cero『POLY LIFE MULTI SOUL』(2018)
アルバム情報
アーティスト: cero
リリース日: 2018/5/16
レーベル: カクバリズム(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は70位でした。
メンバーの感想
The End End
“『Obscure Ride』に比べてこっちの方が踊れる!”なんて軽率に言う人になりたくはない(ほどこの作品のリズムは"踊れる"の典型から外れている)のだけど、それでもこの作品は踊れる…というより、身体が動く。これを聴いている間ずっと微動だにしない、あるいは移動に伴う動作しかしないことはとても困難だ。
オープニングトラックでは“かわはかれ かれはだれ だれかはわかれ(川は枯れ 彼は誰 誰かは別れ)”という言葉がポリリズムのようにループし、その後もシャッフルビートの3連符がそのうち2つを4分音符と捉えた4つ打ちへ変化したり、5拍子でシンコペーションだらけのリフが鳴らされたり、付点8分のフレーズをかすがいとして3拍子と4拍子が溶け合ってしまったり、他にも7拍子の曲や12拍子の曲や…4/4拍子と解釈できる曲なんて、3曲しかない。それでもなんだか、動かされてしまう。
ところで、私たちの鼓動の周期は個人と時と場合によって少しずつ違っている。歩くスピードだって違っていて、なんなら2拍子で歩いている人も3拍子で歩いている人もいるかもしれない。そして全員が違うことを考え、望んでいる…これをヒト以外にも拡げていくと途方もなく途方もないけれど、世界は巨大なポリリズムだとさえ言えるはずだ。
こうも複雑な、異なる複数のパルスが並行して流れている作品がこんなにも身近に感じられるのは、私たちが日々、果てしなく複雑なリズムの中で息をしているからではないか。なんでもタイトルに帰結させたくはないけれど、でも、あらゆる生命の営みで成っている世界を描いたリズムだから愛らしいんだろうな。
桜子
前回聴いたceroの作品より、自分達で新しいジャンルを切り拓こうとしている気概が見えます。1つの所に留まろうとしない人達はとても眩しく見える。自分も絶対そうなりたい。
確かに、前回よりもすごくカッコいいんだけど、好きかと言われたら首を傾げてしまう。正直、好きになれるのに時間がかかりそうだと思った。
俊介
リズムとコーラスのアルバム?ってくらい好きだった。聴いててなんどもこのままどこに向かうんだ?ってなる瞬間がとにかく多かった。
前作同様肉体性と踊りやすさが同居してて心地よい。ダンスミュージックの4つ打ち以外の正解をたくさん呈示してくれてる。
湘南ギャル
obscure rideは余りにピンと来ず、どのくらいピンと来ないかを懇切丁寧に説明するという逃げのレビューをしてしまったので、今回は真っ向勝負しようと決めていた。結果的に、そんな気負わずに済むこととなった。こういう作品、めちゃくちゃ好き!前作は、彼らが何から影響を受けたのかがあまりに想像しやすく、それなら元ネタ聞けばいいや、という気分になってしまった。(自分のこういう面が顔を出すたび、音楽に対してなんとコンサバティブなんだろうと失望してしまう。) POLY LIFE〜では、リファレンスの数が格段に増えているように思う。元ネタが少なければ、それは二番煎じになってしまう。しかし、元ネタだっていくつも集めれば、何を持ってきてどう組み合わせるかという選択肢は無限に広がっていく。折坂悠太の時にも似たようなことを書いたけれど、自分が気に入ってるもの全部やってやる!っていう貪欲さと、作り手自身の好奇心の幅の広さをこの作品にも感じた。一秒後にどこへ飛んでいくのかわからない音楽にはワクワクさせられる。そして、自由に飛んでいきながらも、我々が振り落とされないよう少しだけ手を伸ばしてくれる、その塩梅が優しい。
しろみけさん
どの曲にもリズムのレイヤーのようなものが用意されていて、明確な意図と実践の影が感じられる。かといって頭でっかちにならず、あくまで楽曲の一要素としてとどめられている。音数が絞られているだけに、楽器の一つ一つが互いに耳を潜め合いながら、各々の研究へと虚心坦懐に向かっている印象を受けた。
また、アルバム全体がリズムの実践を前提に進行しているからか、動的/静的が曲ごとに別れていた前作『Obscure Ride』とは違い、動的/静的の要素が一曲の中で共存している。例えば「魚の骨 鳥の羽」や「Buzzle Bee Ride」におけるローズピアノは動的なものの中の静けさを、「夜になると鮭は」のブレイクビートや「TWNKL」のフローは静的なものの中の運動を、それぞれ物語っている。こと音楽の分析において、複数の存在を認めるポリ性はとかく重要視されがちだが、一つの存在に複数を発見するマルチ性も、批評精神を吹き込む偉大な要素であると気付かされた。
談合坂
ラジオの技術では鳴り切ることのない音楽なのだろうけど、この音楽にはFMラジオで出会いたい。そうして未知の世界の広さに驚きを覚えたい。
聴きなおす時にiphoneの本体スピーカーを音量1にして流していたのだけど、それでもレイヤーの複雑さがはっきり見えていることに感動した。典型らしいものには何も乗っていなくても、枠組みを明確に示すことができる。そういうところがあるから音量1でもしっかり踊れるのだろう。
重い内容のようだけど、55分経った気がしないくらいすらすらと聴いてしまう不思議なアルバムでした。
葱
バンド感よりもDAW感が強い。音が互いに絡み合うというよりかはミルフィーユみたいに重なっている。不思議な立体感だ。以前YMOの感想文で「バンドマジックが生まれている」と書いたが、ceroはバンドマジックを偶然で終わらせず、完璧に統制して作品に落とし込んでいる。意図した違和感なのだろう。かといって体が反応する快楽に欠けているというわけでもなく、なんだかこのアルバムはめっちゃ踊れる。頭でリズム譜がパッと浮かばない瞬間があり、頭ではぎょっとする一方で体は勝手に音楽に合わせて動いている。この一連の動作を先導しているのが日本語ののっけ方で、「waters」は冒頭リズムの取り方が分からなくなるのにヴォーカルが入った途端曲のノリがぱっと分かる。一般的にリズムに合わせにくいと言われる日本語を巧みに使ったこの作品がこの企画の最後のアルバムだというのが良いですね。
みせざき
当たり前の感想ですが、前作より巧妙なリズムに特化されていると感じました。それはポリリズムだったり特定拍にフィルインを入れたりなど、リズムパターンの再構築を行っている感覚が随所に感じられます。ただ前回のObscure rideでも感じたような自然とノリに入り込めるような居心地良いフィーリングはそのまま継続されている為、聴きやすい作品にも感じました。
和田醉象
前作より結構好きかも。なんかオレオレ感は減って、オブスキュアな感触がする。リズムとかかなり強くなりましたね。
ボーカルはまだあんまり好きじゃないけど、要素が引っ込んだので結構聞きやすい。コーラスとからトライバルな感じして、好きですね。
渡田
前回の「Obscure Ride」と同じく、R&B、ファンク、ダンス…様々なブラックミュージックの影響を感じる場面が各所にあるのが楽しい。全編にわたる丁寧で穏やかなジャズの流れにのって、取り入れられた色々な音楽ジャンルの印象がめくるめく滑らかに移り変わっていく。
前回では様々なブラックミュージックが組み合わさっているといった感じだけど、今回はそれだけでなく様々なジャンルの音楽の、その境界が溶け合ってるような印象。
また、特別個性的な訳ではないが安定した歌声や、オフビートな音調を軸としたアルバムの統一感があったからか、多くのジャンルからの引用で魅せる音楽ながら、バンドとしての個性も確かに感じることができた。
次回予告
ミュージック・マガジン編は無事完走です!次回からは番外編として、各メンバーの考える"ここまでの100枚に1枚加えるとしたらコレ"というアルバムを扱っていきます。
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