「拳と祈り ―袴田巖の生涯―」 冤罪に抗い続けた姉弟の記録
1966年、静岡県清水市で起きたみそ製造会社専務宅一家4人殺人事件。犯人とされた袴田巖さんは無実を訴え続けながらも、死刑判決を受け47年7カ月もの間拘禁された。無罪を信じ続けた姉・秀子さんとともに闘った人生を追うドキュメンタリー映画「拳と祈り」が今、多くの人々の心を揺さぶっている。
長すぎた拘禁と奪われた人生
映画は、袴田巖さん逮捕から48年後の2014年3月、彼が釈放される場面から始まる。一点を見つめかたい表情を浮かべる巌さん。その顔には喜びというよりも疲労と戸惑いがにじみ出ている。監督・笠井千晶氏は、袴田事件を静岡放送の記者時代から22年間追い続けてきた人物だ。彼女の視点を通じて、冤罪の真実が静かに、しかし強烈に浮かび上がる。
釈放直後、秀子さんと都内ホテルのスイートルームに滞在する。巖さんは大好きな甘いものを楽しみ、窓から見渡せる東京湾を眺める。
「浜名湖の裏弁天を思い出すね」
そう話しかける秀子さんの言葉に、かすかに微笑む巖さん。その瞬間、事件以前の平穏な姉弟の姿がほんの少しだけ蘇る。その穏やかな時の場面が強調するのは、彼らが奪われた時間の重みだ。
残酷な拘禁の後遺症
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