GEZAN『狂』(2020)
アルバム情報
アーティスト: GEZAN
リリース日: 2020/1/29
レーベル: 十三月(日本)
今回の選者は葱です。
メンバーの感想
葱(選考理由)
ミュージックマガジンが2019年以降に1枚選ぶなら何だろう、と考えました。「時代のムードを反映」「ミュージシャンの社会に対する姿勢を含む」「アルバムのテーマや一貫したムードが明確に存在している」ことを条件に考えた上で私が好んで聴いていたアルバムとしてGEZAN「狂」が相応しいと思い付きました。また、私はGEZANに対してどこか肯定しきれない部分を持っています。皆さんがGEZANをどう聴くのかが気になったのでこの作品にしました。
The End End
こんなに切実な作品、この企画では90年以降聴いてないな。近頃は世界にガッカリすることばかり沢山起こっているけど、こういう作品を作る人たちがまだいてくれている、その事実だけで少しだけ安心できる。
私もあなたもみんな、考えが足りないことはあるかもしれないけれど、それでも考えることをサボっちゃダメなんだと、改めて感じた。気づいてしまったことには、(自分を追い詰めすぎない範囲で)向き合わないといけないよ。だってもうこんな世界でできることは、"せめて諦めない"くらいしかないじゃないですか…
桜子
表現がカッコいいとか色々思うけれど、音がそもそもめちゃくちゃカッコいい。
トライバルみあるビートにエクスペリメンタルな音が乗っかっている曲聴いている時は奇祭に行っているみたいな気分になってワクワクする。
そして、自分では敵わないと思ってしまうような大きなものにも諦めていなくて、勇気もらえる。
ささやかな身の回りの幸福に気づけるからこそ、怒りを見つけられるんだと分かった。
俊介
リスナーに「どちらでもない」の選択肢を与えない、否応がなく「はい」と「いいえ」の極端な二択を迫ってくるこの作品を作ったアーティストの胆力には本当に驚く。
音楽を聴いてるだけのつもりなのにいつの間にか強く究極の二択を迫られてる。
自分はあくまで作品に対して「いいえ」を選択するけど、どちらを選んでもあまり関係ない。リスナーを二択に追い込んだ時点でマヒトの思惑は概ね達成されてる、多分。ほくそ笑んでる、多分。
この音楽に共感していた髪の長い友達たちはそろそろ浮いた熱から覚めて、散髪していき社会に溶け込む準備をはじめていってるけど、長い人生の一瞬だけでもこういう作品に本気で共鳴した経験は、近いうち、「東京」に上手く組み込まれる不本意の背広をも肯定してくれる気がしてくる。
湘南ギャル
こういう事をはっきりと口にしてくれる表現者がいる、という事実が何より嬉しい。マジで生きてるだけでゴミカスなことばっかで、もう何にも期待せず自分の身の回りのことだけ考えて生きちゃおうかなって思うことは正直結構ある。でも、そういう時にこういった作品に触れられたら、もう少しだけ踏ん張る力をもらえる。生きづらさや苦しみってものを、個人だけの問題、個人だけの責任として捉える視線が横行しすぎてる。その視線の先は、自分の時もあれば、他人の時もあり。もしそういう物の見方に心当たりがある人がいたら、この作品を是非聴いてほしいと思う。これは私の感じたことでしかないので、的外れな勧め方してる可能性はめちゃくちゃあるけど。でも、音だけ聴いてもすげえイカしてるから、後悔はしないはずだぜ。
しろみけさん
『狂』は、どこから再生しても途中である。BPMは100(もしくはその倍の200)に統一され、一定の速度で打楽器や声——歌声はもちろん、シャウトや呻き声、ディジュリドゥが幾重にも重なっている——の反復が繰り返される。どれもが遷移の途中であり、インターチェンジは用意されていない。もし、あなたがその始原を知りたいのならば、冒頭のタイトルトラックから再生するほかないだろう。
わがままな作品だ。『狂』が敷く導線は一方通行で、再生を止めない限り、赤い楽隊が進む方向へと鑑賞者は引き連れられていく。一言、それはアジテーションと言い換えられる。GEZANの危うさは、このインターチェンジを欠いたアジテーションから降りられない、存在の不正確さにある。包摂だとか普遍性だとかと親和しないものだとしても、それが誰かの不正確さとリンクして共鳴することがある。そういう光景だけを、このバンドは望んでいるのだろう。
談合坂
このタイプの音楽、今だいぶ輝いているように思うけどどういう系譜があるのかわかっていなかったところでもあるので、このタイミングで聴けたのはよかったです。
地面に叩きつけるようなアタックと平らに厚く広がる残響は、地下駐車場のようなコンクリート製の巨大空間を思わせる。暗渠とか地下鉄とか、あるいは下水道とも似ているかもしれないけど、そういう抗いがたい流れが存在する空間で言い表してしまうのは少し違うようにも思う。
滞留した熱気が、いつでも上ってきてやれるんだと艶々のビルにまみれた東京とかいう大都会の地上に大口開けて顔を覗かせている、その事実が必要なんだと感じた。
みせざき
反復性、緩急の付け方の中で、タイトルの通りとにかく困惑さと叫びを乗せるという、ありそうで今まで例が無いような音楽だと思いました。自分が心からタイプの音楽では無いけど、その斬新さがとにかく印象的でした。ただそんな中琴線を揺さぶるSoul materialと、また狂いに入る訓告の流れが特に印象的でした。
和田醉象
説教くせえ。しゃらくせぇという印象が私のGEZANの第一印象だ。いちいち指図してくる感じが嫌いだった。
だが、聞いているとそういう押し付けがましい感じからだんだん離れていって、その言葉がどんどん自分ごとになっていく。トライバルな雰囲気も相まって、何だが凄い様相になっていく。
このアルバムが出た頃に全感覚祭(急遽渋谷で深夜にサーキットスタイルで行われたやつ)に行ったり、この動画を見たり、マヒトゥ・ザ・ピーポーのゲリラライブに行ったりと思い出もあって、今聞いてどうこうというよりも、思い出すことが多い。そんなアルバムだった。
渡田
楽器の音はメロディを奏でているというより、リズムとループを激しいノイズと共に刻むことに終始していて、曲と曲の境も分からない。
激しくなってくるエフェクトが、暴風の吹き付ける音、軋む金属音に聞こえてくる。風の音、金属の音が空間の中で響いているのが、地下鉄のホームにいるような気分にさせる。すぐ目の前を電車が通り過ぎる時の轟音をずっと聞いているような感じ。
突然静かになったり、ゆっくりエコーしたりするところも、まるで電車が走り去った後のよう。
次回予告
次回は、みせざきの選出アルバムを扱います。