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John Lennon『John Lennon/Plastic Ono Band』
アルバム情報
アーティスト: John Lennon
リリース日: 1970/12/11
レーベル: Apple(UK)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は85位でした。
メンバーの感想
The End End
ドラムのサウンドが抜群に面白い。ステレオ感のあるキック、近くて柔らかくて短いハイハット/スネア、曲によってはごく短いディレイまで加わって、勝手に体が弾むように動いてしまう。
というか、ほぼ全ての曲で、ベースを除いた全てのパートに"馴染ませる"以上の用途のエコーもしくはリバーブがかかっているか、ダブリングが行われていて、とても面白い。ビートルズ時代にADT(Artificial Double Tracking=同じ音を吹き込んだ2本のテープのうち片方の再生速度を微妙に変えたり揺らしたりすることでコーラス効果を作り出し、擬似的なダブリング効果を得る手法)のアイデアを思いついてエンジニアに作らせたのもジョンだというし、ウェットな音像に対するこだわりがあるのかもしれない。フィル・スペクターの仕事を好んでいるあたりも、その仮説を補強する。
コーメイ
ジョンの内面に焦点を当てているため、大分重苦しさを感じさせるアルバムであった。アルバムジャケットからわかるように、今後活発になる社会的なメッセージというよりむしろ、内にあるものを外に出したいという印象を強く抱いた。そのため、聴いていて心苦しさを体感した作品であった。
しかし、ジョンの声とぴったりはまっている演奏が、今回アルバムを聴いた収穫である。このざらざら、いつ聴いてもいい。
しろみけさん
まず、ハッキリ言って、このアルバムで最高なのは🍎のドラム。なんか短いディレイがかかってて?な時もあるけど、とにかく「I Found Out」と「Remenber」が聞けて嬉しかった。音から能天気さが伝わってくる。
そして、歌詞。うぅ、ビートルズはジョンの叫びを受け止める器にはなりえなかったのかなぁ、、? この、シンプル極まりないアレンジが、ビートルズでやれた感を余計に煽ってくるのが辛い。いや、そうじゃないのはわかってる。「God」で捲し立てるようにあらゆるものへの不信を放った後、最後に“I don't believe in Beatles”と加えたのは、信仰の最深部に4人がいたからだよね?……それでも私、言うからね。ずっと4人を待ってる、って。
葱
アルバムが幕を開けたと同時に耳に入ってくる 「Mother」の叫びが、あまりにも切実で、幼さと諦めが同時にいるような様子に近寄りがたい物を覚えつつ、耳を澄ました。個人的には「I Found Out」のエッジの効いたディストーションギターの音がホワイトアルバムの「Happiness is a Warm Gun」の続きのように聴けた。「Love」とか「God」を代表にテーマを大きく示しつつもそれに負けない曲のスケールや懐の深さがあり、本当に真摯なソングライターなのだと思う。
みせざき
ビートルズの時には収まり切らなかったジョン・レノンの内面性が放出された内容で、そのどれもが叫びと悲しみを曝け出す歌声で届いていた。
伴奏は穏やかだが、歌詞は偽りない表現で、過去との決別も鮮明にした内容は過激なものだと感じる。
ある意味もの凄く純粋な作曲家として、そのシンプルな表現がジョン・レノンの魅力だと感じた。
六月
Radioheadの『Kid A』に衝撃を受けた中学1年生の私は、その制作時にThom Yorkeが参考にしていたというこの穏やかなジャケットのこのアルバムをまだサブスク前夜だったのでAmazonで輸入盤のCDをわざわざ手に入れ、早速聴いたのだが、もちろん全然違う音像なので、バチッとハマるような感覚はなかったのだけど、The Beatlesとも全然違う音楽だったのにも衝撃だったし、そこそこ感動する曲も何曲かあったりしたので、お気に入りのアルバムになった思い出がある。
その時から長い時間を経て、今改めて聴いてみると、The Beatles時代はあんなに自然に含ませていたのが嘘みたいに、これ以上ないくらい唐突な変拍子に乗せて"ママ行かないで"と絶叫する様は、狂気以外の何物でもない。だけれどそこまで何もかもを晒していくことによる感動というものもある。そのような作品は往々にして評価されがちだけど、決してそれをエンタメとして生半可に享受してはいけないと考えている。だからこのアルバムは娯楽作品ではない、Johnもそういうつもりで作ってないのだと思うし。
和田醉象
親や親友まで何から何まで失って一人になった空虚さを知ってるか。物々しい鐘の音から、一人部屋の壁に嘆いてるみたいなボーカル、それを見ているしか無い部屋の家具やら本たちの心情みたいな楽器隊のさりげなさ。Georgeのアルバムの充実具合と反対に、とても痛々しくてあんまり直視できない。声がひずみ過ぎだよ。殴られてる人みたいだ。
曲の仕上がりはかなり粗野だと思う。Johnが書いた名曲って言ってもかなりPaulにも助けられて作品になっていたんだと思う。(このアルバムと『Help!』を比べたらどうだろうか)アイデア自体は相変わらず冴えてるけど、アレンジとか無しで、尖りすぎていて、そのままお出しされると飲み込めないくらいアクの強さも感じる。
なんとかやってかなきゃという意思の強さも感じるけどそれ以上に吹いてくる向かい風を睨みまくって打ち消してやろうという肩の力の入り具合に強さを感じる。
渡田
サウンドはビートルズらしさを感じた。細かく聴くと違うのかもしれないけれど、何も知らないまま「I Found Out」とかを聴いたらビートルズの曲だと思ったかもしれない。「Love」なんかを聴いていると、ポールのコーラスが入ってきそうな予感がする。
一方、歌詞を調べてみると、こっちは全然ビートルズらしくない。共感を縋るような弱々しげなナルシシズムの魅力は、ビートルズの超然とした感覚とは違った。
四人でいたらできなかったことはなかったかもしれないけれど、四人でいたら言えなかったことはあったんだと思う。自分の弱い一面を見てもらいたい相手は、やっぱり仲間ではなく、恋人なんだろうと思う。
次回予告
次回は、Meters『Look-Ka Py Py』を扱います。