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「ラストマイル」、野木亜紀子の社会への眼差しが光る大傑作!



【概要】

「アンナチュラル」「MIU404」と繋がる
シェアード・ユニバース・ムービー!!

「アンナチュラル」(18)、「MIU404」(20)など数々の名作ドラマの演出を手掛け、丁寧かつ大胆な演出で視聴者の心を掴み続ける、塚原あゆ子監督。そして、同作品で脚本を務めた、野木亜紀子。さらに、その2作品で主題歌を務めていた米津玄師。ギャラクシー賞や、放送文化基金賞などを受賞するなど、数々の功績をのこしたこの最強チームにより、「アンナチュラル」、「MIU404」の世界と繋がるシェアード・ユニバース・ムービーが誕生します!
主演には、4度日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞した満島ひかり。
さらに、主演から脇役まで幅広い演技が高く評価されている岡田将生が出演。
塚原あゆ子監督作品に初参加となる二人が、映画『悪人』(10)以来14年ぶりに共演します。さらには、阿部サダヲ、ディーン・フジオカ、火野正平、宇野祥平、安藤玉恵、丸山智己ら、実力派キャストも出演。「アンナチュラル」「MIU404」のキャラクターたちも登場し、シェアード・ユニバースの世界を彩る、超豪華メンバーが揃いました。

(公式サイトより抜粋)


【あらすじ】

ブラックフライデー前夜、
届いた荷物は爆弾だった――
日本中を震撼させる4日間。

11 月、流通業界最大のイベントのひとつ“ブラックフライデー”の前夜、世界規模のショッピングサイトから配送された段ボール箱が爆発する事件が発生。
やがてそれは日本中を恐怖に陥れる謎の連続爆破事件へと発展していく――。
巨大物流倉庫のセンター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と共に、未曾有の事態の収拾にあたる。
誰が、何のために爆弾を仕掛けたのか?
残りの爆弾は幾つで、今どこにあるのか?
決して止めることのできない現代社会の生命線 ―
世界に張り巡らされたこの血管を止めずに、いかにして、連続爆破を止めることができるのか?
すべての謎が解き明かされるとき、この世界の隠された姿が浮かび上がる。

(公式サイトより抜粋)


【レビュー①】現実世界を投影した見事な社会構造

※以下作品の内容に触れていますが、核心的なネタバレはありません

日本を代表する脚本家、野木亜紀子をそう形容して異論を唱える者などほとんどいないだろう。
代表作を挙げ始めればキリがないが、TVドラマ「アンナチュラル」「MIU404」は彼女の作品群の中でも特に人気が高く、突出した傑作である。
「ラストマイル」はこの2作品と世界観を共有しているが、これらは全て野木亜紀子によるオリジナル脚本であり、さらに「ラストマイル」は彼女にとって初の映画オリジナル脚本となる。
それ故に本作では、社会問題に対して鋭く切り込んで来た野木亜紀子の作家性が思う存分発揮されているのだ。

映画の内容に触れる前に、まずは本作で描かれているテーマ、物流の2024年問題について軽く触れておこう。主にトラックドライバーの時間外労働が規制されることで起きる問題を物流の2024年問題と呼ぶが、それに加えてコロナ禍で加速度的に拡大したEC市場の影響を踏まえると、恐らく数年前に政府や専門家が懸念していた以上の混乱が生じているに違いない。
消費者の需要が増えれば輸送量が増えるのは当たり前だが、前述のように今年の4月から労働時間の規制が開始されたために輸送能力はむしろ低下する可能性がある。
消費者の需要を抑えるのは物理的に不可能である以上、その皺寄せは当然運送会社へと及ぶ。企業体力のある大手であればある程度の対策も可能だろうが、中小零細となると違法な手段を取らざるを得なくなる。そして、末端の作業員が疲弊し、過労死や自死へと繋がっていく。
これが物流の2024年問題の一端である。

さて、これを踏まえた上で映画の内容に話を移そう。
主な舞台となるのは世界的な規模で展開するECサイト・DAILY FASTが抱える巨大物流倉庫。言うまでもなくDAILY FASTはAmazonをモチーフにしている。
自社倉庫から発送された荷物による連続爆発事件が起きたことでDAILY FASTは混乱に陥るのだが、その混乱の煽りを喰らうのが運送会社の羊急便と、その委託先の佐野運送である。
羊急便は配送品の6割を占める取引先であるDAILY FASTには決して逆らえず、無謀な要求を呑むしかないが、その無謀な要求の矛先は委託先の佐野運送へと向かう。
まさに現実をそのまま投影したかのような社会構造が映画の中で再現されている。
本作が非常に面白いのは、主人公・舟渡エレナ(満島ひかり)がDAILY FASTのセンター長を務めている点である。つまり絶対的な上下関係が存在する取引先に対して無理難題を押し付ける、言わばヴィランのような存在なのだ。さらに主人公には何やら別の顔があるようで…と言うのはネタバレになるためにここでは控えるが、なかなか癖のある人物として描かれている。
この癖者主人公を満島ひかりが実に見事に演じている。満島ひかりの演技力を改めて思い知らされた。
ちなみにこの主人公に無茶振りをされる羊急便の営業所局長を演じているのが阿部サダヲ、委託先の佐野運送の配達員親子を演じているのが火野正平と宇野祥平のショウヘイコンビである。彼らにもきちんと見せ場が用意されているので乞うご期待。

連続爆発事件というサスペンス要素に満ちた本筋に対して、前述の資本主義然とした社会構造を背景に据えたことで、エンタメ性と社会派テーマが融合した実に重厚な物語が完成したのである。
しかしながら、野木亜紀子の脚本が本当に素晴らしいのはここからなのだ。観客でさえも息苦しくなるような社会構造をフィクションの力で転換させていく力強さが彼女の脚本には宿っている。
現実世界はフィクションのように甘くはないし、所詮虚構でしかないのだが、それでもそんな夢のような世界をみんなで実現させていこうと思わせる説得力がある。ネタバレになるため詳細は控えるが、本作の終盤における展開は本当に素晴らしかった。


【レビュー②】シェアードユニバース映画の可能性

本作が公開前から大きな話題になっていた最大の理由は、本作が「アンナチュラル」「MIU404」と世界観を共有するシェアードユニバース映画であるためだ。
「MIU404」は放送から4年、「アンナチュラル」に至ってはすでに6年が経過している。共に大人気作であるだけに続編を望む声は常に存在するが、残念ながら未だ実現には至っていない。実際のところ、「MIU404」の劇中に「アンナチュラル」のサブキャラクターが何人か登場しているのだが、メインキャラクターが登場することはなかった。
それだけに本作の予告編に両作のメインキャラクターが姿を見せたことに歓喜したファンは多かったのではないだろうか。本作の大ヒットスタート(初週3日間で動員60万人・興収9.7億円)はその期待の表れと言える。

※以下本編におけるシェアードユニバースの内容に少しだけ触れています

ユニバース映画と聞くとMCU映画、例えば「アベンジャーズ」のような作品を想像する人が多いだろうが、本作におけるシェアードユニバースはそれとは少し形態が異なる。
「アベンジャーズ」は各作品のメインキャラクターが一堂に会し、強大な敵と戦う物語だが、本作はあくまで各作品のキャラクターが同じ物語の中で独立して存在しているに過ぎない。もちろん各作品を繋ぐ橋渡し的なキャラクターは存在するが、メインキャラクターが交じり合うことは残念ながらなかった。
しかし、それは逆に今後に大きな可能性を秘めているとも言え、つまり野木亜紀子ユニバースにおける「アベンジャーズ」はこれから生まれるかもしれないのだ。その時こそ各作品のファンにとって熱狂的な祭りになることだろう。

さて、ややネガティブな言い回しになってしまったが、それでもやはりミコト(石原さとみ)や中堂(井浦新)、志摩(星野源)と伊吹(綾野剛)、その他のメインキャラクターの元気な姿がスクリーンで観られたことはファンとしては嬉しい限りである。
願わくば今回限りではなく、彼らの活躍がドラマの続編或いは真のユニバース映画の中で実現することに期待したい。



【最後に】

劇中にこんな展開がある。
DAILY FASTで購入した荷物が次々と爆発する事件が起きているにもかかわらず、人々の購買意欲は決して衰えないのだ。物流は決して止まらない。
連続爆発事件とは物流の2024年問題のメタファーでもある。明らかに異常な出来事に対して人々はどう向き合うべきなのか
現実世界においても2ヶ月後にブラックフライデーが控えている。
残念ながら政府は抜本的な解決策を用意出来ておらず、仮にそんなものがあったとしても現場の最前線にまで浸透するのはまだ当分先の話になるだろう。
しかしながら、消費者個人の意識を変えることは今すぐにでも出来るのだ。購買意欲を控えようと言うような話では決してない。
各々が、各々の立場で出来ることを地道にやっていくことが社会構造というシステムに争う術なのだと本作は示しているのだ。

先週末に封切りされたばかりの超話題作「ラストマイル」。
ぜひ劇場に足を運んで鑑賞してもらいたい。


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