相対性理論『ハイファイ新書』(2009)
アルバム情報
アーティスト: 相対性理論
リリース日: 2009/1/7
レーベル: みらいrecords
今回の選者はしろみけさんです。
メンバーの感想
しろみけさん(選考理由)
「このアルバムが入ってない!」とか「この文脈が抜けている!」とか、この100枚のリストを見て言いたくなる気持ちもわかる。その上で①100枚のリストに入っていても違和感がない②新規性がある③後年になって影響力を増している④(このリストで網羅されていない)ゼロ年代以降の作品 という4点を踏まえると、どうしても相対性理論を選んでみたくなった。サブカル汁を喰らいなさい。
The End End
あー、こんなの10代で聴いてたら絶対ドップリでした。自信がある。
『ハイファイ新書』とはいうものの、ミックスバランスがヤンキー過ぎる。ハイハット小さすぎウワモノデカすぎ、最高…パンチインが全然滑らかじゃないのも、微笑まし過ぎる。
ギター、ディレイの使い方もそうだし、音程の動かし方とかも迷ったらキモい方を選んでるんだろうなあという感じで、本当にシンパシーを感じる
説明過多な歌詞も可愛い。「フルネームで呼ばないで」まで言えばあとはわかるのに、「下の名前で呼んで」を重ねちゃうのがめっちゃ可愛い。
桜子
バンドなんだけど、まるで1人で、DAWとかで作っている近年の音楽のようだと感じました。ここまで音色や音像や新しさにこだわりつつ、ひとつのまとまりのあるものに仕上げるのはとても難しい事だと思う。
俊介
「あーこういう日常の切り取り方もあるのか」
こんなコメントは後出しジャンケンだし、コロンブスの卵ではあるけど、このアルバムまで辿り着いた人達はこのアルバムが描いてる生活を確かに経験したことがあると思う、現実の中であれ空想の中であれ、妄想の中であれ。
勝手に分かってる、覚知してるはずになってることばかり歌い上げられる気がしてるんだけど、やくしまるえつこのこの距離のある声で歌い上げられると、遂に自分がどこにいるかわからなくなる。宇宙に身一つで投げ出された感じ。
革命も、品川ナンバーのセダンも、学級崩壊のなにもかも遠い人生なのに、このアルバムだけは何故か妙に俺に近い。
湘南ギャル
しろみけさん氏とはなかなか趣味が合わず、座談会の度に殴り合っていたんだけど、相対性理論というチョイスには流石にハイタッチ。LOVEずっきゅんを1曲ループにして繰り返しの海に溺れたり、シンクロニシティーンを恋愛のバイブルにしたり(好きな人の赤い糸を見てウジウジするんじゃなくてちょん切っちゃうの、本当に最高。まあ詞を書いてるのは20代後半の男性だけど)、相対性理論には事あるたびお世話になっていたけれど、ハイファイ新書を通しで聴くのは今回が初めてだった。これまで持っていたイメージと比べ、少しメロディアスな方向に寄っている印象。ループによる気持ちよさで言ったら、他の作品に軍配が上がる。だが、ハイファイ新書に存在する空白の多さはかなり癖になる。完全な無音というわけではなく、ベースで何か鳴ってるんだけど、その上に乗ってるものの引き算がめちゃくちゃに上手い。その引き算を可能にしてるのはきっと、ギターの単音使いの上手さと、歌詞の内容と、そしてやくしまるえつこの声!それらは全て、第一印象は控えめで、それでいて長い間忘れさせてくれない。相対性理論の持つ武器を、我々が一番手軽に、そして間近に観ることができるのが、ハイファイ新書なのかもしれない。
談合坂
全体的に優しいけどジャリジャリしている質感が好き。
軽音楽部的なものに属していた人ならかなりの高確率で相対性理論を耳にした経験があると思うんですが、改めて聴いているとどのパートの人間もめちゃくちゃ自分事として聴けてしまう作品だなと感じました。サブカル的なことを抜きにしても、人々が各々のアイデンティティに絡めて聴きたくなるような作りをしているみたい。誰から誰へともなく、なんだか自然と聴き継がれる感じなんじゃないかと。
葱
今、神保町駅から大学に向かう中で歩きながら聴いていますが視界に映る景色が悪い夢のようだ。変な音楽。特にやくしまるえつこの歌の後ろでずっと鳴ってるドラムが凄い。めちゃくちゃ鋭くタイトな打点なのにタッチがソフトだから風邪を引いたときの夢みたいな妙にフワフワとした鮮烈さが映えるのだと思う。ゲゲゲゲロゲロゲロチューとか言ってる場合じゃないっすよまじで!
みせざき
叙情性のみならず、狂気性、暴力性までもを一つのバンドサウンドにパッケージさせているのが素晴らしかったです。ベースもR&B直系とも言えるようなグルーヴィーさがかなり強調されていて、エフェクティブなギターとの対称性も自然に引き込まれました。元々テレ東が好きでしたが他の曲もすぐ好きになっちゃいそうです。
和田醉象
すごい怖い。淡々とやばいことが起こっていることを語る口。前作「シフォン主義」にあったメルヘンさみたいなのは押し消えて、空気感だけ演出する音楽をバックに絞め殺されていく、サスペンスホラー的な恐ろしさ。(その時期の相対性理論しか知らなかったのですごくびっくりした)
一人の精神の不安定的なところがピックアップされているんだけど、喉元にナイフ当てられているけど、そこから動かない、寸止めの怖さ。
歌詞を見るとそこまで怖いことは言っていないんだけど、目の前にいる人がじつはそこそこやばいこと考えていることがわかってしまった、それを止める術がない、みたいなたじろぎに陥る。なんか催眠術かけられている気分!!
渡田
このアルバムの内容は作り話なのか、それとも確かに現実に起きたことについてなのか、聞けば聞くほど分からなくなる。矛盾しているようだけれど、歌詞を聞けば聞くほどその内容に非現実感と現実感の両方を強く感じる。
ドラムは淡々と裏打ちを続け、ベースとシンセサイザーの音は低音で緩く響いて、ギターやシンセサイザーの一つ一つの音は鳴り始めてから消え入るまでがはっきり分かる。そういった幽玄で静かな音を土台にして響く歌声は一際澄み渡って聞こえるから、よりその歌詞の内容が強迫してくる。
ここで聴く歌詞は、追えば追うほど奇妙で非現実的な内容なのだけれど、その中に確かに現実感を覚えるワードがあって、曲の中で描かれる奇妙な風景が自身のリアルと重なりかける瞬間がある。
聴くうちにその不思議なリアリティに囚われてしまって、自分が日々過ごしている現実の裏にも、非現実的で奇妙なことが起こり得るような気がしてならない。
次回予告
次回は、談合坂の選出アルバムを扱います。