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アルパイン登山ーMt. Olympus in Olympic National Park

先週、Olympic National Park (オリンピック国立公園)内の最高峰、Mt. Olympus (オリンパス山) に登頂しました。これほどキツイ登山は初めての経験でしたが、頂上からの眺めは素晴らしく、全ての苦労を忘れさせてくれるものでした。

この登山は The Mountaineers が提供したもので、リーダーとサブリーダーを含む6人のパーティーで、3泊4日のスケジュールで登ってきました。キャンプや登山の許可証などのルールは国立公園ごとに異なりますが、この Mt. Olympus 登山では登山許可証やキャンプ地の事前予約が必要です。他にも、クマやその他の野生動物、鳥類がテント内の食料品を漁りにくる可能性が大いにあるため、特別な缶や袋にいれて木から吊り下げるなどの対処が義務付けられています。また、大きいものをもよおしても、必ずキャンプ場にあるトイレを使用しなければなりません。トイレがない場所ではビニールにいれるなりして持ち帰るルールとなっています (少なくとも、Mt. Olympus 登頂を目指す人達は、それ用の特別なビニール袋を持参している)。

Mt. Olympus と Olympic National Park は、Seattle(シアトル)の西に位置しており、行き方や利用する入園口によりますが、シアトルからは5〜6時間ほどかかります。Olympic National Park は氷河を湛えた峰々の美しさや温帯雨林の静寂さだけでなく、海岸線の美しさも来園者を魅了します。もちろん、運が良ければクマを見るチャンスもあります。昨今は多くの観光客が訪れるため、公園入口で大渋滞が発生し、多くのキャンプ場(一部のトレイルなど含む)は事前予約が必須です。

1日目
Olympic National Park の西側にある Hoh Rain Visitor Center (Hoh、ホウみたいな発音) を7時に出発し、約23キロ先のキャンプ地を目指します。最初の約18キロは比較的平坦なトレイルを歩き、この間に登ったのはわずか300メートルほどでしたが、最後の約5.5キロで一気に1,020メートルの登りとなり、初日から過酷な登山となりました。実は当初のプランでは、このキャンプ地からさらに5キロほど上にあるキャンプ地を目指していたのですが、雨脚が強く、下山してきた人たちから蚊が猛烈に多いとアドバイスを受け、またメンバーの一人の体調もいまいち優れなかったため、予定していたキャンプ地を断念しました。予定では Martin Creek Glacier Meadow キャンプ場に宿泊するはずでしたが、実際には Elk Lake キャンプ場で初日を終えることになりました。この日は夕飯を早めに済ませ、テントを設営し、20時頃には就寝しました。

初日の『予定』行程。実際には Glacier Meadow キャンプ場ではなく、一つ手前の Elk Lake キャンプ場で一泊しています。
Visitor Center側は整備されたトレイル。
温帯雨林の巨木の中をひたすらハイキング
ビーバーが作ったダムだとか。
最初の休憩。夏場はこの小屋にレンジャーが詰めるらしいです。

橋上からの眺め。
素敵な小川や、小さなを滝をいくつか通過しましたが、写真を撮る余裕はほぼ無し。
Elk Lake キャンプ場にあった(避難?)小屋。雨を避けて夕食中。4人分の簡易ベッドもありました。
Elk Lake キャンプ場
近くで大木が倒れ、飛び起きたりしたのが、初日の夜中。

2日目
Elk Lake キャンプ場を6時に出発し、約8キロ先のベースキャンプ地を目指します。行程の約半分はトレイルを歩き、残りの半分は氷河帯での登山となり、標高を約1,100メートル上げます。初日に比べると体への負担は少なく、特に氷河や雪渓帯での風景に目を奪われ、夢の中を登山しているかのようでしたが、太陽が顔を出すと、そこはオーブンそのもので、ジリジリとした熱に水分も体力も奪われ、結局、登山には楽は無いようです。それでも、仲間とお互いをロープで繋ぎ、アイゼンやピッケルを使用しての登山は、プロや大学登山部に所属しているような人しかできないものだと思っていたので、まさか自分がドキュメンタリー紀行に登場する登山家のようなことができるとは、もう興奮と喜びが溢れました。ベースキャンプを張ったのは、標高約1,860メートルの地点で、CalTech モレーン(氷堆石の意味)と呼ばれる岩場です。記憶があやふやですが、CalTech モレーンの由来は、この近くに氷河を調査するための小さな無人観測所があり、60〜70年前、カリフォルニア工科大学(通称 CalTech、マサチューセッツ工科大学と並ぶ超名門工科大学)がここで調査をしたことに由来するようです。到着後はテントを設営し、その後はフィルターを使用して水の補給、夕食、ベースキャンプの側をちょっと散策し、翌日3:30の出発に備えて20時頃には就寝しました。

2日目:こちらはスマホGPSの実測。Blue Glacier に入ると、標識や(小石を積んで目印とする)ケルンなどは全くありません。赤線の終点がベースキャンプ地で、その周辺がCalTechモレーンです。
梯子を伝って崖を越えます
ガレ場の尾根伝いから氷河へとアプローチ開始
この一帯はBlue Glacier と呼ばれる氷河
先頭グループが氷河に到達。前方の山々の向こうに Mt. Olympus が聳えている。
氷河渡河のため、ロープチームの準備中。
準備完了
ロープチーム登山開始
オーブンの中を歩いているような熱さ!
ベースキャンプ側の湧き水で水補給中
夕食
Mt. Olympus の方角ですが、頂きは隠れています。
ベースキャンプからの眺め
3日目、この右手のなだらかに見える Snow Dome (スノー・ドーム)の尾根に向け、一気に登山開始です。

3日目
私は2:30に起床し、速やかに身支度を整えてテントの外に出ました。ベースキャンプは雲の中で、風はやや強かったため、長袖Tシャツ、フリース、パフジャケット(薄手のダウンジャケット)、そしてウインドブレーカーを羽織る必要がありましたが、それでも予想していたほど寒くはなく、本当に助かりました。その後、アイゼンを装着し、カロリーメイトのような栄養エネルギークッキーを無理やり口に押し込んで準備完了です。
3:30、ベースキャンプから、各自のペースで一気に Snow Dome と呼ばれる雪渓の尾根に向けて登山を開始しました。ここは斜面が急で、ロープチームでの登山では時間がかかると考えられたため、このセクションは『個人戦』です。私も仲間に必死で食らいつき、45分ほどで Snow Dome の尾根に到達しました。この尾根伝いに Mt. Olympus へとアプローチしますが、ここからは再びロープチームでの登山です。
途中で日の出を迎えましたが、雲の切れ目から朝日の輝きが差し込むくらいで、なんとなく薄暗い状況が続きました。その後、数回の上り下りを繰り返し、頂上の麓に到達しました。最後のおよそ40メートルは急斜面のため雪がなく、ロッククライミングで頂上を目指します。岩場自体は初めてのロッククライミングでも登れるような易しいものでしたが、安全のためリーダーがロープ(命綱)を設置し、その後、残りのメンバーも登頂を果たしました。
Mt. Olympus の標高は2,429メートルとそれほど高くはないにも関わらず、氷河や雪渓が広がる中を登り、その頂上からの眺めは素晴らしいものでした。頂上で1時間半ほど風景や登山の余韻を満喫した後、一気にベースキャンプまで下山しました。テントを撤収後、初日に泊まった Elk Lake キャンプ場まで戻りました。(オーブン状態ではあったものの) 氷河帯の下山は本当に楽でしたが、その後のガレ場 (岩だらけ) のトレイルはひたすら苦行でした。足の裏へのダメージが甚大で、疲労感よりも足の痛みでぐったりしながら、17時頃、キャンプ場へ到着しました。

3日目:スマホGPSの実測です。”Snow Dome" と ”Mount Olympus”のほぼ直線間を指して Snow Dome と呼ばれています。
Snow Dome の尾根にて、ロープチームの準備中。
束の間、夜明けを楽しんでいます。
もっとこの素晴らしい瞬間を撮影したかったのですが、登山優先です。
頂上の麓までもう少し。
この頂きが Mt. Olympus です。
頂上麓からの眺め。
他のパーティーがこちらに向かっています。およそ1時間半後くらいに到着。
頂上麓からの眺め。
サブ・リーダーがトラッド・クライミングを開始。実はこの薄っすらとした雪の下は、固い氷であったため、アイゼンを使っていても、岩との境まで登るのに一苦労。
岩と岩の間にプロテクションを噛ませながら、慎重に登っています。この後、私を含め、残りのメンバーが順番に山頂へと到達

遂に Mt. Olympus 山頂、標高 2,429 メートル!
蛇足ながら、私が登頂を果たした瞬間、先に登頂していた2人の仲間が『映画 ロッキー』のファンファーレで出迎えてくれました。

遂に山頂!
山頂からの眺め
山頂からの眺め
山頂からの眺め
山頂からの眺め
懸垂下降で下山開始
来た道をひたすら戻ります。日の出前から登頂を開始する理由は、雪崩を避ける、雪質が固い間に登る、などがあるのですが、この時点で9時頃だったと思いますが、既に雪質がまるで違い、もし、こんなに柔らかくなった雪の上を登っていたらば、とんでもないくらいの労力が必要だったと思います。
至る所でクレバスを目にしました。この幅は 20~30センチくらいなのですが、飛び越える(またぐ?)のにちょっと緊張します。少なくとも上からは底が見えませんでした。
ベースキャンプ直前、Snow Dome の尾根で一休み。後方に見えるのが Mt. Olympus です。実は、まだ体力が余っていた(?)残りの3人は、CalTech の観測所まで足を伸ばしました。なだらかな道で、10分もかからずに到着していましたが、私は余力ゼロで残り組でした。ちなみに、この2人はチーム道具の中でも最も重いロープを担いでくれていました。
ベースキャンプを撤収。もう一泊して、ここからの景色を楽しみたいと皆が言っていましたが、そのためには、その分の食料と着替えなどが必要になりますから。それと最大の問題はトイレです。実は、Hoh Rain Forest Visitor Center からMt. Olympus にかけてのトレイル・氷河では、大きい物をしたらば、持ち帰らなければなりません。キャンプ場には汲み取り式のトイレがあるのですが、一度、氷河帯に足を踏み入れるとトイレはありません。
下山準備完了
山々を仰ぎ見ながら、今回は下山中。
迫力ある氷河!
この景色を名残惜し見つつ氷河を後に
ここから Elk Lake キャンプ場まで続くガレ場やトレイル上にゴロゴロ転がる石に大いに悩まされました。
Elk Lake キャンプ場までの途中で見えた眺め。初日は雨のため、こんな風景が広がっているとは全く知らずでした。ただ、足の痛みが強烈過ぎて、もう写真を撮っている余裕は無しで、この一枚きり。

4日目
最終日は、Elk Lake キャンプ場を6時に出発し、来た道をひたすら戻り、12:15頃、無事に登山口まで戻りました。最後の8キロほどはふくらはぎへの疲労もきつかったですが、それ以上に肩の痛みが強く、他のメンバーも半分悲鳴を上げていました。最終日の写真はありません。もう疲労困憊で、登山口まで戻るのに精一杯でした。


最後に、今回の登山パーティーメンバーは、私が最年長の51歳、続いて40歳、32歳が2人、30歳、そして27歳の構成でした。さすがに20歳差は厳しく、チーム装備の分配では(ロープ、食事のためのストーブ、その他もろもろ)、私は軽めのものを担当しました。また、本当はロープチームの先頭や最後尾からだと、もっとカッコいい登山写真が撮れたのですが、登山ペースについていくのに必死だったため、ロープチームでは常に真ん中要員でした。


次回(今週末予定)のアルパイン登山記録も読んでいただけると嬉しいです。

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