生活に寄り添ってくれた音楽たち/あの日の横顔
「SMAP×SMAP」の最終回で、SMAPのメンバーが「世界に一つだけの花」のパフォーマンスを披露して、最後は横一列になり深々とお辞儀をしながらその前を緞帳が下がっていく。テレビに映るその画面を母は泣き崩れながら観ていた。僕は母に何と声を掛けていいのか分からず、その背中をただ見ていることしか出来なかった。
2016年12月31日、SMAPは解散した。
僕が幼い頃からSMAPの大ファンだった母は、家でずっとSMAPの音楽をかけていた。その影響か僕も大体の曲を知っているくらいには身体に染み付いている。コンサートに行ったり、メンバーが出演しているテレビ番組をよく観ていた母にとって、SMAPは自分の心を支えてくれる本当に大切な存在だったのだと思う。
あの解散から随分時が経ったある日、僕は「京都音楽博覧会2022」に行く事を母に伝えると「私も行ってみたい」と言った。「別にいいけど興味あるの?」と返すと僕が車の中でくるりの曲を流したり、家でライブ映像をよく観ていたので少しくるりに興味を持ってくれたらしい。それに出演者の中に槇原敬之さんがいることも決め手だったそうだ。槇原敬之さんは「世界に一つだけの花」を作詞作曲した張本人であり、セルフカヴァーもリリースしている。もしかしたら歌ってくれるかもしれないと思ったのだろう。そんなこんなで初の「京都音楽博覧会」は母と一緒に行くことになった。
降り止まない雨の中、槇原さんは笑顔で登場すると会場がその日一番の盛り上がりを見せた。きっと世代だったお客さんが沢山いたのだと思う。もちろん母もその1人だ。名曲を次々と歌い上げる中、軽快なイントロと共にこの曲が始まった。
「No.1にならなくてもいい もともと特別なOnly one」
「世界に一つだけの花」を歌い始めたのだ。これには僕もびっくりして、思わず母の方を見ると静かに涙を流していた。
SMAPが解散してしまったばかりの頃、仕事中でも気を緩めると涙が出そうになると言っていた母が心配だった。どれだけ再結成を望んでいても現実はままならない。メンバーが揃う日はもう来ないのかもしれない。だけど歌い続けてくれる人が他にいてくれたから、こんな素敵な瞬間があるんじゃないかと思う。
あの日、泣き崩れる母に声を掛けることはできなかったから、槇原さんの出番が終わるとすぐに「歌ってくれて良かったね」と声を掛けた。その時の母の嬉しそうな横顔を、僕はずっと忘れないでいようと思う。
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