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しぜんのかがくep.52(7/26) 火星のお話&アート:新井真由美さん

ゲスト
国立研究開発法人 物質・材料研究機構 NIMS特別専門職
NPO法人日本火星協会 理事
新井真由美さん


ラン藻を用いた火星における宇宙農業に関する研究で博士号(学術)を取得。コンピューターシミュレーションモデルを用いた火星における気象学の研究で修士号(環境科学)を取得。日本科学科学館におけるサイエンスボランティアプログラムを立ち上げ、700名を超えるボランティアの取りまとめを行う。宇宙、環境、南極、地球、海洋に関する常設展示や大型映像、イベント、シンポジウムやWEBコンテンツの企画開発や科学コミュニケーター養成、学校連携プログラム開発等を実施。NPO法人日本火星協会理事。筑波大学非常勤講師。つくばみらい子供科学教室創設。



1.火星の居住空間や火星での農業等、火星での人類活動の可能性について研究を進めていらっしゃいます。なぜ火星に興味を持たれたのでしょうか?

 中学生、高校生の時に、環境汚染とか地球破壊とかすごくメディアで騒がれていたんですね。それを解決する研究者になりたいと思っていました。また、絵を描くのが好きで、科学系の進路を選択するか、芸術系に進むか悩んでいたんですが、筑波大学の自然科学・地球科学の方に進学し、気象を専攻しました。中学生か高校生くらいの時に見た映画で、「トータル・リコール」があります。火星に青空が広がっていたのが印象的でしたね。火星に地球のような温暖な環境ができるのではないか?シミュレーションならできると思い、火星の気象の研究をしてきました。また博士課程で宇宙での農業はどのような環境でできるのか?をテーマに選びました。

<<火星豆知識>>
火星の大きさは地球の半分程度で、重力は地球の1/3程度。大気は地球の1/100より薄く、その主成分は二酸化炭素。表面温度は、季節や観測データによって差はあるようですが、概ね平均して-60℃程度。地球から火星へは、現在の技術を使った軌道設計では、片道だけで6~9か月近くの時間がかかる。
水…注目されているのが、火星の地下に氷として存在していると考えられる水です [E. L. SCHELLER, 2021]。
光…太陽から得られるエネルギー密度は地球の半分程度のため、動植物を育成することができるような、継続的にエネルギーを供給する手段についても考慮が必要。
空気…火星の大気は主成分が二酸化炭素。地球の生き物が生息するには大規模に酸素を継続して供給する方法の開発が必要。
居住場所…基地を建設する場合、放射線から身を守るためには、やはり分厚いコンクリートや岩盤を利用するのが確実。例えば岩場の横穴や地下の洞窟が見つかれば、その中に基地を作るのが最も効率的。トルコの遺跡カッパドキアのようなイメージ。
火星については、UAE(アラブ首長国連邦)が、2117年に火星に人口60万人規模の街を作り人類を居住させるという計画を発表している他、SpaceXのCEOであるイーロン・マスク氏も、2030年には火星に基地を作るという旨の発言をしている。

空畑  火星移住を考えるにあたっての火星のキホン~計画、環境、課題、Q&A~ 2023/2/4を参考に作成

 研究では、火星上に温暖な環境を作るため、人工的な屋根を作るんですね。コンピューターシミュレーションで屋根の高さを変えたりすることで、太陽放射内の長波放射(赤外線など)を蓄えることができ、平均気温15度(地球の平均気温は約15度)という農業に適した環境を作り出すことができるんですね。
 シアノバクテリア(ラン藻)は、乾燥状態ならば、空気が無くても(真空でも)耐えられ、その後、水をかければ再び増えることができるんです。過酷な環境でも育つ生き物です。(※地球上の酸素はシアノバクテリアが作り出しました。)

シアノバクテリア(ラン藻)出典:オークランド博物館

 シアノバクテリア(ラン藻)は乾燥すると海苔みたいなパリパリの状態になるんですよ。乾燥状態で真空暴露しても蘇生できる。さらに光合成能力も蘇生後は復活するんです。空気中のの窒素を固定して有機体窒素(アンモニア、アミノ酸、タンパク質など)も作り出すことができるし、食べても栄養があるんです。実は味噌汁に入れたりして食べられるんですよ。火星は極や地下に水(氷)がありますので、ラン藻が育つための条件は火星環境でも揃いそうですね

2.日本の宇宙飛行士が選ばれました。アルテミス計画など今後月から火星探査を視野に入れていると思いますが、火星へ移住した人類はどのような生活になると思いますか?

アルテミス計画とは…
主にアメリカ航空宇宙局(NASA)とNASAが契約している米国の民間宇宙飛行会社、そして欧州宇宙機関(ESA)、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)、カナダ宇宙庁(CSA)、アラブ首長国連邦のムハンマド・ビン・ラシード宇宙センター(MBRSC)などの国際的パートナーによって実施される。計画自体はNASAが主導しているものの、月面での持続的な駐留を確立し、民間企業が月面経済を構築するための基盤を築き、最終的には人類を火星に送る(有人火星探査)という長期的目標に向けた次のステップを目指す。日本の宇宙飛行士の月面着陸も視野に入れている。諏訪理(まこと)さんと米田あゆさんが候補として可能性が高い。
※アルテミスとは…ギリシャ神話に登場する狩りや月の女神。

火星では大気が薄いため、放射線が地球より多く降りそぎ、地上の各場所の温度変化も大きいです。人間にとって快適な環境変化の少ないマイルドな場所として地下空間に住むという案がありますね。例えば、日本でも月の縦孔探査プロジェクトがあります(JAXA 月惑星の縦孔・地下空洞探査 ~UZUME計画~)。月や火星にもそれに適した縦孔があります。ただ、宇宙空間では限られた資源で生活することになりますよね。地球の問題(環境問題など)を解決してから火星に住んでほしいと思います。

3.火星の研究をしている新井さんは火星に住みたいと思いますか?

火星に行くのは片道6、7ヶ月かかります。行くのも覚悟を持っていかないといけないですね。火星を研究すればするほど、地球のことを改めて考えてみるいい機会になると思います。
 火星に行くには究極の物質循環社会を築くことはもちろん、コミュニケーションも重要です。例えば、宇宙飛行士は宇宙ステーションでロシア語、英語など多言語でコミュニケーションをとる必要がありますよね。人間だけでなく植物同士は植物ホルモン、動物同士もイルカなどは超音波等、それぞれの手法でコミュニケーションを取りながら共存しています。火星に行くということは、人類の宇宙進出という視点だけでないんです。地球は丸ごと生きている。私たちは生態系に生かされているという視点、地球の生態系全て持っていくことができれば火星での生活も快適なのではないでしょうか。

4.つくばみらい子供科学教室ではどんなことをされているのですか?

 2014年に科学と文化研究会を立ち上げまして、日本科学未来館の毛利館長の言葉「科学を文化に」に影響を受けています。自分自身がもともと興味があった「サイエンスとアート」を視点に、住んでいるつくば市で活動を始めました。自分だったらこういうイベントに参加したいな、こういうイベントがあったら子供と一緒に楽しめそうだなという視点で企画しています。月1回または3か月に2本とかの頻度でイベントを実施しています。

ダヴィンチの橋 つくばみらい子供科学教室FBより
https://www.facebook.com/tsukubamirai.science.club

ダヴィンチの創作や考え方は建築や数学の視点もあり、STEAM教育にもつながるんですね。

STEAM教育…「科学(Science)」「技術(Technology)」「工学(Engineering)」「芸術・リベラルアーツ(Art)」「数学(Mathematics)」の 
 5つの分野を統合的に学ぶ教育のこと。「自分で学び、自分で理解してい 
 く」姿勢を重んじ、論理的思考力や問題解決能力といった力を身につける 
 目的がある。

防災の視点だと、防災科学技術研究所のストローハウスのプログラムを実施しました。(アートの視点もあるので、制作物がとても美しいんですね。)

つくばみらい子供科学教室のFB
https://www.facebook.com/tsukubamirai.science.club

(新井さんはご自宅でもいろいろワークシートを作成され、お子さんと科学とアートを楽しまれています。)

「方位磁石を使った恵方巻きのワークシート」
偏角を修正して、「バッチリこの方角に向いて恵方巻きを食べよう!」
節分でサイエンスを楽しむネタとして作成しました。科学教室では日が合わなくて実施できなかったのですが、繋がっている皆様に提供したものになります。

偏角とは…実際の地球の地磁気による方位のこと。方位磁石を使って方角を知ることができますが、実は方位磁石が示す北(磁北)は地図の北からずれており、しかもそのずれ(偏角)は場所や時間によって変わります。地磁気図は5年ごとに公開(現在最新は2020年)
https://www.gsi.go.jp/common/000236992.pdf

新井さんFBより

また、美術館に行ったときに子供と一緒に楽しみながら予習して学べるワークシートを作成しています。自分用、子供用と作っています。実際に美術館に行ってわかること、その場で知る質感とか色などを知ることができるものにしています。

新井さんFBより

5.アート作品

(新井さんは国立科学博物館の筑波実験植物園のきのこ画コンテストに作品を出展されています。)こちらもアート&サイエンスの視点(キノコの進化とフィボナッチ螺旋、キノコ図鑑、牧野富太郎の世界観。)ですね。

きのこ画コンテスト2023 菌賞

6.NIMS(国立研究開発法人 物質・材料研究機構)について

つくば市にある研究機関です。一般公開のイベント(今年(2024年)は5/26に終了)もあり、見学に行くこともできます。

おすすめはYouTubeです。ピタゴラスイッチも制作されているユーフラテスさんが作ったYouTube動画は一見難しいと思われる材料科学の世界をわかりやすく興味深く紹介しています。

動画:NIMS x EUPHRATES 「未来の科学者たちへ」

防災ワンポイント

「火星で生活するためのポイントは地球の防災対策に活かせる。」
新井さんのお話で興味深かったのが、地球で生活するためには植物、動物を含めてコミュニケーションをとっていく、上手く共存する。地球で物資循環、環境の問題を解決する手法を身につけてから、火星に向かうと火星の生活もうまくいくのではないか?という新しい視点です。
災害時も共通点があります。普段の生活と違う環境になりますが、人と人とのコミュニケーションや周りの生活環境を循環させ整える視点は、通常の生活に戻していくためにも大事となります。
「火星に居住できるように未来の生活を想像してみよう!アートに親しむように想像しよう!」

⭐️Podcast本編はこちら↓宜しければお聴きください♪
神田沙織 がりれでぃ スピンオフ
ナチュラル・サイエンス・ラボ
しぜんのかがく



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