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『天使は飛ぶ』
「私ね、お姫様になるのが夢なの。なんでもできて、なんでも聞いてくれて、好きな事いーっぱいして過ごすの。かっこいい王子様に手を引かれてダンスを踊って、かっこいい騎士に守ってもらって、一生楽しく過ごすの。素敵でしょ?」
『お前、昔からそういうの好きだよな。』
「あー、バカにしてる?女の子の夢をバカにしたら行けないんだよ?」
『いやだって、なぁ?』
「えー、ロマンがないなぁ、夢は持たなきゃ損だよ?ほら!王子様とかなってみたくないの?」
「ならないな。わかんねぇわ、あーゆーの。だってよ、国のこと全部任されて、少しでも不満があれば国民ぜーいんに叩かれて非難されて、そのくせ満足されたら褒めちぎられるんだぜ?つごーのいい人形じゃねぇか。あんなののどこがいいんだか。」
「はぁこれだから。もー、つまんないなぁ。」
『悪ぃかよ。』
「ううん。でもね、羨ましいの。だってさー、馬乗りたいって言ったら乗せてくれて、水族館とか映画館行きたいって言ったら連れてってくれて、それってすっごく幸せなことじゃない?好きなことが、好きにできるの。私にはさ、出来ないから。」
『、、、だったら、叶えてやるよ。お前の夢。俺が。』
「え?ほんと?頼もしいー。」
『ハイハイ。』
「んー、じゃあさ、私のわがまま聞いてくれる?」
『いつも聞いてるだろ。んで、何?』
「ここから連れ出して。」
『は?いやだって、それはお前。』
「いいの。みんな誤魔化してるけど、私、知ってるんだよ?全部。自分のことくらい1番自分が分かってる。だからこそのおねがい。最後のわがまま。」
『最後って。そんな事言うなよ。んな事言ったって、おま、死ぬぞ?なんで、』
「最後くらい、君と出会ったあの場所で、過ごしたいの。初めて君と出会って恋をした、あの思い出の場所で。最後だからこそそこに行きたいの。私は、きっともうすぐ死ぬ。でも、死ぬ最後の時くらいこんな狭い世界から抜け出して、広い世界で、好きにしたっていいでしょ?ね、おねがい。私の夢叶えてよ。私の王子様。」
『っ、、、ふーー。。
かしこまりました。我が愛しの姫。あなたの願いを叶えましょう。姫様、お手を。今宵は舞踏会でダンスを私と踊ってください。一夜限りの、素敵な一日をあなたに捧げましょう。我が姫よ、共に。さぁ手をとって。』
「えぇ。我が愛しの王子様。一緒にダンスを踊りましょう。最後のときを共に過ごしましょう。」
そう言って、差し出された手を取る。点滴は抜かれ、ピーっという音が鳴り響く病室で、2人の少年と少女が廊下へ舞い踊るように飛び出す。怒号と喧騒に揉まれながらも、2人は幸せそうに笑い、あの丘へと向かう。それは、囚われた姫を迎えにきた王子のように見えた。
『着いたぞ。だいじょぶか?』
「はぁはぁ。だい、じょうぶ。っ、、綺麗。」
『あぁ、綺麗だ。あの時と何も変わらない。』
「そうね。ね、あそこの木陰で2人ですわろ?あの時みたいにさ。」
『いいよ。ほら、おてをどうぞ。』
「あら、素敵。」
大きな大木の下に2人、肩を寄せ合い座る。
「懐かしいなぁ。あの時も、君はここでこうやって本を読んでた。つまらなさそうに。何故かその姿に私は惹かれた。」
『そうだったな。たしかお前は散歩に来てたんだっけ?寂しそうな顔してたな。その顔が目に焼き付いて離れなかった。』
「ふふ。だって、寂しかった。みんな気を使って大丈夫だとか何か言う事に大袈裟に感情表したりしてさー、こっちの方がしんどいんだっての。嬉しいけど、憎かった。なんで私が、あんたらは何も感じてないくせにって。」
『そっか。俺は、退屈だった。だーれも。興味なかった。俺に。家族は仕事仕事、学校はくだらない友情育む場、なんもかんもつまんなかった。』
「そんな顔してた。」
『なんか、お互い惹かれたんだよなぁ。似てるっつーか。』
「うん。似た者同士だった。そして惹かれあった。
今ではこんなに仲良くなって。嬉しいなぁ。幸せだなぁ。君に出会えてよかった。ねぇ。王子様。私の願いを、わがままを聞いてくれてありがとう。素敵な一日をありがとう。」
『こちらこそ。嬉しいよ、幸せだよ。君と出会えて。ありがとう。
当たり前だ、俺まお前の王子様、だからな。』
「うん。うん。これで心置き無くいける。ありがとね。私のかっこいいかっこいい王子様。大好き。」
『俺も、ありがとう。俺の大好きなお姫様。』
「おやすみ。」
『おやすみ。』
そういうと俺はキスをした。最初で最後のキス。それは涙の味がした。彼女は幸せそうに、涙を流し、笑っていた。俺の方に顔を預けて、寝ているようにしか見えない彼女は、静かに息を引き取った。