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高峰玲人 拾遺集

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よくできました。💮
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#創作大賞2023

宇宙人のボケ封じ

宇宙人のボケ封じ

 俺が通う学校の、屋上のフェンスに幾何学的に切り取られた空は、今日も快晴。ベンチに上を向いて寝転んで、何もない青空をあくび混じりの涙目で眺めた。

 なにもない。平和である。

 過去の詩人は謳う、「世は平らかにして、残躯天の赦す所、楽しまずして是を如何せん。」鳥が囀り風は薫り心地良く頬を撫でている。足りないのは女の子の太腿の膝枕ぐらいである。平和だ。へいわだ。

 そう思っていた青空に、黒い点が

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鮭として、生きて、死ぬ

 幼馴染のメス鮭が水底に産室を掘る。それを他鮭事のように眺めていた。彼女の美しい靭やかな尾鰭は水底の石を跳ね飛ばし、自らを傷つけながら、こどもたちのために清らかな水の流れる安全な場所を作り出していた。卵を産み付けるための場所。我々が鮭として産まれてきた場所。

 太古から繰り返されてきた鮭としての営みを、鮭としての義務と権利を、我々は果たそうとしていた。

 婚姻色に鱗を染めて、彼女が俺を隣に招く

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夢の国、本日も異常なし

夢の国、本日も異常なし

 この仕事をしていると、一年に一度だけ、こんな日がある。娯楽施設の園長、金に汚い彼が気まぐれで始めた慈善事業の日。近所の福祉施設、病院、そんなもので暮らすこどもたちを無料で招く日には、夢をいっぱいに抱えた彼らが、わずかな小遣いを手にしてやってくる。親のいないこども、親と別れたこども、捨てられたこども、そして病を抱えるこども。彼らは一様に、無表情だがどことなく温かい笑みを浮かべた職員に連れられてやっ

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