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引き算しすぎて白紙

いつからだろう、自分の見ている世界を「ほら、こんなに素敵な世界があるんだよ、知らないの損じゃない?」と他人に紹介しなくなったのは。

そもそも僕のような偏った視点の者が素敵だと感じる世界は一癖も二癖もあって万人向けではないものが多い。万人受けするものでさえ見方が50パーミルぐらい斜めになっているのでそんな平衡感覚を失った視点を共有できる人などそうそう居ない。

他人に勧めなくなったというより己の感覚をきちんと理解したからこそ不用意に他言しなくなったというべきかもしれない。或いは心の何処かにシェアすることの美徳感を義務的に背負っていたから伝えることを使命と勘違いして一生懸命伝えるが殆ど伝わらないストレスに悩まされる負のサイクルに嵌っていたように思う。そこには勿論受け取り側の問題だけではなくて僕のコミニュケーション能力不足や上澄みだけ掬って伝えようとする浅はかさに起因するものも多く、素敵だなと感じる世界を冒涜しないためにもダンマリを決め込んだのである。

こんな事を考えていたら20年前の自分を見ているかのような出来事に遭遇した。

その人が素敵だなと感じて少しでもその世界に近付きたいと憧れている気持ちは十分に伝わってきた。しかし、出来上がったものはインスパイアされた数々の名作のコラージュのハリボテであり、そこに血は通っていなかった。

ただ、作品の裏側にその人が見てきた膨大な量のアーカイブスは見て取ることが出来た。流行りに流されない審美眼を持っている人だからこそ、これからそのアーカイブスの中で憧れではなく本人の実体験に基づいて腑に落ちたエッセンスが凝固し、美しく引き算された世界を見せてくれることを期待している。

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