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虚空と様式美

パートナーからは散々やれと言われていたがなかなか手を付けられずにいた事を一つ始めた。

それはこれまでに自分が創ってきた作品のアーカイブスを整理して公にお披露目する事。各作品のDVDのストックはあるのだが、いかんせんデジタルに弱いためYouTubeや SNSにアップ出来ずにいた。去年買ったMacBookも一眼レフで撮ったデータを取り込んで編集する作業こそ慣れたが、DVDのデータを読み込むなんてことは想像もしたことが無くサッパリ理屈が分からないと人間て虚空を見つめるんだなぁと再認識。

いやいや、宙を見てる場合じゃない、俺はなんとかするって決めたんだ、詳しい人にちょっと聞いてみよう!

しかし、返ってきた説明に唖然とする。まず使われている専門用語がまるで分からない。

「VIDEO_TSフォルダから「.VOB」ファイルをコピーそのファイルの拡張子を「.VOBから.mpeg」に変更」

うーん、これはいにしえの法典か何かですか?

乗りかかった船なので諦めずに方々探してようやく親切な説明を見つけその通りに操作してみると瞬く間に一公演分の動画データがMac内に保存された。さて、それでは満を持して編集してみましょうかねとDaVinci Resolveを開いてデータを読み込もうとするがウンともスンとも言わない。どうやらDaVinci Resolveで扱える動画ファイル形式(きっとこの言い方も間違っている)が合っていないようで調べてみると「これなら扱えますよ」一覧がドッと出てきた。

* lmf
* mov
* mxf Op1A
* mxf Op-Atom
* braw
* mts
* cri
* avi
* mp4
* dcp
* mj2
* m2ts
* mxf Op1B
* SHV
* vrw
* cine
* r3d

うーん、イヤになっちゃう。。。

またしても暫く虚空を眺めるひととき。

一進一退を繰り返す作業に段々と愉快になってしまい、今タイムスリップして高校の数学や物理の授業を受けたらさぞ楽しいだろうなぁとてんで成績が振るわなかったあの頃を恨めしく思ったり。

そういえば中学の頃、今で言うと「グレちゃった」友達が数人居て大抵の家庭は「そんな子と付き合うのやめなさい!」と注意するところを僕は何故か彼らと普通に接することが許されていて、興味本位で「ねぇ、なんで勉強しないの?」と聞いたことがある。返ってくる答えの第一声は「ダリいから」ではあるが暫く待っていると「俺なんかが勉強したって何のためにもなんねぇだろ?」

彼等に共通して言えることは何も出来ないダメ人間などではなくスポーツ万能だったりとんでもない美男美女だったり面倒見の良い兄貴姉貴分だったりするのだ。彼等の勉学に対するモチベーションを何が奪ったのかは定かではないが「何のために学ぶのか」皆目見当がつかなかったらそりゃあ学びたくもなくなるよなぁ…と深く共感したのを覚えている。

そんな僕も20代後半から40代半ばは暗黒時代だった。何も学びたくない、世の中と関わりたくない、どうせ今更頑張ったって陽の目を見ずに終わるんだ、そんな考えに支配されていた。

40代では自分のやりたい事を惜しみなく詰め込みすぎた作品を創ってはパートナーにケチョンケチョンに酷評され「様式美たるものを知れ」と口酸っぱく何度も言われ、「もしかしてこういうことかしら…」と納得が行った作品が50代に突入した2017年に上演した「Hotel」だった。2005年初演版のリメイクではあるが初演時の情念みたいなものは完全に削がれ何処を切り取っても美しい世界が描けた自負がある。

今もし更なる再演版を拵えたらどうなるのか?興味はあるが長すぎる第二のモラトリアム期を経て迎えた50代は何もかもが刺激的で学ぶことが楽しくて仕方がないので外部から依頼でもされない限り自ら作品を創ることは今の所無いだろう。

その代わり膨大なアーカイブスを引き続きご披露申し上げることにする。

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