Stooges『Fun House』(1970)
アルバム情報
アーティスト:Stooges
リリース日:1970/7/7
レーベル:Elektra(US)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は94位でした。
メンバーの感想
The End End
ヴェルヴェッツが教室の隅でノートにひたすら殴り書きしているのだとすると、ストゥージズには大声で周囲に叫び散らかすパワーがある。だけど、どちらも、多分同じことを言っている。
もうひとつ、印象に残ったのは、前作に比べて、より"ダンス"への目くばせを感じるビートであったこと。反復が生み出す忘我の快楽と、強制的に体幹が揺らされる快楽とを持った演奏だと感じた。そして何より、歪んだギターって最高だ!
コーメイ
"勢い・勢い・勢い"という印象のアルバムであった。というのも、ボーカルのイギーポップが、ライブのように飛ばしに飛ばしていたからだ。奇声は挙げるわ、訳が分からない言葉を発するわであった。けれども、それ以上に彼の持つ声の迫力が、聴き手にもビシビシ伝わってきたため、"ようし、こっちも聴いてやるぞ!"という態度を取らせた。このようなアルバムであった。
桜子
歌メロとか聴きやすくて、リズムアレンジとかも聴きやすいなあと思うものが多いけど、音像が特異だなぁと思います。歪みつつ、ボワボワしている音とか、雰囲気が唯一のもので良いなあと思いました。
湘南ギャル
ロックンロールは鳴り止まないっ状態になってる、2●歳だけど。頭の中をずっと駆け巡ってるよーー。早くこれになりたい。ネチネチしながらつんざきたい。
現在からの視点になっちゃうけど、こういうスタイルでやってるフロントマンが長生きしていることは嬉しい。こういう生き方と未来は共存しうるんだ。
しろみけさん
ヴェルヴェッツのだらしないノイズとは違って、リスナー諸共貫かれて死んでしまいたい衝動が制御不能のまま放たれているようで、勢いがまるで違う。BPMも単に早いだけじゃなくて、早くもしなくて良いような曲を急いでやってるからウケる。うん、早いっていうよりとにかく急いでる。
談合坂
倍音が共鳴しまくってどこまでも浮遊していくような力を生み出している。気がついたら体がドラムのパターンに追従して動いている。理解するよりも先に、そういう感覚的なところから前に引っ張られていくような感覚がある。どっちも金属と植物でトゲトゲの音を出す楽器だしサックスとギターは似たようなもんだと思うが、そこにボーカルが同じほうを向いて加わっていることで一気に場が出来上がっている。
葱
パンクスというか、ハードコア味を強く感じる。その2つの分水嶺が何かはちょっと難しいが、怒りや苛立ちを重々しさや空間の拡張へ向かわせている感覚がある。特に「Dirt」はメンバーの奔放さが結果として不適な構成美を作り上げている。ワウペダルとリバーブ感を組み合わせたギターの音作りや不規則なスネアなど、ここまで見られなかったけども後によく見られる要素が詰まっていて、名曲だ。
みせざき
ストロークの気持ち良さ、疾走感の気持ち良さが出ていて聴きやすい印象を覚える。前作のような呪術的な匂いもせず一貫して真っ直ぐなサウンドなのも好みといえそう。とにかく聴きやすくてパンクの原型として放出されるエナジーが素晴らしい。
六月
これほどまでにブチギレている"という言葉が似合う音楽も珍しいと思う。私は初めてこのアルバムの3曲目に当たる「T.V. Eye」のIggy Popの咆哮で、初めてクスリをやっている人間はこういう感じなんだなということがわかった。とにかくそういうドラッグによる演奏への影響など、様々な面で極端な増幅がなされているので、ここで一旦バンド活動が終わるのも当然だなと感じさせる。こんな感じでバンドが長い間続いた方がおかしい。とりわけ B面以降の混沌とした演奏が大好きで、「Fun House」のサクソフォーンのロックへの入り方なんか、のちのJames Chance & The ContortionsとかのNo Wave界隈への影響も感じさせるくらいめちゃくちゃだ。そしてラスト曲の「L.A. Blues」は、もはや前衛音楽になっている。人間ラリるのも度がすぎると死んだり活動ができなくなるのだけど、そのギリギリでこんなものが生まれるのだな。そしてそんな音楽作った奴が2024年現在まだ生きてるという事実に、ロックの神秘がある。
和田醉象
サイケからアヴァンギャルドまで、のちのパンクの原型を作りきった一枚だと思う。逆に、ゼロベースでこれを作り上げたこの人たちが一番狂ってるんじゃないか?頭おかしい。
なかでもサックスのメンバーの参加はとても効果的だったと思う。アヴァンギャルドへの表現の拡張において、ギターとベースとドラムだけでは届かない領域にまで手を伸ばすことに成功しているし、ライブで聴いてるみたいな臨場感もあった。ただし、2回目以降聴いてもあんまりおもしろくなかったかな。今回久しぶりに聴いたから結構楽しめたけど、かなり荒削りな内容で、繰り返し聴くには個人的に堪えなかった。それならもっと後年のパンクアルバム聴いたほうが楽しいなと思った。
渡田
聴いていると変に集中する。精神が昂る。
穏やかな曲調から切り替わるように盛り上がる曲ではなく、淡々としたフレーズと地続きになったまま音楽が昂っていく。聴いていると、知らず知らずのうちに躁状態になりそう。
実際自分の精神が昂っていく時もこんな感じな気がする。勉強する時、運転する時、実際に音楽をする時……次で盛り上げるぞ、盛り上げるぞ、なんて考えることはなく、淡々としたペースをずっとこなしている内に、集中力が臨界して、気付かず脳髄が激しく回転していく時の感じ。
淡々としたビートが続く内、奇妙な集中状態になる。その張り詰めた緊張感がどう崩れるのか……恐怖と楽しみ……スリルがある。
自分もこんな音楽を作りたくなる。機械的なフレーズをどこまでも繰り返してど、その後自分だったらどう崩してやろうか……。衝撃的な演出をしようと企む、映画監督か漫画家になったかのような万能感が残る。
次回予告
次回は、Creedence Clearwater Revival『Cosmo's Factory』を扱います。