アーティスト紹介に見せかけた只の嘆き
Yehezkel Razというアーティストがいる。数少ない情報から分かるのはイスラエルのミュージシャンかな?ということと複数の楽器を演奏できるマルチミュージシャンであること、ぐらい。
多分に西洋化された教育の匂いは感じるが民族の血は隠せるわけもなくそこかしこに仄かに現れる独特の音階に異国情緒を感じて「飛んでイスタンブール」をつい口ずさむ。イスタンブールと言ってる時点で間違いなのだが…。
この誤った異国情緒感はハリウッドの「Samurai」の当たらずとも遠からずな認識にも似て、完全に正しく理解してしまったら浪漫というものが損なわれてしまうので誤ったままで良いのだ、と思い込むことにしている。
そんな誤解だらけの耳で聞くYehezkelの音楽は中東は砂漠と破壊された石造の建物だけの荒涼とした景色だけじゃないんだよ、と教えてくれる気がする。現状はかなりそれに近い状況であったとしても、遥か昔には木々が生い茂り豊かな水が流れ野生動物の楽園であったかもしれない。そんな絵を見せてくれている気がする。
ヤハウェという唯一神を信仰しているのにユダヤ教・キリスト教・イスラム教と三つの宗教に枝分かれしてしまったがそれらの共通の聖地はエルサレムでありここでは三つの宗教が共存している。
ユダヤの遺構「嘆きの壁」はユダヤの象徴としてだけではなく全ての民族の失われたものへの悲しみと共に在る。
考えてみればローマ帝国はろくでもない。十字軍の名の下に侵略と破壊の限りを尽くし民族を浄化し何世紀もの間地中海沿岸を我が物顔で統治し続けたのだ。飲み込まれずに残っていたらどれほどの素晴らしい文化が現在まで引き継がれていただろうか。
Yehezkelの音楽はどうしても純粋に音を楽しませてはくれない。気を抜いていると紀元前の世界に飛ばそうとしてくる。いや、それでも構わない。イヴを唆した蛇に会ってその林檎は品種改良を重ねた糖度の高い青森産の林檎とどちらが美味しいのか議論を交わしたい。