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株式会社POP BORNの作品を2016年から追ってみた ーーポップの中に毒をひとつまみ
「天性」を「はじけさせる」POPBORN 我々はフリーのディレクターを中心に発足した映像制作会社です。 プロモーション/ミュージックビデオ、ドキュメンタリーから映画まで、幅広い映像メディアに 特化し企画ごとにスタッフィングを行い、日本全国まで足を運びます。 お客様に寄り添い丁寧に物作りができればと思います。
株式会社POPBORNは、吉岡純平代表取締役の元、UBUNAさんをはじめとした映像の専門家たちで作られた映像会社である。
以前よりとあるきっかけで、UBUNAさんの活動を見ていた私は株式会社POPBORNさんが制作される映像にも興味を持って行った。
しかし、POPBORNの映像を見ていく時には、少し戸惑いもあった。
映像制作会社の仕事は、基本的にお客さんがいる請負のものであり、必ずしも所属するクリエイターの持つ個性がそのまま表れたものではない。また、株式会社POPBORNのホームページにある動画を精査すると、お手伝いの形で映像制作にかかわった映像も載っていた。
簡単に言えば、「興味持ったけど、どこからみればいいのかわからない」状態になっていた。
そこで、このnoteではまず、POPBORNメンバー(特にUBUNAさん)の思想が濃く、かつ制作に深くかかわったであろう動画を選別した。そのうえで、それらの動画にどのような感想を持ったかを書いてみようと思う。
また、今回の動画は紹介とはしているものの、ネタバレを防いで書くのが難しいと考えたため、文章にはネタバレが激しすぎるくらい出てくる。気にされる方は先にご視聴してからの一読をすすめる。
またPOPBORN初見の方には、Netflixで見ることができる「サバエとヤッたら終わる」か、月ノ美兎『てんやわんや、夏』から見るのをおススメする。
悪食配信(2016) (R-15以上注意)
『悪食配信』はUBUNAのYouTubeチャンネルにアップされた動画であり、POPBORNの動画として挙げられている1作目である。60分の尺がある、中編映画作品である。
(ここから作品の大いなるネタバレなので注意)
この作品は、F●2生放送と思われるアダルト系生配信を密かに行う男まさやの物語である。冒頭からいきなり彼女であるりえとのセックス場面の隠し撮りの場面から始まる。
セックス後に切り損ねたまさやの生放送。そこには、りえがハムスターを食ってしまったかのような様子が映っていた。その日から生放送はエロどころではなくなり、まさやの彼女、りえがハムスターを食ったのか?にコメント欄もみんな注目し始める。
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まさやは、彼女に電話をして直接ハムスターを食べたのか聞こうとするが、彼女は、カレーに使っている肉を答えなかったりする。ハムスターはいなくなっていた。
そこで、まさやはデートをしてハムスターを食っているかどうかを突き止めることにする。ペットショップに入ろうと誘ったまさやが誘うと、いつのまにかりえは消えていて、無理やりペットショップからまさやを遠ざけさせて、クレープ屋さんに連れ込む。まさやはハムチーズクレープを頼む。
そのあと、りえのケータイ電話を覗くと、ハムスターのページが映りこんでいた。
クレープを食べながらりえの愚痴を聞いていたまさや。コメントは、彼女の母に彼氏がいるとか、愚痴が長いとか、彼女が嫌な女だというコメントで埋め尽くされる。その時に唐突に放送は切れてしまう。
次のハム食い日記5は、りえの家に突然まさやが凸するところから始める。りえに聞くことを考えてなかったまさやは、安価でコメントで聞くことを募集する。その時、ハムスターの鳴き声や籠が閉じる音がするが、りえは特になにも言わなかった。
りえが用事で外に出ると、まさやは家を調査しに入る。クローゼットを確認すると、なぜかハムスターのいないゲージがあった。さらに日記をコメントに見せ、下着をあさったまさやは変態仮面の恰好をして動画を閉じる。
次のハム食い日記13では、大学の授業中にまさやは安価を始めてしまう。
「急に大声をあげる」「講義中にセクハラをする」「理恵の●●を教える」など、相当なお下劣行為を行う。その結果まさやは教授につかまってしまう。
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ハム食い日記14では、まさやが学校を停学になったことが伝えられる。りえは、そのあとからまともに顔を合わせていないことがわかる。そこから、りえの人間像を考えたまさやは、りえがハムスターを養殖して食ってると断定。(ここで、コメントとまさやの想像で歪んだりえの映像が流れる)
そして、りえを家になんとか呼ぶことをまさやは決めて、電話をかける。その時の様子もすべて、まさやは配信していた。
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次のカットで、りえが暗闇の中でハムスターを見ている様子が映される。
ハムスターは落ちてきた酒瓶の下敷きになって死んでしまっていた。それからりえはハムスターの籠を2個持ち、注意して移動させるようにしていた。
最終回となるハム食い日記18は、いよいよハムスター事件の結末を解決を待ちわびる人たちが1000人近く集まっている。まさやは、すべてが生配信されていたことをりえに見せてしまう。
そしてりえを殴りつけて、まさやはりえを殺してしまう。
しかし、コメントの人々は、まさやの横にハムスターがいるのを発見する。
そして、まさやは殺人をおかしたまさやを責めるコメントに見せつけるために、ハムスターを口にする。
悪食な奴の真相を探る放送は、悪い奴がハムスターを食べる放送になった。
このように、脚本の筋書きを中心に見ていくと、徐々にまさやが人生を破滅に導いていく物語に見える。しかし、これは映像作品である。
物語以外にポイントと思われる個所を上げておこう。
この作品には、観客をただの傍観者に感じさせない仕組みがいくつか施されている。まず、ニコニコ動画風のコメントである。まさやがだんだんとおかしくなってしまった遠因の一つは、コメントたちの傍観者としての悪意がある。例えばまさやに変態行為をさせたのもコメントであり、何もかもを失ったまさやがハム太郎を食べようとしたのも、「コメントを面白がらせようとしたから」である。
その意味で、この映像は疑似F●2動画配信体験をさせつつ、いつのまにか観客に次の配信の期待を背負わせ、その結果悲惨な光景を見せてしまうという、なんか恐ろしい構造をしている。
画面の使い方や突然挟まれる謎の映像ギミックも特徴的である。UBUNA監督の映像には、時折人の顔を極端に変形してみたり、わざとらしくCGっぽい映像が挟まれることがある。
これらの小道具的な映像が、単にカッコつけるためだけではなく、F●2動画の独特の空気感や、キャラクターの気持ち悪さ、内面の悪さを表すのに貢献している。
さらに、配信用のケータイを使った映像は、クレジットに「飯田芳(まさや)」と入っているところからして、本当に俳優にとってもらったのだろう。すると、カットもなかなかできない難しい撮影だった可能性も高い。商店街でケータイを持ちながらの撮影となれば、かなり監督側が制御できないことも起きそうだ。
ケータイの置き場所や持ち方も絶妙で、ぎりぎり、りえの顔が見えない場所に置いてみたり、逆にPCで撮影することでカメラが固定化して、作り物じゃない感を演出している。
さきほど私は、「この作品について悪食な奴の真相を探る放送は、悪い奴がハムスターを食べる放送になった。」と書いた。でも正しくは、僕達鑑賞者も共犯者のひとりなのかもしれない。
路上組(2018)
『路上組』はUBUNAのYouTubeチャンネルにアップされた動画であり、POPBORNの動画として挙げられている1作目である。こちらも60分の尺がある中編映画作品である。
個人的な予想になるが、UBUNA監督がインタビューで言っていた「自主制作で映画を作っていた時の暗さ」が現れた作品の一つと思われる。
(ここからもネタバレ注意)
主人公のルキフェルは、30にもなってまだ路上でプロデビューを目指す、V系ミュージシャン。喋り方が変だとか言われて、路上を徘徊するファンからはおちょくられてしまっている。一方で、よくルキフェルを見ていたマコタケはそんな彼女に少し違う感情を持っているようだ。
オタクのマコタケは、アイドルのおっかけをやっていたが、ルキフェルの事が気になってSNSでも追うようになる。
ルキフェルは、家で90年代に流行ったようなヘドバン上等のV系の世界を夢見ているが、普段はカラオケ屋でバイトをしている。
DDRadioに勤める川崎は、総務部としてさえない日々を送っていた。そんな彼は古いCDの処分作業を行っていた。古い想いのこもったハガキを次々捨てていた彼はLuciferと書かれたCDを発見する。それを1枚捨てた彼は、そのCDが何枚も何枚も、とても捨てきれないほどあることに気づいてしまう。
気になった川崎はそのCDを聞いて、なんともいえない顔になる。そして結局LuciferのCDをまた一つ捨てる。
路上のミュージシャンを狙っているおじさんたちは、正直女の子たちの顔しか見ていないような話しばっかりしている。売れる売れないなんて、ネットの時代に路上で語っている時点で終わりと思っているようだ。
Luciferの事を気にしていたマコタケのケータイを見たおじさんは「あいつ35くらいなの?」「ババアじゃんw」とあざ笑っている。ナカタケはおじさんが残した残飯をTOWER RECORDの袋に詰めていた。おじさんは「あいつキモいよ」と言った。
総務の川崎は、パワハラを受けている制作部の社員を見つけてしまう。
その社員に届け物のCDを渡すと「これ大丈夫です処分してもらって」と言われてしまった。
ルキフェルは、偶然路上で「佳代子」という名前だった時代の知り合いに発見される。高校の時一緒だったゆいと名乗る女の子に話かけられる。ずっと歌手になりたかったんだよねと言われた佳代子は、涙が止まらなくなってしまった。
そこにあるのは東京の雑踏だけだった。
川崎は相変わらずCDを聞き続けていた。しかし、2017年のCDには明らかにルシファーの泣き声が入っていた。
「おおきくなったらかしゅになりたい」と書かれていた紙や高校時代の思い出が頭から離れないルキフェル。
一方で川崎は、CDを聞きすぎてメロディーが頭に入ってしまっていた。
ルキフェルの演奏はまた新宿で止められてしまった。さらに佳代子の母親が現れ、飯はちゃんと食べられているのかと心配する。佳代子(ルキフェル)は、音楽の打ち合わせがあるんだと嘘をつく。母との話の中で、佳代子は明らかに嘘を繰り返しついて、正月や兄の結婚式すら飛ばして音楽をやっていることがわかる。
その流れで、おじさんたちに「ラジオで自分の曲が流れる」と言ってしまう。おじさんたちは、お世辞で「才能あったもんなあ」「オーラがある」と言う。そして、ラジオの放送があるという嘘をまた、彼女は重ねてしまう。
川崎は、「自分には夢があるか」と言われているような気がして、うまく言葉が紡げなかった。
ルキフェルは、アイドルの女の子にも「ルーキー受かったって本当ですか」と聞かれてしまう。アイドルの子は、明らかに受かったのを怪しんでいるような感じで、ラジオ局がどんな評価をしたのかを聞いてくる。
ルキフェルは「私はすごいんだ」「みんなとは違うんだ」と、自分自身すらだまして「選ばれたんだ」という言葉を信じ込んでしまう。
ついに、家に帰ったルシファーの耳には、「おかえり」と帰りを待っている声が聞こえてしまうようになる。視界は真赤に染まり、ルキフェルは憧れの人たちの顔に自分の顔を張り付けてしまう。
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ラジオ局の人たちは、ルキフェルが営業に突然やってきたのを見て、「こまっちゃうなあ」「ああいう子はいっぱいいるから結局埋もれちゃうんだよね」と話し合っていた。
川崎の声で「誰のために?」「無理だ」「誰も聞いてないのに」の声が響く。ラジオ局の雑談を聞いて、川崎はそんなことを考えてしまっていた。
アイドルの子は、やっぱりルシフェルがラジオ局のオーディションに受かっていたと嘘をついていたことを見抜いていた。同じオーディションを受けた彼女は、ラジオ局の人たち人生楽しいのかなあともいう。
川崎は自分が言い訳ばかりであることに悩み始めていた。
オーディションに受かったと嘘をついたルシファーの路上には人が集まっていた。しかし、本人はそれが嘘だと気づいていた。そのせいで彼女は発作が出て、倒れこんでしまった。
マコタケは、ビニール袋に入った残飯の飯を食いながら、SNSでルキフェルの曲が流れなかったのを見る。おじさんたちやみんなが、ルキフェルの子を嘘つきとして罵りまくっていた。
ルキフェルの夢は壊れてしまった。
ルキフェルは、CDを送るのを最後にすることを決める。子どもの頃からの夢だったこと。頑張れという言葉をひたすら唱えて自分を傷めつけていたこと。そのことをラジオ局に送るCDに焼き付けて、送った。
そしてそのCDは川崎がまたもらっていた。
様子のおかしくなったマコタケは、ルキフェルに「まだアーティスト気取ってるの?俺みたいにわきまえろよ!」と訳の分からないことを言いながら、襲い掛かってきた。
ルキフェルは、いや佳代子はギターを投げ捨てて逃げた。
もうなにもかもどうでもよかった。
川崎は「僕にだってあったんだ」とつぶやいていた。すると目の前にあの、ルキフェルの曲を歌う女の子がいた。
川崎は拍手した。
正直言えば、個人的にこの作品が一番心にぶっ刺さった作品である。
『路上組』は、『悪食配信』やこれから見ていく作品群に比べるとポップな映像も、特殊な映像効果も多くはない。しかし、その分、役者の芝居を演じてもらうか、どう見せるかにスポットが一段と当たっている。
特にルキフェル役の小宮弘子さんの演技は、自分が嘘をついてしまった後のひきつったような笑いや、すべての嘘が明るみに出て、現実を突きつけられた後の慟哭の演技は、鬼気迫る様子が画面外に出てくるようにすら感じた。
この作品に出てくる人たちは、みなどこかしこで暗さを引きずっている。川崎は、何か夢を持って仕事をしている人たちにあこがれのような感情を持っている。ミュージシャン狙いのおっさんたちは、ぶっちゃけ顔狙いでしか路上ミュージシャンを見ていない。
そんな中でルキフェルはずっと夢を追い続けていた。その時に、川崎はただひとり、彼女の夢に気づくことができた。
ある意味ポップでも何でもない現実を直視した、一つの祈りのような作品。
おそらくはこの作品の元になった、新宿・渋谷・赤羽でのストリートミュージシャンのインタビュー風動画。
プラシーボ吉本くん(2019)
POPBORNのビジネスパートナーである、歌って踊れるアイドル吉本くんさんのPV。吉本くんさんの音楽は、多幸感にあふれたフレーズが繰り返される仕組みになっている。
そんな音楽に付け加え有られた動画は、ドギツイ明るいピンクと緑、黄色で画面作りが行われており、意味があるのかないのかわからないお宝鑑定団とか、お医者さんが現れたような描写が大量に詰め込まれている。さらに、それぞのオブジェクトの動きも、何か3Dじみていてぬるっとしている。
(^^)みたいな顔をした吉本が現れたりして、知らず知らずのうちにこちらは元気になっている。
【PV】四畳半を想う(My Room)(2021)
《四畳半を想う》は体験型インスタレーション作品である。
鑑賞者は四畳半の部屋を進んでいき、敷居を跨ぐ毎に、縮小した四畳半の部屋を体験する。部屋全体の大きさだけでなく、障子や畳も同じスケールで縮んでいく。一番奥にある4番目の部屋では、天井に頭がつき、身動きが取れないくらいにミニマムサイズになる。
『四畳半を想う』は、東京藝術大学の浅野ひかりによる体験型インスタレーション作品である。四畳半の畳が少しずつ小さくなっていくだけに一見見えるこのインスタントレーション作品は、おそらく実際に入って体験してみる中で、四畳半という空間がどれほど広いのかを再認識させてくれる。
このインスタレーション作品で、女優の石原朋香さんが、四畳半の中を泳ぐように進んでいくように、進んでいく。その様子をUBUNAさんのカメラは、上空・斜め・さらには障子越しに次々と映し出していく。
斜めになったり、次々に動いていくカメラのせいで、だんだんとみている私達はビックリハウスに入っているかのように、だんだんと地面に立っている感覚がなくなっていく。
下手をすると何をやっているかわからなくなりそうだが、しかし真ん中に俳優がずっといることで、何故か私たちはこの映像にちょっとだけ神秘的なものを感じてしまう。
四畳半を何度も解釈しなおすような、ちょっと短い冒険の記録。
HITA 学生映像祭(2021 - 現在)
HITA学生映像祭は、大分県日田市で毎年行われている日田市在住の学生を主に対象にした学生向け映像祭である。(全国から応募できる部門もあり)
応募された作品は、パトリア日田の公式サイトで見ることができる。
なるり/進研ゼミ公式Vティーチャー(2021-)
進研ゼミ公式Vtuberなるりによる、中学理科や英語をわかりやすく教えてくれる作品。こちらは、さきほど紹介した吉本くんが映像制作を担当している。ボカロらしいエレキピアノと、超高速単語詰め込み高速になっているこの曲は、気合で歌うだけで元素記号を覚えることができるようになっている。
SESSION “TOUCH”(2022)
東京藝術大学卒業制作作品の二つ目。美術と身体の領域横断的表現を模索する作家、草薙樹樹さんによる作品。
最初に演者たちはビニールシートの上に絵具やクレパスを重ねていく。しかし、それも単に重ねていくのではなく、そのビニールシートの中で人が動いている状態で様々な色を重ねていくのである。解除には煙も焚かれており、演者の体の上にも絵具が乗っていく。
動画の終盤に来ると色を塗りたくってしまったビニールシートはすでに色が混ざり過ぎてぐちゃぐちゃになっている。ビニールシートから出てきて向かい合った二人を映して、映像は煙の色に交じっていくようにホワイトアウトしていく。
お互いの存在をなぞり合うような、不思議な感覚を残す一作。
FRUITS ZIPPER「キミコイ」(2023)
2022年レコード大賞最優秀新人賞を獲得したアイドル、FRUITS ZIPPERのPV。原宿を拠点に新しい可愛さを発信していくことをモットーに活動している。
この曲のAメロでは普段の服に見えるメンバーたちが、かわいいものに囲まれた雑貨店で、便箋を買い、カフェで手紙を書こうとする。
そしてサビに入り「あふれだす あふれだす」という歌詞に突入した瞬間、突然メンバーがアイドル衣装にチェンジし、画面中に雑貨店で買った便箋の模様や、鉛筆で書いたような線が文字通りあふれ出していく。さらにPV中では便箋らしき紙を紙吹雪みたいに天に投げているシーンもある。歌詞には「24時間経っても消えないストーリー(おそらくインスタのこと)」「心でスクショした」など、明らかにインターネットでの恋愛感情を超えた運命の愛があることを歌っている。
恋をした人の心の中を、手紙の文字すら超えて画面中にちりばめた作品。
月ノ美兎『てんやわんや、夏』(2024)
にじさんじの月ノ美兎が8月の31日という夏休みが終わるタイミングで突然アップロードした動画は、世間を大きくジャマイカンにした。
月ノ美兎らしい人と、笹木咲らしい人と、椎名唯華らしい人が、ひたすらChillしている動画なのだが・・・いやなんだこれ。
ボブマーリーさんらしい、謎のイントネーションやがなりも炸裂した本作品は、キチンと4年前の思い出をリメンバーし、いうべきエモいところをことごとく抑えた珍味。
映像は、意図的に映像にフィルム感を出す効果を随所にちりばめつつ、ジャマイカをイメージした緑・赤を基調に画面を作っている。でもこういう解説もいいんです。とりあえず文字が躍って楽しかったら。
この動画の制作については、上記のたまごまごさんのインタビューやYouTubeのインタビューに本人による制作過程の話も書いてある。そこでも単にこの映像が「面白いことやってやろう」だけではなくて、作品として見やすくするため、「女子Vtuberのコスプレをするおじさん」という暴力的なほどに強烈な情報を引き立たせるために、やっていることにはテンプレの水着女子がしていることさせ、突っ込み待ちの形にしたという。
(いや、ツッコメっていわれてもどこからどういえばええねん)
この後に出てくる『サバエとヤッたら終わる』とも共通して、UBUNAさんの原作付の映像制作では①原作愛を前提にして、②さらに役者さんの一面を好きになってほしいという二つのポイントをどうやって実現するかを考えたという。
ここまで、自分の思想とは別に、出てくる演者さんや舞台設定をいかに生かすかを考えることができるのが、たまごかけごはんにケチャップをかけることができる料理人のような、UBUNA監督の技なのかもしれない。
UBUNA監督本人による創作裏話
月ノ美兎『こころのアビッシー』(2025)
2025年2月19日に発売された月ノ美兎2ndアルバム『310PHz』収録の楽曲『こころのアビッシー』のプロモーションビデオ。作詞作曲編曲は『ファッとして桃源郷』や『メニメニマニマニ』『アイデン貞貞メルトダウン』と言った、電波的でとがったアニメソングで有名なやしきん氏。
PVは、楽曲同様、N●Kの子供たち向け番組風の世界の中で、にじさんじが最近打ち出しているきぐるみの美兎が躍っているところから始まる。が、ほぼ開始とノータイムで画面には映ってはいけないアイツが混入してくる。
(タイミングが早すぎてもはやホラーというか現代芸術みがある)
謎ノ美兎という名前で、にじさんじリスナーの間で認知されているその存在は、突然スタジオの照明を打ち消し、きぐるみの美兎も倒れてしまう。
そこから、何故か子供たちはみんなでいもりやカエルを混ぜて、悪魔錬金みたいなことをし始める。すると天からジャムおじさんよろしく、新しい顔がゆっくりらせんを描きながら降りてくる。そして胴体と合体すると何も知らなかったみとぬいは生き返り、無事にパーティータイムは続くこととなった。
スタジオ裏では、ついでに謎ノ美兎が警官にとっつかまっていた。
映像を見ていくと、子供向け番組風の場面では、まずひたすら子供たちが泣いてないのが凄い。特に太鼓を持っている子の叩き続ける職人魂はすごい。あんな不審者にも恐怖しない姿勢は見習いたい。そのうえで映像の切り替えのタイミングはことごとく、歌詞のワンフレーズが歌われ切った瞬間に切り替わっており、MV視聴時のストレスを軽減できるような工夫がされている(わけがわかるとは言っていない)。
中盤の禁断の魔術をしているところは、水中から見たようなボケたレンズで映された鍋と、紫のディスコみたいな光に包囲された美兎の頭が異彩を放っている。何の効果を使っているのかわからないが、いい感じにおどろおどろしい感じがした。そして美声。
そして終盤では「あるけ!はしれ!とまれ!」で謎ノ美兎三段逮捕みたいなショットが入って爆笑してしまった。
小さい子に、絶対に忘れることができない思い出を植え付ける一曲。
サバエとヤったら終わる(2024)
『サバエとヤったら終わる』は、マンガ家早坂啓吾原作の同名マンガを映像化した連続ドラマである。UBUNA初の連続ドラマ監督作品である。また、ヨーロッパ企画の小林哲也氏が脚本に参加している。現在はNetflixで全話が視聴可能である。
物語は、憧れの桜井美波さんにアタックをかけたい童貞・宇治が、うまくいかない時に、相談相手の親友の鯖江がなんか妙に馴れ馴れしく、さらに谷間を出しているため、非常に悶々としてしまう、というストーリーである。
そして究極、良い意味でこれさえわかっておけば、この作品は筋を覚えていなくても、ひたすら、キャラクター同士の絶妙な距離感にキュンキュンするのを楽しめてしまうだろう。
画面としては、全体的に白っぽいイメージで統一されている。桜井さんのお顔は序盤は目からビームが出ている。サバエがレモンを垂らすシーンなど、瑞々しいものに異様にフォーカスが当てられており、またサバエの谷間は常に画面真ん中で強調され続ける。
サバエはエピソード2で「私と宇治と桜井のみつどもえだよ」とか言い出すし、エピソード3の序盤で真顔で筒に指を入れだし、あまりに開放的すぎる。
しかし一方で、サバエを好きな田村が現れてサバエを狙いそうになった後、一瞬サバエが暗そうな顔になって、その後宇治を家に誘っていくシーン(4話)など、「サバエも気があるのか~~~~どうなんだ~~~~~~」と思わせるシーンも現れる。
と思えば、宇治くんだいすきなメガネっ子(5話)がやってきて宇治が振り回されたりする。ただ、5話で注目するべきなのは、吉良が言ってた「宇治の前ではみんな自然体になれる」という言葉と、サバエが言った「他人に自分の言葉見つけてもらうな」という言葉だろう。
最終話に入ると、これまで桜井さんの目から出ていたビームが消えていることに宇治は気づく。しかし、相変わらず桜井さんに直接喋る感じではない。
サバエは自由奔放でガサツだけれども、良い友達だとも気づくが、サバエは体調が悪いらしく、飲み過ぎでゲーゲー吐いている。宇治はサバエの後始末をさせられる。
しかし、サバエはドラマの最後の一言で宇治の男気を認めていることが分かった。
やはりガチガチにストーリーを読み込むような作品というよりも、宇治君大好きマンとか、下ネタ爆発兄貴とか、ぶっ壊れた人物像を楽しんだり、宇治とサバエと桜井さんのどこまでも焦らされる関係性を楽しむ作品だろう。
その意味で途中から見だしても、あらすじさえ見ればついていけると思われる。
アイ・イー・シー株式会社 プロモーション動画(2024)
アイ・イー・シー株式会社のプロモーション映像は、ITで社会を支える総合エンジニアリング会社を紹介する映像である。株式会社POPBORNが全面強力の元、UBUNA監督により制作された。
見ていただければわかるのは、これまで紹介した映像作品としての動画よりも明らかに「驚かせる」タイプのパンやショットがないことである。社員さんの服を含めて「白」でまとめられた映像は、一見難しそうに聞こえるエンジニアの方の仕事のポイントをわかりやすく伝えてくれる。
直前の原作愛の話ともつながるポイントがあるとすれば、最後の社員交流のところではっきりと社員たちの趣味や楽しそうにしている様子を出していることである。
RISM BASE デイリーケアマスク SHINE/BLACK WEB CM(2024)
RISM BASEデイリーケアマスクのWEBCMは、代表取締役である吉岡純平氏がディレクションを取ったCMである。これまでのUBUNAさん主導の映像のように、あえてわざとらしい映像効果を狙うのではなく、「なりたい肌に近づく土台を作る」というCMのメッセージを伝えるべく、映像効果は抑えめにして、「BLACK」と「SHINE」、二つのマスクの効果が見た瞬間わかるように、そして何より白濱さんの肌色が美しく表現されるように映像が作られている。
最後に
今回のnoteは株式会社POP BORNの世界を知るために書きだしたものだった。しかし私の体力の限界や、映画本編が手に入らないなどの理由で下記の作品については書くことができなかったことをご了承いただきたい。
あとは私個人がもう少しカメラと特殊効果に知識があれば詳しく書けたところも多かったかもしれない。
UBUNA『ガールズキャッチ』(2020)
映画『イルカはフラダンスを踊るらしい』『花のワルツ』『DAUGHTER』
株式会社POP BORN、とりわけUBUNAさんの作品から感じたのは「どうしようもない奴ら」の現実をカメラにおさめる姿勢である。
初期の自主制作映画である『悪食配信』『路上組』では、どうしようもない人がドンドン悪循環の中にハマって、逃げ場がなくなっていく様子をそれぞれ違うモチーフで書いていた。
(個人的には『路上組』の方は、どこかの伝説的4人組バンドの話が念頭にあったのもあり、ただならぬ暗さを感じた)
その後中盤からは、明確にそうした人のおどろおどろしいところに焦点を当てるだけではなく、『サバエ』や月ノ美兎関係のお仕事をはじめとして、しょうもないやつらの、でもちょっとかわいいところを描いてみる。特に宇治とサバエのやり取りは、本当に映像でしかうまく伝わらない「なんか嫌だけど憎めない」、あるいは「腐れ縁だけど恋愛には微妙に届かない」関係を描いていた。
ベクトルは違うが、どれも今を生きている人が、たとえ変に見えても一生懸命生きたその瞬間を切り取ろうとしている。(謎ノ美兎は知らんけど)
そうしたまっすぐさを感じました。
株式会社POP BORNの皆様の今後のご活躍をお祈りしています。