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「嘘をついたのは、初めてだった」を読む前に、「噓をついたのは、初めてだった」から始まる物語を書いてみた。

今日、「噓をついたのは、初めてだった」を買った。
「黒猫を飼い始めた」も僕はもう読んでいる。
「黒猫を飼い始めた」を読了したあと、僕は「黒猫を飼い始めた」から始まる文章を書いた。念のためリンクを貼っておく。

今回は、1ページも読まずに書くことにした。読んでから書くのと、読まないで書くのとはまた違った面白さがあり楽しかった。
これから読むのが楽しみだ。
以下、僕の書いた文章である。


嘘をついたのは、初めてだった。
という嘘をついてみた。
「へぇ、正直者なんだね!そういうところも好きだよ〜」
と恋人は言った。

僕の恋人は騙されやすいと思う。僕は恋人に何度も嘘をついてきたのに、1度もバレたことがない。
「波琉《ハル》くんの好きなエビフライに挑戦してみたよ!どうかな?」
昼休みにエビフライの入った弁当を渡された。好きな食べ物は?と過去に聞かれたときに、答えたエビフライ。嫌いでもないが好きでもない。本当はオムライスが好きだけど、なんだか女々しいような気がして言えなかった。エビフライが女々しくないかと問われれば、自分でもよく分からない。
なんだか彼に申し訳なく感じて、大袈裟に「ありがとう、美味い美味い。」と言って、その場を乗り切った。
こんな嘘はたいして罪にはならないかもしれないが、もっと大きな罪になりそうな嘘をついたこともある。
彼から告白された後の話。
「ねぇ、波琉くん。」
少し不安そうな顔つきで声をかけられた。
「波琉くんはゲイなの?それともノンケだけど僕と付き合ってくれたの?」
これにも嘘をついた。ノンケだ、とだけ答えた。
「え、そうなの?でも僕と付き合ってくれたんだ。嬉しい。」
そんな答えが返ってきた。この時点で僕は彼を騙しやすい奴かもしれないと思ったような気がする。
真実はというと、僕はバイセクシャルであることを隠した。
男も女も抱いたことがある。男に抱かれたことはなかった。
僕はワンナイトばかりの趣味嗜好を晒すハメになるのが嫌だった。まるまる嘘をついてその場を凌ごうとした。だからノンケだと言って普通を装った。
純粋無垢な彼からしたら、これは大罪だろう。でも、僕からしたら、付き合いたてのころの結稀《ユズキ》に対しての気持ちなんて、甘美なものではなかった。
些細な嘘をつき続けた。
もうどんな嘘をついたかすら覚えていない。
でも、はぐらかせば結稀は納得してくれることも多く、困らなかった。
彼はなんでもすぐ鵜呑みにしてしまう癖があると、僕は感じている。
初めて彼を抱いたときも、そう思った。
僕は一度も快楽を感じなかった。結稀は行為が下手だった。喘ぎ声も正直うるさかったし、たまに「いたっ。」というのが気に食わなかった。
それでも僕は「よかった。」とだけ言った。気持ちよかったとは言っていない。もう嘘だとバレバレだと思ったが、
「そう?僕も気持ちよかったよ。」
と、何度か行為中に絶頂していた彼は言った。
本当に結稀は騙されやすい奴だと思った。

その反面、そこが可愛らしいと感じた。
もう僕のものにできたという優越感からそう感じたのだろう。
過去に抱いた普段は生意気な癖に、行為のときだけは従順になる奴よりよっぽど可愛い。
それから僕は、彼を抱くことより、騙すことから快楽を感じるようになった。
もう既に大量の嘘を並べてきたけど、さらに嘘を並べた。
「今日、どう?」
と誘われる。誘う時点で顔が真っ赤なのが、「僕は騙されやすい初心《ウブ》なひとです。」と言っているかのようで、僕の欲を引き出した。
「いいよ。先シャワー浴びる。」
と答えた。
抱く度にこの嘘をつく。初めて抱いたときのあの優越感がなければ、二度と結稀を抱いていなかっただろう。
僕のついた嘘で悦ぶ彼を見て、満たされた。行為はどうでもよかった。行為中の記憶などあまりない。
行為が終わった後もお決まりの嘘をつく。
「すきだよ。」
よかった、ではなく、すきだよ。と言ってしまったのは不覚だった。
「僕も、だーいすきっ!」
と弾けるような笑顔の結稀を見て、久しぶりに嘘じゃない言葉で彼を笑わせたなと思った。


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