セルフラブ:それは自分勝手ではなく、自分に優しくなる行為|Beauty Deep Dive 〜第二章 セルフラブ〜
モデル・俳優として活動する傍、REINGコミュニティと共にジェンダーやセクシュアリティのテーマについて発信をしてくれている甲斐まりか。この連載エッセイでは「美という価値観」について語ります。まりかと読者の皆さんとのジャーニーの始まりです。
〜第二章 セルフラブ〜
"Beauty begins the moment you decided to be yourself." (あなたがあなたらしくいることを決めた瞬間、美しさは始まる)というココ・シャネルの名言がある。自分を解放し、ありのままの自分を認めてあげることが美しさのスタートだ。このシャネルの言葉を体現する考え方こそ、今回皆さんとシェアしたい「セルフラブ(self love)」だ。
セルフラブを直訳すると自己愛。つまり、自分を愛するということ、自分が自分自身であることを認めてあげること。自分自身を許すこともまたセルフラブの一つの方法として書かれている。それも間違いではないが、私がフォーカスして欲しいのは「自分にとっての幸せは何か、何をしている時が一番自分らしいのか、自分のために生きているのか」という視点。もっと言うと、自分が幸せを感じられる瞬間を優先し、祝福することができるかどうか。例えば、他人にどう思われるかではなく自分が着たい服を着て自分のテンションを上げることだったり、仕事で忙しくても少しでも自分のための時間を与えてあげることだって立派なセルフラブだ。
人それぞれ幸せの形や感じ方が違うように、セルフラブの方法や認識の仕方もまた人それぞれ。今回のコラムを書くにあたって、私のセルフラブについて考えてみたがなかなか書く手が進まなかった。親友とお茶する機会があったので、ふと彼女にセルフラブを実感する時について聞いてみた。彼女は「自分しかできないことで他の人のためになったり、他の人をハッピーにすることができた時。私だからこそできることがあって、自分が自分でいてよかったと思う」と言った。その回答はまさに自分自身の個性を認め、長所を受け入れ、心を満たすセルフラブの一つの方法だ。
そのエピソードをきっかけに、私が私でよかった瞬間を考えてみた。第一章に書いたママとのエピソードはまさにセルフラブのマインド。そしてモデルという仕事は、自分の個性を認められる瞬間はいつも自信につながり、この個性を大事にしていこうと常に再認識させてくれるセルフラブだ。もともと広いおでこがコンプレックスで前髪を作っていたが、ある時プロのヘアメイクさんたちに前髪を上げたヘアスタイルにされ、この丸いおでこを褒められた。そこから見方が変わり、最近は自ら気分に合わせておでこ丸出しのオールバックにすることだってある。容姿にコンプレックスを抱かない人なんていないと思うが、それをどう違う視点で受け入れるか・どう向き合っていくかで自分を縛り付けていたネガティビティから解放され、自分にさらに優しくなれる気がする。
さらに、私の幸せの物差しはいつも自分の人生で迷った時や大きな決断をするときに現れる。自分に無理をさせずに楽しめるか、嘘をつかずに自分がハッピーでいられるか、幸せになれるかを必ず優先して考えてきた。事務所に入ってモデルの仕事を本格的に始めることを悩んだ時もそう。当時すでに大卒の22歳。10代から始めている子が多いモデル業界でキャリアを歩む意味はあるのか?やはり大学の同期と同じように就職したり院に進むことの方が安定なのか?常に自分への希望と社会的な考え方を天秤にかけていた。そこで転機となったのは、初めて就活イベントに行って感じた違和感。無理に溶け込もうとする居心地の悪さに耐えきれなくなり、どう転ぶかわからないけどやっぱりモデルに挑戦するしかないと決めた。モチベーションを保てなくなった時が自分の限界だと思っている。モデルの仕事も自信があるわけではなかったけど、うまくいかなければ、その時はまた好きなこと勉強するために院に進めばいいし、就活もやり直せばいいと思った。結局、自分自身の幸せは自分でしか手に入れることはできないだろうし、自分にとって何を幸せに感じるかは自分自身で決めていいと思っているから。
自分にとって何が幸せなのか。それは自分自身に誠実に向き合いながら見つけていれば、意外とシンプルなことだったりする。社会のプレッシャーや他人と比べてしまうから本来の幸せで満足できなくなっていたり、自分が見えなくなってしまって「成功とは何か?幸せとは何か?」という考え方が複雑になっているだけのはず。自分の幸せを優先することは、決して自分勝手なことではなく自分に優しくなる行為。つまり、自分らしく、さらに生きやすくなる道だ。
セルフラブのメンタリティの話を今回メインに考えてみたけど、自分のことを愛すること(セルフラブ)は、自分の体と心をメンテナンス(セルフケア)することも必然的に繋がってくる。ストレスを感じたり自分自身を締め付けてるものから解放し、ハッピーでポジティブなことへ集中すること。そのスイッチの入れ方を生活のどこかでルーティンとして取り入れることができたら、セルフケアしながらセルフラブの意識を保つことができると思っている。次回は、セルフラブの後編として身に染みて感じたセルフケアの大切さをシェアさせてください。
Text:甲斐まりか / Marika Kai
タイと日本のルーツを持つファッションモデル。タイ、ドイツ、イギリスと、人生の大半を海外で過ごしたのち、2017年から日本でモデル活動をスタート。Voceなどの雑誌、dejavuや資生堂などのイメージモデルを務める。さまざまなカルチャーに触れながら育った生い立ちから、オープンマインドな心と独特の視点を持つ。旅行と芸術への関心が強い。
Instagram: @mari_ka95
Twitter: @mari_ka95
Edit:Yuri Abo | Illustration:Ada