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Santana『Abraxas』(1970)

アルバム情報

アーティスト: Santana
リリース日: 1970/9/23
レーベル: Columbia(US)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は334位でした。

メンバーの感想

The End End

 "歪み具合は右手のニュアンスでコントロールするんだよ!"と言ってくるオジサマ達が大喜びの演奏。というか、やっとその意見に対してそういうことか……と合点がいった。まあ、特にそうすべきとは思わないけど。
 かなりブルース・マナーに立脚しているのに全然汗くさくないのが不思議。

コーメイ

 万華鏡を見ているような煌びやかで妖艶な印象であった。とくに、アルバム前半は、おどろおどろしい箇所にきれいな音―たとえば、「Singing Winds, Crying Beasts」で民俗音楽の地を這うような音に、"しゃらしゃら"と清冽な音が加わるところ―が、聴いていて、幻想的な感覚を共有出来た。
 また、ルーツという大地を感じることはあったけれども、それが強すぎず、乾燥していた。これが、不思議ではあった。が、そのおかげで、しつこくなく、その大地にすんなりと滞在できた。

桜子

 これが全米一位獲ったのすごー。今の日本のチャートの耳で聴いたら、そんな事想像つかないもんねー。
 これは私の思い出だけど、死んだおじいさんが、リサイクルショップで組むトータルコーディネートがカルロス・サンタナみたいでカッコよかった。

しろみけさん

 ギターのトーンの鋭くなさというか、丸いハムバッカーの音がパーカッションをはじめとしたコンボ全体との調和を生んでいる。「Black Magic Woman」のソロで、サンタナの影に埋もれることのないラテンのグルーヴ感をドラムがハットで演出していたり、「Oye Como Va」でキューバン・ジャズを正面から取り上げたり、これまでのランクイン作になかったセクション内でのリズムの多様性がフィーチャーされている。とにかく耳が喜んでる。

談合坂

 物珍しいことをやってやりますよ〜みたいな気取り方が前面に出てくるような場面がなくて、とても好き。バンド名から勝手にギターを軸にその周りを広げていくような構造をイメージしていたのだけど、いざ聴いてみるとアンサンブルのリードを取る主体が滑らかに移り変わっていく様子がかなり聴き応えがあった。でもそんなことよりやっぱ音がかっこいいのが一番かも。骨太かつシャープな音色に貫かれていて気持ちがいい。

 変な音楽だ!この音の処理、合ってるのか……?と疑いながら聴いていたら、気がつくと見たことのない景色に連れて行かれ、それが綺麗なのか判別はつかないが、なんか凄いことは分かる。厳粛なルールの中で最も変なことをしている。発明の中で最もオーセンティック。

みせざき

 聴いていて全く古さを感じるどころか、何処か新しさを感じるくらいなのが驚きを感じる。ラテン音楽が不思議なくらい自然にロックとして溶け込んでいるのが改めて凄い。
 音数が少ないからこそ、ただのマイナーペンタの枠をはみ出した音使いなのは明らかに他のギタリストと異なるし、その器用さを感じる。「Oye Como Va」などは特にそれが顕著だし、練習教材になる。
 90年代以降のローリン・ヒルの名盤に参加していたりと、サンタナは変化に順応しながら、何だかんだ一番息が長いギタリストなのだなと思っている。

六月

 おそらく、アートワークや、非白人音楽のリズムが取り入れられていることからして、Miles Davisの『Bitches Brew』へのロックからの返答なのだろうなと予想がつく。それにしても単なる模倣ではないオリジナリティがあって飽きずに聴ける。Milesがアフリカに接近したのに対して、このバンドのリーダーであるCarlos Santanaの出自であるメキシコの音楽を導入している点で、同じゴールに向かって別々のスタート地点から走っているイメージを受けた。ちょうどこの二つの作品が発表された時期は東西の冷戦期と重なる。そしてその時代に"第三世界"と名付けられた土地とMilesやCarlosが発見した音が鳴らされていた土地は全く重なる。しかしそれらへの眼差しは全く異なっているはずだ。前者が(情けのないことにその実際の効力を失いながらも今の今まで続いている)覇権的な支配をしてやろうというあまりに傲慢で差別的なものであるのに対し、後者は今までにないインスピレーションを与えるものとしての興奮と、そして、それがルーツ的に既に自分の存在を構成しているという感情からくる畏敬(もしくは畏怖)の念を持った、理想郷的な見方をするものである。
 このアルバムを単なるよくあるフュージョン音楽として過去の遺物扱いするのは全く良くない仕種だろう。私は彼らが参照すべき音を発見した時のように、この音楽に畏れをなさなければならない。

和田醉象

 すげーつなぎ目な感じ。中途半端。それが偉大、好きなところ。ファンクもハードロックも民族音楽もゴスペルも南米っぽいのもちょっとずつ入ってるけどそれぞれの意識が立ちつつ、うまい感じ混ざり合ってる。この配合具合がたまらん。そのうえで、技術だけで前進してないからフュージョンみたいな行き着くところまで行ったみたいな行き詰まりもないし、とても聞きやすい。
 特に『Samba Pa Ti』が好きだ。曲が4分半しかないのがもどかしいくらい。

渡田

 音楽を聴く、というより音楽を体験する、という感じがする。民族楽器のようなパーカッションをBGMに、妖しいギターヒーローが現れるのが目に浮かぶ。主役と脇役がはっきり分かれている音楽で、尚且つ皆がその役割に忠実な印象。
 異文化的な印象だけれど、同時に分かりやすい。その文化への入り口になるような音楽だった。

次回予告

次回は、Curtis Mayfield『Curtis』を扱います。

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