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Nina Simone『Wild is the Wind』(1966)

アルバム情報

アーティスト: Nina Simone
リリース日: 1966/9/16
レーベル: Philips(UK/NEZ)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は212位でした。

メンバーの感想

The End End

 素晴らしく抑制の効いたエモーション!大好きです。男声っぽさも女声っぽさも併せ持つ/使い分けることができる歌声も凄まじすぎる。
 アレンジは比較的アメリカン・ポップスの伝統に依拠したものが多いと思うのだけど、小さな空間を想起させる音像が、この作品を個人的なものに感じさせてくれている。私の近くで私に向けて鳴っているような気がする。

コーメイ

 とにかく勁い。この印象が、アルバム全体を通じて、感じられた。男性顔負けの声量、のびのびとした声色。大変失礼だけれども、和田アキ子を何倍も強化したようである。これらのイメージが、圧倒的に波のように襲い掛かって来た。そのため、最後まで、力感があり、聴き終わった後、元気が出るようなアルバムであった。

湘南ギャル

 私に向かって一対一で歌ってくれている気がする。雨に打たれ、惨めに家路を辿るとき、この世と私を繋ぐのはニーナ・シモンだけだった。聴いてると悲しくてたまらなくなる曲だってある。それでも彼女の歌声は、生きるために必要な光を暗い道に授けてくれる。なぜか力が湧く。本当にありがとう。

しろみけさん

 絵の具を使い分けるというより、水墨画のようにモノクロの濃淡で聞かせるような唱法。ともすれば金太郎飴のような作品になりそうだが、アレンジが一本調子じゃないので楽しめた。特に「That’s All I Ask」のボーカルのリバーブとか、全体的なスネアの深さとか、明らかにモータウン以降の演奏が気になる。「Either Way I Lose」とか、そのままブーンバップとして聴けるくないすかい?

談合坂

 詞のなかの言葉と言葉を結びつける歌唱の技術がすごい。単語の最中での間の取り方だったり、文と文をひと息で繋ぐ畳みかけ方だったり、ただ詞を見るだけでは絶対に伝わらないであろう"言葉"が現れてくる感覚がある。ピアノのトーンもその言葉に添い遂げてくれているみたいに聴こえてくる。

 かなりモダンな、豊かな部屋鳴りが醸し出す懐の広さがあるR&Bという印象。この企画の中でR&Bの"ブルース"の部分に触れる機会がたくさんあったけれど、吐息がインディゴブルーに染まってるような空気感こそがその本質なんじゃないか。

みせざき

 魅了されるボーカリストというのは自分の中で大まかに二種類あり、一つは誰もが持っていない特徴性を兼ね備え、技術的には劣るがその特徴性で押し通すようなタイプ。二つ目は確かな声量を持ちながら叙情的で説得力を持たせるタイプだ。ニーナ・シモンは明らかに後者だった。一見して特徴的で無い声に思えるが、伸びやかで存在感のある声で、失恋や、人種差別のような内容にも確かな説得力を含んで訴えていく。
 曲のバラエティも幅広く、スタンダード・ジャズナンバーのような曲ながらニーナ・シモンが歌うとフラットに一新されていくような新鮮さを覚える。「ライラック・ワイン」が特にそう感じた。

六月

 Nina Simoneの歌い方としては、他のシンガーのように張り上げたり、ある特徴が突出しているようなしてゆくような超高校級の感じではなく、極めてシンプルで、それでいてしっかりと踏みしめて進んでゆく歌い方と声だなあと感じた。だからこそ彼女のそばに行ってその歌声を聴くことができるような距離感で聴くことができるし、他のシンガーよりも力強さを何倍も感じられた。その彼女のヴォーカルと、これまで聴いたどのアルバムよりも息が詰まりそうになるくらいにシリアスな演奏とが相まって、そして何よりもメッセージ性の強い歌詞が歌われてゆく、この三位一体で、唯一無二の芸術品のようになっている。政治的メッセージを内包しながらこんなに深遠な芸術になるんだという気づきがあった。個人的には、今までこの企画で聴いてきたR&Bのアルバムで現時点で一番感動した作品である。

和田醉象

 どこか闇を抱えたアルバムである。たしかに明るい曲も入っているけど、暗い秋の夜道、落葉を音を立てながらザクザクと踏んで、一人で帰っていくような寂しさを感じる。
 その寂しさに対して笑いで吹き飛ばすんじゃなくて、真顔で向き合ってぶん殴り合ってるような力強さも感じる。悲哀を悲哀と説明するんじゃなくて"私はこうしてきた"と人生の含蓄を語ってくれているような。特に私はタイトル曲が好きだ。

渡田

 この企画の中でも特に力強さを感じる歌声だった。太い声ながら囁くような歌い方のパートは、淡々としているようで同時にゴージャスさも感じられる。
 彼女の無骨ながらよく通る声は、シャウトや大声よりも力強さを感じさせる。飾り気がない声とも取れるけど、むしろ飾る必要がないほど素材が占める部分が大きいのかと思う。この人は普段話す時もこんな声、こんな話し方なんじゃないだろうか。
 邦楽編にこういった歌声の人はいなかったと思う。
 聴いていて頼もしささえ感じる。

次回予告

次回は、Otis Redding『Complete & Unbelievable: The Otis Redding Dictionary of Soul』を扱います。

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