターとかベースとかと同じ階層に存在させてくれている。
しろみけさん
えぇ、ビートルズも親になったんだ。「Cosmic Dancer」のストリングスはもろにポールさんの使い方だし、その後の逆再生は「Tommorow Never Knows」で聞いたことがある。でも🍎はこんなにスネアを連打しないし、ハムバッカーのファットな音もついぞビートルズでは聞けなかった。あの4人のアンサンブルとは違うテンションが張り詰めてる。しかも「Get It On」みたいに、当時のリフ合戦でも戦えるような曲もちゃんと仕上げてる。恐ろしい。この人たちがどこから来たのかはわかるのに、なぜこうなるかがわからない。紛うことなき怪童。
談合坂
汚し方が好きだ。上手なウェザリング塗装が施された模型みたいに、作為こそ見えるけどそこにいやらしさみたいなものを感じない。ポップとロックを、それもとびきり上質に形作ってから、好きなように空気を濁らせて染めなおしていく、みたいな過程が見える感じがして良い。曲ごとに全然違う鳴り方をしているスネアにそこに重なるクラップその他、それにほとんどパーカッションになっているギターとか、レイヤーを何層も重ねて作られているビートもかなり楽しい。
葱
「20th Century Boy」の印象しかなく、アンプでギンギンに歪ませたハムバッカーの音が聴こえるのだろうと構えていたが、流れてきたのはロックンロールの反復の快楽と低体温なメロディーが微睡むように戯れる極上のポップアルバムだった。2曲目の「Cosmic Dancer」のようなストリングスのアレンジをここまで今っぽく仕上げるバンドだったのか、と驚く。歴史の流れの中に位置することがオリジネイターになれないことを意味するとしても、歴史を踏まえた真摯なコライトはタイムレスな名作を作ることに繋がり得る。
みせざき
退廃的なグラムのサウンドが展開されているが、ストリングスがそこに輝きをもたらしている。ボーカルが陽気そうに見えるがよくよく聴くと内気な感じがまた良かった。これを聴いても前向きにはなれなそうだが、理解しながら奮い立たせてくれる思いを抱かせてくれると思った。
六月
一発目から弩級にカッコいい。同じくグラム・ロックを生み出したDavid Bowieに似ている音だけど(ほぼ同時期だし)、Bowieのようなクレバーさがなくて、よりナード感があるというか、ひとりぼっちで引き籠っている時の、陰で妖しい、それでいて全能感あふれる無敵な感じがあって、なんというか、とにかく、すごく好きだ。弱虫なパワー・ポップ的なロックだけでなく、後の宅録的な空気はここからきてるのではと思う。別にTodd Rundgrenみたいに一人で演奏してるわけではないけれども、バンド音楽とは対極にある、"独り"を感じる演奏だと思う。
和田醉象
大袈裟でなく、小気味よいノリがずっと続く。横ノリというよりは縦ノリで、なんだかずっと盆踊りをしているような気分になる。拍手で合いの手を打ちたくなるんだ。それがブギーってことなのか?「Electric Warrior音頭」とか、中野辺りでやってそうだ。
それだけではなく、合間に挟まれるアコースティックな楽曲の美しさも素晴らしい。ボーカルもメロディラインも耽美的で、"グラム"という名称を付けられたのが納得いく出来栄えだ。
盆踊りっぽいなんて言ったけど、なんか全体的に高揚しきらず、その手前でお預けされ続けるような焦らしにハマる。憧れの年上のお兄さんやお姉さんにあしらわれ続けているみたいな。自分にとって敵わない大きなものを手に入れようとしているけど、絶対に手に入らなくて地団駄を踏んでいるみたいな。Marc Bolanにおれたち、あしらわれちゃってるよ!!
渡田
明らかに今までレビューした60、70年代の音楽とはルールが違う。音の雰囲気とかリズムとかの話ではなく、音楽に対する価値観が全く違うのを感じる。
今までドアーズやイギー・ポップ、ルー・リード、少し変わった人たちによって、こことは違う世界が存在することが断片的に示唆されてきたけれど……今回その世界の存在を確信した。奇妙な出立ちで堂々たるマーク・ボランは、秘匿の異世界の王様がやってきたようだった。
これは今の自分には追体験しかできないけれど、当時のどこかの少年にとってこれは非常に重要なアルバムだったんじゃないだろうかーー
ーー流行りの曲を聴いても夢中になれない、良いと言われているものを見ても心動かない。自分の世界に閉じこもる中、それでも何か面白いことが現実に起きないか密かに期待している人はどの時代にだっていたと思う。
そんな中、技術とか音作りとか構成なんかよりも、妖しさと煌びやかな演出こそ最上の世界からやってきた音楽が何もかもを裏返してしまったとしたら、どんなに衝撃だろう。
耳元で囁くようなマーク・ボランの声はそういう人に、まるで自分たちの世界への仲間入りを訴えているみたいに聞こえたと思う。この音楽は、そういう人にとっては自分だけに配られた秘匿の世界への秘密の招待状みたいだ。
ーー60年代、70年代の目まぐるしいロックの変遷に置いていかれかけていた中、ついに迎えの船がやってきた。
次回予告
次回は、Dolly Parton『Coat of Many Colors』を扱います。
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