サービスの本質は誰かのために能力を提供すること
「お客様の中には、僕たちと絶対に目を合わせないようにする方がいるんですよ。皿を下げるときも、こちらを見ずに皿だけこちらに突きつけてくるんです。このエリアにはそういうお客様はいないですけど、エリアによってはいるんです」
先日、行きつけの近所のイタリア料理店で店長と話していたときのこと、ふとした会話からサービスの話になった。
この話を聞いたとき、店員に対して召使い的な振る舞いをする人がこの時代にいるのか、と思った。シンデレラでもあるまいし、時代錯誤ではないかと。なぜなら、私の父親(通称:ハリー*1)を筆頭に私の周囲の人は店員に対してフレンドリーだからである。酔うとこちらが恥ずかしくなるくらい(しつこく)コミュニケーションを取るくらいだ。
ちなみに私は新卒でパンの製造・小売企業に入社して、某百貨店の店舗で販売の経験がある。おそらく数千人規模のお客様と接しているはずだ。しかし、そんな横柄なお客様はいなかったように記憶している。パン屋の場合、そもそもお客様が抱いているサービスに対する期待値が高くなく、一人あたりの接客時間が短いので、そのような横柄なお客様が顕在化しにくいのかもしれない(私のいた店舗は一般的なセルフサービス方式でなはく対面方式なので、通常よりも接客は長めではあったが)。
このイタリア料理店の店長の話を聞いて思い出したのは、つい先日の ご近所イノベータ養成講座 での講義の内容だ。
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サービスとは何ですか?
「サービスとは何ですか?説明してください」
私は現在、港区と慶應義塾大学が連携している「ご近所イノベーション学校」というプロジェクトの「ご近所イノベータ養成講座」の7期メンバーとして月1~2回の頻度でプログラムに参加している。前述の質問は、このプログラムの一環である慶應義塾大学の武山教授の講義でされたものだ。急にこの質問をされてあなたは即答できるだろうか。かくいう私は教科書的・Wikipedia的な回答しかできなかった。
Wikipediaでは以下のように記載されている
経済用語において、売買した後にモノが残らず、効用や満足などを提供する、形のない財のことである。第三次産業が取り扱う商品である。
サービスという言葉はとても曖昧である。人によっては「煮玉子サービスしておくね(喩えがこれしか思い浮かばなかった…)」とか「ドリンク一杯サービスします」といった無料で何かを提供してもらえることを思い浮かべるかもしれないし、マッサージ店やネイルサロン、美容院といった第三次産業のサービス業を思い浮かべる人もいるかもしれない。
サービスの語源は奴隷
私は初めてサービスの語源を知り、全く想像もしていなかった由来だったのでとても驚いた。service(サービス)の語源は、ラテン語のservus(奴隷)らしく、この言葉から派生して、servant(召使い・給餌)、サービス(service)という言葉が生まれたらしいのだ。
servus(奴隷)→servant(召使い・給餌)→service(サービス)
冒頭で取り上げたイタリア料理店でのエピソードに出てくるお客は店員に対して ”召使い” のイメージを潜在意識として持っているのだろう。
サービスの本質とは、人のために自分の能力を用いることである
この講義で大変興味深かったのは、「サービスの本質とは、人のために自分の能力を用いることである」ということ。そして、人間はサービスなしには生きられず、お互いがサービスを交換して世界は成り立っているのだ、ということ。確かに自給自足の生活をしない限り、現代人が生きいくのは難しい。
では、サービスがWikipediaに記載されているように ”無形のもの” とした場合、製品はサービスではないのだろうか。
答え:製品はサービスを届けるための手段である
製品を製造し、販売するために、製品を媒介して自分の能力(=サービス)を提供しているからだそう。
となると、「サービス→製品→消費者」という流れになり、消費者は製品を購入するためにお金を払うので「サービス=製品=お金」となる。お金は等価交換の手段であり、その価値を未来まで保存しておける価値保存機能を備えている。
サービスを提供してくれた相手の未来にお金を払っている
このお金とサービスの関係性を理解したら「サービスを提供してくれた相手の未来に対して等価交換(お金を支払う)しているのか、お金ってロマンチックだな」と思ってしまった。未来という不確定要素が含まれた瞬間、ロマンチック度が上昇したのかもしれない。私は普段お金の役割について考えたこともなかったので、新たな視点を持てて良かったと思っている。
私は現在エンターテック企業「playground」のプロダクトマネージャーである。日々、製品(プロダクト)に向き合っているが、プロダクトはplaygroundやクライアント企業が届けたいサービスを提供するための媒介であることを忘れずに、対価を支払ってくれるクライアント企業やエンドユーザーに価値を提供していきたいと改めて思った。
*1…私の顔を見ても分かるようにハリーは日本人である。還暦を過ぎたくらいのあの世代は、外国人風のあだ名をつけるのが好きなので敢えて記載してみた。