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神聖かまってちゃん『友だちを殺してまで。』(2010)

アルバム情報

アーティスト: 神聖かまってちゃん
リリース日: 2010/3/10
レーベル: PERFECT MUSIC(日本)
今回の選者は渡田です。

メンバーの感想

渡田(選考理由)

 高校2年生の時、初めて音楽というものにリアリティと憧れを感じた瞬間、音楽が僕のものになった瞬間のアルバム。
 高校生の時、文化祭で軽音楽部のヒーローが弾くギターソロは見ているだけで目が回りそうだし、人前で自信満々に歌う女の子の気が知れなかったし、音楽は自分とは別の種類の人間がするものに思えた。それだけ音楽というものに対してリアリティを感じられなかった。
 この音楽は突然表れて、僕にも弾けそうなカッコいいギターフレーズと、普段はボソボソ喋る少年が無理矢理張り上げたような歌声と、自分の真心を曝け出すのを誤魔化しているような歌詞とで、ロックンロールを初めて聴いた時の衝撃を歌い上げていて…、この音楽だけが僕の現実と重なった。
 僕が今、かつて考えもしなかった音楽の世界を冒険をしていられるのはこのアルバムがあったからであり、このアルバムを聴かなければ出会わなかった音楽と、出来事と、人々とが沢山あると思うと、胸がいっぱいになる。
 かつてセックスピストルズがロックの行先を完全に捻じ曲げ、誰も想像がつかないものにしてしまったように、高校2年生の僕の未来を、全く別のものに変えてしまった28分。
 ミュージックマガジンの邦楽ベスト100の中には、聴いた人を音楽の世界への深い冒険に踏み出させる強烈なアルバムがたくさんあった。このアルバムもそうした特別なアルバムの一つに違いないと思い、邦楽ベストに加える一枚として選んだ。
 僕のように、このアルバムをきっかけに冒険を始める人はまだまだいると思う。ここで僕が推薦盤に挙げたことが、そういった人の元までこのアルバムが辿り着く偶然の道筋の一つになればと思っている。

The End End

 録音もプロダクションも、これっぽっちも良くないし、キーボードの音色も陳腐だし、メロディも歌い方もヘンテコだし、歌詞なんか半分くらい聞き取れないし聞き取れた半分のうち7割は何言ってんのか全然わかんないけど、でも素晴らしく素晴らしいや…
 それは変なことをしているつもりがないから、全部本気でやってるのが伝わってくるからで。だってウソをつかない人は信用できるじゃん。それだけで、好きになるには充分ですよ。

桜子

 冴えないやつが、冴えないままでいても、音楽を手にした瞬間、もがきながら生まれるカリスマ性。アンビバレントな輝き!1番かっこいいよ!
ちりとりのイントロが流れてきた時、てっきり私が適当に打ち込んだストリングスの音が流れて来たのかと思った!笑
 そこが良いんです!だから好きになれました!音もそうだし、マインドもそう。神聖かまってちゃんが作る、心理的な距離感の近さを感じられるからこそ、分かる熱情がすごく好きです。

俊介

 青春のルサンチマンをここまで赤裸々にさらけ出されてもシラケたりしないのはこのメロディの美しさ故か。
 このアルバムに限らず、彼らの作品はインティマシーと同時に、触れられないある種の神秘性がある。そのせいで、この系統のアーティストはかまってちゃんの後追いにしかならない。
 中学生の頃、周りと上手く折り合いつけてると勘違いしてる子がこのアルバムよく聴いてて当時なんか嫌だったけど、誰よりも先にの子の神秘に気づいてたのか。

湘南ギャル

 ロックンロールは鳴り止まないって曲があるのは知っていたけど、聴いたことはなかった。すごい。駅前のTSUTAYAさんでNirvana借りて、全然わからなくて、それでも次の日にはなぜかまた聴きたくなって、そんな高校生時代を鮮明に思い出した。他の曲でもそうだけど、感情が動いた刹那を切り取るのが上手すぎる。その瞬間だけ、思い出の中に戻ることができる。たとえ、それが存在しない思い出でも。あと、この作品の渡田さんの推薦文がめちゃくちゃ良い。こんなん絶対聴きたくなってしまうよ。

しろみけさん

 このバンドのことを考える時、頭の中にはいつだって物騒な映像が流れていた。脳内麻薬で塗ったくったような色遣いのMV、鼻水を垂らしながら叫ぶライブ映像、泥酔して暴言を吐いているニコ生のアーカイブ。田舎の温室育ちの中学生にとってそれは、あまりに恐ろしすぎた。同時に、素通りできない磁力が流れていて、YouTubeに齧りついて観てもいた。
 そんなこんなで「ロックンロールは鳴り止まないっ」や「23才の夏休み」を映像込みで記憶していたので、あえてそれを排して聞いてみる。思ったよりも優しく、聞きやすい。ピアノの音色が軽く、それがかえってバンドの中で埋もれずに響くことで、歪んだギターとの対比が綺麗にとれている。それは歌声も一緒で、あの苛烈な映像とは裏腹に、発声が柔らかい。ボイスチェンジャーを廃した歌声はどんなに綺麗か、少し笑えてくる。こんなことなら、あの時にYouTubeだけじゃなくて近所のTSUTAYAでCDレンタルしとけばよかったのに。

談合坂

 この前の相対性理論(というかやくしまるえつこ)もかまってちゃんも、リアルタイムだと少しだけ上の世代伝手になんとなく流れてくる音楽だったし、全然わからないものだった。まともに「Os-宇宙人」を聴いて『電波女と青春男』を見たのは高校、大学と進んでからの後追いだし、そこに小学生当時で出会っていても特に感じるものはなかったと思う。このアルバムも同じような感じで、今まさに「23歳の夏休み」がぶっ刺さるタイミングで聴いたことでやっとしっかり理解できた実感がある。まだ10代学生としての先があるときに聴いてもここまで行ききるのは難しいし、20手前で一時的に学園ものアニメを見るのがキツかったときに正確に向き合うのもまた難しかったと思う。
 樹脂製シンセ鍵盤の底付きが聞こえそうなピアノの音が好き。木製のキーノイズが聞こえなくたって良いピアノの音は良いピアノの音です。

 あぶないあぶない。中学生の時に彼らを聴いていなくて良かった。帰り道にこれを再生して、いつも気付いていなかったピアノの旋律の胸を掻くような調べに取り込まれていただろうし、ひねくれながらも愛を希求するようなもっと面倒くさい人になっていただろう。今聴いてもそんなあり得た過去に吸い込まれそうになるほどに求心力が強い。サウンドはかなり今っぽくて、ParannoulやquannicといったDAWを用いたヘビーシューゲイザーやハイパーポップと近い聞き応えがある。まだまだ聴かれ続けるだろう。

みせざき

 元々抱いていたこのバンドへのイメージに比べると、作品は割とソリッドだという印象でした。バンドサウンドは割と硬派で技量もあるので、ボーカルの疾走を上手くとどめるような役割も果たせていると思いました。正直今までの人生でここまでのトラウマとか恨みとか、自分に当てはめて考えられない(というかそこまでの経験をしていない)ので共感できるかは分からないですが、「凄くマジなのだと、本気なのだと、偽りが無いんだ」というのが直ぐに分かりました。そういうバンドは今では多く無いと思うんで凄く嬉しかったです。

和田醉象

 ギターの音がかっこいい!こういう視点でかまってちゃんを聴けて無く。これまで損した気分。
あとロックバンドというものにおけるピアノの大事さに気付かされた。バンド自体を聖的なものに昇華することに一躍買っていると思う。
 歌について、100%同意できるものでも無いけど、気持ちがわかってしまうのは、妙に自分を客観視できてしまっている点。
 例えば、仲睦まじいカップルがいたとして「爆発しろ」とネットミームで反射的に反応するのは何も考えていないというか、反射神経の話なんだけど、これを歌っている人って全然関係のないそのカップルを見て要らない嫉妬をしたり、自分のダメさ加減に無意識に結びつけてしまったり、そこから過去に遡り続け、自己反省の無間地獄に陥ってしまう。
 だから、自分のダメさ加減や嫌に思っていることを人に共有すると「妙に落ち着いてるね」「その精神状態でよく客観視できているね」と返されることがあるんですが、客観視というか、悲観視でしかなくて、ひたすら辛いんだよ。
 手に入れたいものなんて、本当に大したことなくて、実はそばにあるし、多くの人が手に入れているものでもあるのに、自分にだけはとても遠い。焦る。「あいつは俺のことを嫌っている」とありもしない人からの蔑視を感じる。また焦る。
 そういう精神構造があって、頭がなまじっか回ってしまって、1人の時間が多いから喋って発散することもできなくて困る。以上の例え話は私個人のことなんですが、こういう焦燥感をこの作品から感じました。

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