原点の一つ
「Swan Lake」との出会いから十数年、ようやく彼の最新作(実は2019年初演なので少し前の作品ではあるけれど)を観劇することが出来た。
Matthew Bourne氏が主宰するNew AdventuresというカンパニーはこれまでにSwan Lakeを始めとして古典バレエの名作を大胆な解釈にてリメイクし世に送り出してきた。扱っている題材が元々バレエのお話が多いのでよくわかっていない評論家達は口を揃えて「新しいバレエ」と評価しているが、僕は個人的にもうそろそろバレエかバレエじゃないかなんてどうでもよくない?と思っている。
彼の選ぶダンサー達は容姿端麗な人も沢山いるが、どちらかと言うと名門バレエ団で常にプリンシパルとして君臨するタイプではないダンサーがノビノビと個性を発揮できる良さがあると思う。ダンスのテクニックに関しても超絶技巧というよりは日常生活の延長上にある自然な動きを紡いだ心ざわりの良いムーヴメントが主軸であり、そこがダンスに関わっていない客層にも受け入れられる大きな要因であると考えている。
今回観た「Romio + Juiet」も正にNew Adventuresの真骨頂とも言える原作を知らなくてもグイグイと引き込まれる世界観。「Carman」を彷彿とさせる救いようのない悲劇的な内容が際立っているので、Matthewお得意のファッショナブルでシニカルな要素は抑え気味ではあったが、それでも渡り鳥の大群の飛翔や煌めく魚群の泳ぎを彷彿とさせる滑らかで躍動的な群舞は永遠に浸っていたい空気感に満ちていて大満足。
「Carman」で主役を務めていたAlan Vincentの脇役に徹しながらも他のどのダンサーよりもMatthewが求めているであろう音の取り方や演技の落とし所を見せてくれるベテランならではの意地みたいなものも間近で観ることが出来てこれまた大興奮。
終演後のお見送りサービスでは彼ともう一人の名脇役Tasha Chuの二人がずっとブンブン手を振っていて、血まみれの衣装の主役二人に会いたかったであろう観客の大多数の気持ちに反して僕個人としてはそれ以上は有り得ないサービスに大感謝。僕は手を振るのは辞めて胸に手を当てて感激したというジェスチャーで前を通り過ぎたがその瞬間だけ営業スマイルを辞めて真顔で「Thank you…」と声を掛けてくれて嬉しすぎて腰を抜かしそうだった。
去年の12月に上演された元・劇団四季メンバーによるクリスマスコンサートに関わり今年の3月の星の王子様・朗読劇にも関わり、とても沢山の見過ごしてきた事に気付かされ同時に自分の信念が間違っていなかった確証も得られた。そしてこの「Romio + Juiet」が舞台上から全てを肯定してくれた気がする。
舞台鑑賞から3日後、ずっとあちこち振り回されてきてそれでも僕の世界観が好きで足繁く通ってくれているメンバー達が、有り余る刺激を受けながらも原点に戻り嘘偽りの無い僕の真骨頂の振付に対して半狂乱で喜んでくれたのは言うまでもない。