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本屋大賞ノミネート『52ヘルツのクジラたち』〜届かぬ声〜

2021年本屋大賞ノミネート。町田そのこさん著。
登場人物の抱える問題は、とても重く辛い。
しかしスピード感のある展開と、徐々に謎がクリアになっていく構成で、とても読みやすくエンタメとしても楽しめる一冊。
総じて、すっごく良い話である!!

あらすじ

海沿いの田舎町に、一人の女性(キナコ)が引っ越してきた。村人から不審がられる中、雨の日に1人の少年と出会う。少年は母親から虐待を受け、言葉を失っていた。何とかして少年を助けようと行動するキナコ。次第に彼女の抱える過去が明らかになっていく。
※ネタバレあります。

主な登場人物

キナコ(三島貴湖):祖母が住んでいた田舎町に移住。母親、義父から虐待されていた。同級生の美晴、その同僚のアンさんに助けられる。過去に対して後悔の念が強く、孤独を感じている。

52(愛):キナコと出会う少年。母親から虐待を受け、言葉を失う。警戒心がとても強いが、キナコの家に度々通うようになる。

アンさん:美晴の同僚で塾講師。キナコを母親の元から連れ出し、新しい人生に導いた。キナコに対して特別な感情を抱くが、本当の思いは打ち明けられずにいる。

美晴:キナコの高校時代の同級生。明るい性格でキナコを励まし支え続ける。

新名主税:キナコの勤務先の社長息子。キナコに好意を抱き、交際を始める。自己中心的で独占欲の強い人物。

52ヘルツのクジラとは?

周波数が他のクジラと違うため、鳴いても声が届かないクジラのこと。本作では孤独な象徴として使われている。
キナコは、過去の自分や、虐待されている52のことを「52ヘルツのクジラ」と重ね合わせる。
序盤にその鳴き声を聴かせたところ、52は涙する。

アンさんの存在

「魂の番」。アンさんが親元からキナコを強引に連れ出した後に伝えた言葉。「いつか魂の番に出会える」と、それは自分ではないというニュアンスで伝えてるのが切ない。キナコに、アンさんが魂の番だといつか言ってほしかったのだと思う。

同じように、キナコから52にも「いつか魂の番に出会うまでそばにいる」と伝えている。

キナコが52にしていることは、アンさんがキナコにしてくれたことと同じ。アンさんを失った罪の意識を、他の孤独なクジラを救うことで償っている感覚なのだと思う。

52の言葉の復活

物語のクライマックスで、ついに52が言葉を発する。お涙ちょうだい的な描写はされてないが、とても感動するシーン。映画化されたら最高のOSTがかかりそうな場面。52が言葉を取り戻せたのは、キナコの「一緒に暮らそう」の一言だった。
本当に自分を大切に思う大人がいるって、安心したんだろうなと。

感想

現在と過去を交互に描くことで、読者を飽きさせない。違和感を感じた部分について過去のシーンで理由が明かされていく、何だかミステリー小説のような印象も持った。

度々出てくるのが「海」。タイトルから連想されるのは勿論、アンさんの死や、繰り返し見る夢でも、海の表現が使われている。海を連想ささることで物語全体が深く壮大な雰囲気を醸し出しているように思う。

もちろん主税は嫌なやつだし、アンさんがトランスジェンダーということを踏まえると、アンさんの思いは伝え辛い。ただ、それで死を選ぶことでさらにキナコが追い詰められるのに、その選択肢しかなかったのかな、、。アンさんも「52ヘルツのクジラ」だよね。

それにしても、美晴が最高な友達すぎる。

#52ヘルツのクジラたち
#本屋大賞
#町田そのこ
#王様のブランチ

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