足跡でナッジしよう。 ソーシャル・ディスタンシングにも行動経済学
新しい生活様式となったソーシャル・ディスタンシング
今まで耳慣れていなかった「ソーシャル・ディスタンシング(social distancing)」という言葉も、「New Norm=新しい生活様式」の一つとして定着してきました。しかし、この「ソーシャル・ディスタンシング」を実行することは、なかなか難しいものなんだなぁと実感しています。これ自体を言葉で説明するのは簡単で「周囲の人と2m以上の距離を保つこと」。子どもでも説明できますが、実際に行動できていない人も多いのではないでしょうか。例えば、私だったらコンビニやスーパー、薬局といった小売店でのレジ列。会計の列に並んでいないように見えるのではないか、2mがどれくらいか分からない、といったほんの些細な不安と疑問を抱えています。また、街中には「ソーシャル・ディスタンシング」を心がけている人ばかりではないことも事実です。
ソーシャル・ディスタンシングからフィジカル・ディスタンシングへ
ちなみに最近では「ソーシャル・ディスタンシング」という言葉は、社会的なつながりから距離を置くという意味にも取られかねないという理由から、WHOは「ソーシャル・ディスタンシング」ではなく「フィジカル・ディスタンシング(身体的距離の確保)」という言葉に言い換えるようになったらしいです。
※ちなみに日本ではソーシャル・ディスタンシングではなく、「ソーシャル・ディスタンス」が多用されていますが、厳密には意味が異なるそう。
スパ・ラクーアの床の足跡シールでナッジされた経験
そもそも、なぜ私がこのソーシャル・ディスタンシングのナッジの事例を調べようかと思ったのか。それは東京ドームシティにあるスパ・ラクーアのお手洗いの床に貼ってある足跡シールを思い出したからです。保育園や診療所など靴を履き替える必要がある場所にたまに見られるものです。こういうやつですね。
「単純に足跡シールを床に貼っただけじゃないか」と侮るなかれ。たかが足跡、されど足跡です。人間は不思議なもので「履物はきれいに並べてください」とか「整理整頓しよう」と書いても守ってくれないもので、このように戻すべき場所が明示されていると、積極的にあるべき位置にものを置きたくなるものなのです。
この足跡シールの事例、行動経済学の成功例で有名な男性用便器の事例に似ています。オランダのアムステルダムにあるスキポール空港の男性用便器に蝿のイラストをプリントしたら、以前よりもトイレが清潔に保たれるようになり清掃費が大幅に削減した事例です。人間は的があると狙いたくなる心理特性を持っているようです。
人間の行動の90%は色やイメージで左右されている
そんなことを思っていたときにこのロイターでこんなニュースを見つけました。デンマークのbehavioral designerのSille Krukow氏がソーシャル・ディスタンシングをナッジするための足跡イラストを無料公開している取り組み紹介するものです。
Sille Krukow氏はハイネケンやZARAといった国際的大企業・ブランドのナッジや行動のデザインを手掛け、Tedにも出演されているようなbehavioral designerです。
(※behavioral designerを日本語で何と表現したら良いのか分からず、そのまま記載しています。行動デザイナー?UXデザイナーでしょうか?)
Sille Krukow氏のWebサイトに以下のような記載がありました。
Since 90 % of human behavior is driven by colors and images in our surroundings in key decision moments, we have launched a nudge initiative called “The art of Social distancing”. The initiative consists of open source nudges/footprints for everyone, to download, customize and implement at home, in the workplace, in the schools, by the bus stop and everywhere a nudge is needed to help social distancing feel natural.
※krukow.net から引用
重要な意思決定の瞬間、人間の行動の90%は周囲の色やイメージによって動かされるそうで、この足跡のような画像(前述の例で言うと的)は、人々の行動の判断基準になるようです。
足跡以外にもナッジキットが提供されています。こちらからダウンロード可能です。
日本だと「いらすとや」で足跡プリント以外にもナッジしてくれる素材をたくさん用意してくれていますね。
その他、楽天でも無料で配布されています。
新しい生活様式に慣れることは難しいものですが、今回ご紹介した足跡の事例はナッジがうまく作用している典型例だなと感じました。UXデザインに興味がある者としては、これからも、このように自然な行動変容を促す取り組みや仕組みにアンテナを張り巡らせていきたいと思います。