自転車の唄
7月3日。線香臭い初七日が過ぎて、気持ちも整理がついた朝、学校に行くことにした。朝起きて、ごはんを食べて、家を出て自転車に乗る。何も変わらない日常。交差点を渡って右に曲がると、長い下り坂になる。
そこで、あの人はいつも私の自転車の後ろに飛び乗ってくる。「免疫にいいから」「下り坂は漕がなくて済むから」と、最初はもっともらしい理由をつけて乗ってきたくせに、近頃ではただ飛び乗ってきて、私の両肩に手を置いて、そして下り坂が終わるときに飛び降りる。それがいつもの日常。でも今日は乗ってくる人はいない。二人乗りじゃないから、いつもよりもスピードの出ない坂道を下る。
だが、肩にはあの人のいつもの掌の感触を感じていた。少し温かくて、スピードが怖くて指が肩に食い込む感触。そこには誰もいないのを知っていたから、振り返らなかった。
坂道が終わると、普段はしないような手付きで、ぽんぽんと肩を二回叩いて掌が離れてゆく。さよなら。自転車のブレーキを甲高く軋ませて、道端に止まる。あの人にはもう二度と会えないのだと、ようやく、理解した。ようやく振り返れば、夏の空は透き通って遠く、朝の光は眩しかった。ただ、眩しかった。
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