ノーマスクノーライフ
時間に追われ余裕のないサラリーマン、
行き場を無くしたホームレス、
交差点で笑顔で走り出す外国人観光客、
怪しそうな仕事を必死に勧めるスカウトマン、
今日も渋谷は様々な人種や思想、背景が混在して成り立っている。
そんな中、
なにかを必死に伝えようと真っ直ぐ前を見つめる1人の男性が目に留まった。
白髪の眼鏡で50歳ぐらいであろうその男性は、
マスクをしておらず、
赤い文字が書いた真っ白のスケッチブックを
両手に掲げ、何かを世に訴えかけるよう
強い表情をして前を見つめている。
おそらくだが、
パンデミックが終焉を迎えようとしている
この世界で、日本だけがまだマスクを外さず
同調圧力なのか、気にしすぎているこの国に対する苛立ちを、
彼なりの表現で世に訴えかけているのだろう。
そんな彼の表現方法である
スケッチブックに書かれた赤い文字には、
「ノーマスク ノーライフ」
「マスクなんていらないぜ。」
一見そう書いてあると思ったのだが、
いや、正確に言うとそう思いたかったのだが、
「マスクなしでは 生きられない」
ノーマスクノーライフは、
マスクなしでは生きられない。
マスクがあるからこそ人生がある。
という意味で、
それは僕がどう解釈しても変えられない事実なのである。
そんな事も知らず、気づかず、
真っ直ぐに立ち、真っ直ぐな表情で、
真っ直ぐに自分の意思を訴えかける
その男性の姿のあまりの滑稽さに、
なんともいえない儚さ、脆さに、
美しささえ感じてしまっている自分がいる。
永遠に続くことのない、
消えてしまいそうなその瞬間、その時間を、
そんなことも気づかず盲目にただ信じる儚さ、脆さ。
美しさとは何かが少しだけわかった気がした。
今日も世界は美しい。
気づいたら僕は無意識的に、自分の感覚的に、その男性に話しかけて写真を撮らせてもらっていた。
なぜだが今日はこの東京、渋谷という街に
すごく救われた気がした。