
ビートルズって初期のNewJeansみたいだし、ディランはTwitter Blue ——「或る歴史と或る耳と」RS編10週目を終えてのレビュワー座談会:前編
ローリング・ストーン誌「史上最も偉大なアルバム500」のランキングを年代順に聴き、数人のレビュワーが感想を残していく企画「或る歴史と或る耳と」。今回はその特別編として、ここまで30枚の名盤を評してきた参加メンバーたちが集合し、雑感やアルバムへの思いを語った座談会の様子をお届けします(参加メンバーのうち、「コーメイ」「桜子」「湘南ギャル」「和田醉象」は日程の都合により不参加)。
前編では大まかに1954~66年のポップミュージックの全体像について、気になった作品を足がかりにトークしています。
素材の味から録音芸術への飛躍
The End End:プレスリーくらいからビートルズ『Revolver』周辺が今回の座談会の範囲だね。
しろみけさん:音楽も進化したねぇ。
The End End:そもそもモノラルからステレオになったしね。この調子でいったら2024年はどんな音楽が流行ってるんだろう……。
しろみけさん:みんなが池田亮二みたいな音楽をやっている可能性があるな。
葱:最初のフランク・シナトラ『In the Wee Small Hours』が1955年で、ランキングは1966年まで進んでるね。
しろみけさん:1950年代が早足というか、本当はアメリカのジャズ黄金期なんだけどランキングとしては層が薄いよね。
葱:そもそもの話、この頃ってみんな音楽とか聴いてたのかな?
The End End:当時はラジオがあったからね。そもそもLP盤の普及が1950年代からで、それまでは収録時間の短いSP盤が主流だったんだよ。
葱:"アルバムで音楽を楽しむ"って文化ができたのがこの時代なんだ。
みせざき:あと、この頃ってコンピみたいなアルバムも多いよね。
The End End:そう、単なるシングルの寄せ集めみたいな作品もある。
しろみけさん:例えばロバート・ジョンソンとかは残ってる音源をとりあえずコンパイルしたってだけで、録音自体は1930年代だね。アルバムの概念が生まれる前の人ってことになる。
六月:あれはレコーディングしてた人がブルースだったりフォークが盛り上がり始めてきた頃にちょうど出した秘蔵音源みたいな扱いで。ボブ・ディランとかでワーって盛り上がってる時に、リバイバルみたいな流れの中で発売されるっていう。
The End End:まぁここまでのランキングを語るにあたって、基準になるのはやっぱりビートルズじゃないですか。というか、ビートルズ物語のためのプロローグだった。
葱:素材を楽しむ時代から“曲”を作るっていう意識に変わったというか。楽器と楽器を組み合わせて編集するっていう意識が芽生えていった時代なのかな。
しろみけさん:俺はザ・ロネッツに同じようなマインドを感じたな。ウォール・オブ・サウンドだね。それまでは聴き馴染みの良い作品ばっかりだったのに、"ポップスでこんなことしていいの?"ってビックリした。
The End End:ポップスが録音芸術になったタイミングだよね。
六月:そのタイミングから、自分の普段聴いてる音楽の解像度が変わったというか。この企画が始まるまでは教科書を真ん中から読んでて、足し算とか引き算とか習うのを飛ばしてるような感覚だったんだけど、ジャズとかを聴いて"みんな、これをやりたかったのね"みたいなのがわかるようになった。
渡田:それはわかるんだけど、僕の教科書は社会の教科書だったんだよ。原始時代とかやられても困るんだよね。"歴史の最初ってつまんねえんだよな"みたいな、早く平安朝とかの話始まんないかな〜と思って聴いてたね。
ディランは自分の世界にいる一番賢い人
渡田:当時ビートルズを聴いたとして、バンドを始めたかなっていうのはちょっと微妙なんだよね。シナトラで音楽やろうとは絶対思わない。多分、ジャズの人も僕は思わない。ビートルズで微妙に思う……かな?
六月:"俺だったらこれでもできるかな?"みたいなのを思わせてくれるレコードってそんなにない。
しろみけさん:ストーンズの『Aftermath』にはそれを感じたかな。有名曲も入ってるし。
葱:そうそう。なんかこう、ガーって掻き鳴らす感じは今にも繋がるように思ったけどね。
The End End:1950年代に生まれてたらアレでバンド始めるでしょ。
渡田:ストーンズか……それよりはボブ・ディランかも。ディラン聴いたら音楽始めてるかもね。ビートルズとかはあまりにも偉大すぎて、ちょっと違う世界の人というか、自分がこれから音楽やカルチャーを追求してもジョン・レノンとかポール・マッカートニーにはなれないと思うんだよね。ディランは自分の世界にいる一番賢い人、自分が成長しきったその先の先にいる気がするんだよね。
六月:"歌詞でこういうこと言えるんだ"ってなったのはディランかな。あまりにも言うことが多すぎるというか、文字数制限を解除したみたい。
しろみけさん:Twitter Blue?
The End End:“X”ね。
しろみけさん:はいごめんなさい。
アルバム良すぎ、マジで初期のNewJeansみたい
The End End:私はビートルズをスターウォーズ・エピソード4だと思ったんですよ。というのも、私ってこれまでビートルズをマジで聴いてこなかったんです。だから今になってプレスリーとかシナトラから聴いてるのって、スターウォーズをエピソード1『ファントム・メナス』から見てることに近いんじゃないかって。みんなエピソード4の、ビートルズ登場から聴き始めてるから、これからみんなが体感する"私はお前の父だ"みたいな衝撃が自分にはないんじゃないかって思ってるんだよね。
渡田:あぁ、まさにスターウォーズをそう見ちゃったんだよね。エピソード1から見始めたから、あんまりハマれなかった。
談合坂:僕も普段聴いてる音楽とは乖離してるものばっかりだったし、思い入れもないんだけど、好きな音楽の影響元は全部ここにあるから、そういうものとして楽しんでるかな。ただ、自分の観測範囲からすると、結構ビートルズ史観に偏ってる気もする。
みせざき:ビートルズに絞っても、「Please Please Me」とかが収録されてるアルバムは入ってないんだよね。すごい重要だと思うんだけど、そもそもこれがローリング・ストーン誌だからアメリカの見方に合わせてるのがね……。
葱:NMEとかがやったら変わるのかもしれないけど。
しろみけさん:ビートルズに関しては、私は(レビューにて)絶賛降霊中だからね。当時のファンが完全に降りてきてる。絶対にジョンは呼び捨てで、ポールは"ポールさん"って呼ばれてる。リンゴはエゴサ避けで🍎の伏字になってる、それで私はジョージくん推しだからね。
六月:アーティストに対するファンダム的なものが生まれたのもビートルズ辺りだよね。
しろみけさん:萌えを感じるんだよね。シナトラからランキングが始まって、その時は相対する感じというか、ステージの上にいて歌い上げるスタイルだったのね。でもビートルズは「A Hard Day's Night」とか「Eight Days A Week」とかで俺たちを巻き込んでくれというか。当時リアルタイムであの曲出てたらもう全然違う聞こえ方だし、そもそもその売り出し方が斬新だよね。
The End End:そういう意味でウノコレ(注:宇野維正氏の愛称)氏って間違ってなかったんだなって。
しろみけさん:"初期ビー"ってこと?
The End End:マジでNewJeansって初期のビートルズなのかもしれない、俺たちが間違ってた可能性がある。
しろみけさん:てかビートルズって初期のNewJeansみたいなんだよね。
The End End:"アルバム良すぎ、マジで初期のNewJeansみたい"
【速報】ジャズさんモダン化のお知らせ
しろみけさん:一応聞いとくけど、ジャズについて書くときどうだった? 大変だった?
渡田:コルトレーンの『Love Supreme』だけ書けた、それ以外はダメだった。
葱:聴いてて気持ちいいけど、レビューを書けるかどうかは別なんだよね。
The End End:ジャズはこの年代で既に煮詰まりまくってるジャンルだからさ。1950年代の時点でモダンとかもう言い出してるでしょ? その前に歴史があってこうなってる訳でさ。
しろみけさん:ビッグバンドとかも含めたら大戦前から続いてるジャンルだしね。
六月:意外と現代のロックみたいな感じになってるのかな、1950年代のジャズって。
The End End:そうそう。"どうなっていくの、ここまで来ちゃったけど"みたいな。
しろみけさん:でも『Love Supreme』は、それを打破したと思うよ。演奏の様式だったら『Kind of Blue』とかはモードを確立したと言われてるけど、このランキングの流れで聞いて"わ!"ってなるのは『Love Supreme』かな。
The End End:抜群に鳴りがモダンだったもんな。ジャケもカッコいいしね。
しろみけさん:邦題もカッコいい、『至上の愛』ってね。あと『ジャズ来たるべきもの』とかも超良い。
The End End:『4人はアイドル』とかもね。でもやっぱり『ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』が一番すごい。
六月:煮詰まってきてるのは感じるけど、チャールズ・ミンガスはポップに聞こえたかな。頭でっかちって感じがしないというか。
The End End:そもそも、別に即興=ジャズではなかったじゃん。ビッグバンドでスコアがあって、それでみんなが踊るための音楽で、クラシックみたいに鑑賞するものじゃないっていう風に見下されてきたわけじゃん。だからそれに対してジャズも芸術としてモダン化してきたっていう。
六月:別にジャズに限らず、最初にもうだいぶ全部入ってて、そっからどうやって色を分解するかっていう。中に入っているものを分類して体系化していく流れがあって、どんどん細分化させていくというかね。
葱:それで言うとチャールズ・ミンガスはレディオヘッドへの影響があったり、ポストロックっぽさも既に入ってるんだよね。
The End End:ドラムの音がレディオヘッド的だった。タイトだけど空間がある感じ。
しろみけさん:だからトム・スキナーがドラムを叩くべきなんだよね。トム・スキナーでよくない?
The End End:その話で記事一本書かなきゃいけなくなるよ。マジで許せない……。
空気の情念 vs 逆再生
葱:ちょっと話が戻るけど、技術の進歩が同時にあったわけじゃないですか。最初は一発録りだったのが8トラックまで進化して。ビートルズが"曲を作る"っていう意識になれたのもトラック数が増えたからだろうし、右肩上がりに技術が上がってたからこそ楽曲の作り方と思考の変化が大きく変化したから面白かったかな。
六月:だからこそ、最初のシナトラは今まで聴いた音楽からは感じたことがないぐらい時代の空気が情報として入ってるようにも感じたかな。トラックがパラレルに録られてるわけじゃないから、空気が持ってる情念みたいなものがある。そこのマジックは薄れていくんだろうなって。
葱:単純にマイクと演者の間にある空気が録られてるよね。
The End End:『HOSONO HOUSE』が名盤なのって、完全にそうだからだよね。
しろみけさん:でもさ、そういうのから始まって『Revolver』の「Tomorrow Never Knows」でテープを逆再生するみたいな実験がポップスの中でも行われるようになったじゃん。シナトラが雰囲気あってカッコいいのはすぐにわかるけどさ、「Tomorrow Never Knows」をカッコいいと思う感性ってどうやって生まれたんだろう? ああいうのってなんでアリになったの?
渡田:あれに影響を受ける人がいないとアリにならないよね。
葱:"ビートルズさんがやるならOKなんだろうな"ってことじゃないのかな。
The End End:ミュージック・コンクレートっていうのは50年代ぐらいからあるじゃない、音楽じゃない(と見做されがちな)音を切り貼りして作るっていう。それって最初はポップスじゃなくて現代音楽の領分で、例えばIRCAMっていう電気/電子音楽を研究するための国立の施設がフランスにあったりとか、BBCとかの放送局が持ってる研究用の部屋とかで行われてたの。で、そういうとこと接点を持てるのって、やっぱりビートルズぐらいの存在なんじゃないかって。
談合坂:あと、直接の重要人物だったらレス・ポールとレオ・フェンダーじゃないですか? ギターなんてギブソンとフェンダーばっかりだし……あとリッケンバッカー。
しろみけさん:それも含めるとさ、バーズとかは技術と共にあるサウンドだよね。12弦のエレキギターで、コーラスみたいに聞こえるじゃん。
葱:そうだね。そういう感じで、どんどん実践していって、人間のイマジネーションと技術の革新が同時に起きて、色んな作品が生まれていったんですね〜。
The End End:話を終わらせにかかってるな、CM行けって言われたのか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
前編はここまで。中編ではメンバーのフェイバリット・アルバムについてお話ししていきます。