ベトナム日記1
ベトナムに1人で行こう。突発的にふとそう思った。
昔から頭で考えるよりも先に感覚的に思い立つことがあって、
その瞬間から自分の思いつきにとてつもない高揚感を感じ、
それを実際に行動に起こさないと気が済まない。
ベトナムになにがあるかもわからないし、なにをしたいも特になかった。
ただ感覚的に行きたいと思ってしまったら行きたいのだ。そんな自分を止める自分などいないし、止めることなど出来ない。
一番安い便をその場所で予約し、一週間後の今日当日のフライトを迎えた。
その時点でも特になにをしたいかはなく、何者か分からない高揚感だけを頼りにベトナムに向かうことにした。
せっかく海外に行くのだから日本というものを出来るだけ切り離そうと思い、
携帯の設定を英語に変え、SNSは出来るだけ見ない。日本語は一切使わず
中学レベルの英語と、バイト先のベトナム人に教えてもらったいくつかのベトナム語のみで四泊五日のベトナム生活を味わうことを決めた。
六時間ほどのフライトを終えベトナムのホーチミン空港に着くのだが、
なにせ未だノープランだ。とりあえず近くにいたタクシーの運転手に声をかけ、
面白い場所ある?そこに行きたい。
とだけ伝え、運転手も二つ返事でOKとだけ答え行き先がわからない目的地に走り出した。
行き先は市場だった。
ベンタイン市場と呼ばれるホーチミン最大級の市場らしい。
カルバンクラインや、フレッドペリーなど偽物のポロシャツや下着が大量に安くで売られている。
財布と携帯だけをカバンに放り込んで出発した僕にはぴったりの市場だ。
さっそくこのベトナム滞在中でしか着ないであろうフレッドペリーの偽物のポロシャツを買うことにした。
値段を聞くと店員は150万ドンと言う。日本円で約1万円ほどなのだがそんなに高いはずはない。
もっと安くしてくれ。そう言うと急に15万ドン、約1000円で良いよと優しい目でこっちを見ながら一気に低い金額を提示してきた。
そうして1000円の偽物のフレッドペリーを買うことに決め、
店員に持ってた5000円札を渡した途端、
事件は起きた。
店員はお釣りを渡すこともせずそのまま裏路地へ走り出したのだ。
僕は必死に追いかけた。ベトナムに来てまだ2時間も経っていないのに
こんな展開になるとは想像もしなかった。
100メートルほどの裏路地を全力疾走しなんとかそのベトナム人店員を捕まえた。
捕まえた途端そのベトナム人は悪人を見るような目で僕に、
「ユー アー マフィア!!!!!!」
と言い放ってきた。
、、、。
「おまえじゃ!!!!!!!!!!!」
僕は伝わるはずのない日本語を全力でベトナム人にぶつけた。
機内で日本語を使わないと決心した自分を完全に忘れ、ベトナム滞在二時間にして一瞬で日本語を使ってしまったのであった。