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こんな夢を見た。
私は大きな飛沫を上げながら荒々しく進む蒸気船の上に乗っている。
気がつくと、遥か彼方の地平線まで見渡せる船の展望デッキに私は一人で立っていた。
私は確か、、、、、あれ、、、?
私は何をしていたんだっけ?
———どうしても思い出せない。
私以外に誰もその船に乗っている様子は無い。
操縦席からレストラン、ロビー、休憩所などあらゆるところを回ったが、誰もいなかった。
この船はどこへ向かっているのか。
私はどうしてここにいるのか。
何も分からない。
だが、不思議と心細くは無い。
なんなら、興奮さえしている。
太陽の光が更に強くなった。
水平線の辺りには大きな霧がかかっている。
地平線の奥の方に眩しい霧が見えている。
360度どこを見回しても永遠に続く海と霧と太陽の光。私は不思議な心地がした。
潮風が私の頬をすり抜け、心まで浄化してくれる。なぜこんなにも爽やかな気持ちになるのだろう。
進め、進めよ進め。
偉大なる白船よ。
ただただ、荒々しく舞う飛沫だけが青い海を切り裂き進んでいく。
海を焼くような日差しが上から私を照らす。
誰もいない、何もいない、ただ進んでいるだけの白い大型蒸気船。
※
すると、船が切り裂いた海の飛沫が集まり、何やら形を持ち始めた。
あれは、、、鯨?
波がどんどん大きくなっていく。すると、海底の方から巨大な白い物体が見え始めた。
白鯨だ!
「よく来たね!」
私は何故か叫んでいた。
「こっちへおいでよ!」
船の周りを囲っていた巨大な白い物体達がいっせいに船体の真横に沿うように並んだ。
君たちがこの海の住人なのか。
数十匹の波から生まれた白鯨が、船体の周りを囲って進んでいる。
私は、このままどこまでも進んでいくような心地がした。これから何万キロでも、何万年でも進んでいくような気がした。
たくさんの仲間と共に、私は力強く進んでいる。もう、何も怖くない。私は、ひとりじゃない。
すると、船体を囲っていた白鯨の中の一匹が、体をくるりと回転させて太陽の光が伸びてくる方向へ向かって泳ぎ出した。
ひゅるりと海面に浮かんだかと思えば、次の瞬間に海面下に沈み荒々しい波を立てながら進んで行った。
海の獣道が太陽に向けて真っ直ぐ引かれていく。霧の方を目掛けて波が立っていくが、白鯨の姿は見えない。
すると次の瞬間、船底の周りにいた白鯨が一斉に海底の暗闇に消えていき、先程の白鯨と同じように、全方向へ向けて海の獣道を引き始めた。
何が起きているのだろう。
私は一人取り残された。
私は一人また何も無い海の景色を眺める。
私はなぜこの船に乗っているのだろう。
どうして、この船には誰もいないのだろう。
蒸気船は荒々しく進む。穏やかな海を切り裂き、飛沫を上げ、波を立てる。
すると、水平線が微かに動き出した。
いや、水平線の奥から何かの大群がやって来る。
何かが、迫ってくる。
あれは何だ?
黒と白の縞模様をした獰猛な魚の大群が、この船を目掛けて勢いよく泳いでくる。
私は恐怖を感じた。
私に対する憎悪を感じたのだ。
あれは、、、シャチだ!
鯱の大群が、この船を、私を目掛けて泳いでくる。
すると、先程一番乗りで飛び出していった白鯨が海底から太陽めがけて飛び上がった。
大量の水しぶきが地平線の奥にかかっていた霧を吹き飛ばし、私は初めてその奥にある景色を見た。
そこには、太陽の真下にぶら下がる沢山の惑星たちが映っていた。
太陽系の星々を含め、銀河の星々が小さくなって霧の中に浮かんでいたのだ。
鯱が迫ってくる。
白鯨の獣道がシャチの大群へと向かっていく。
すると、霧の中に埋もれていた星々から光が出始めた。何が、起きている。
もうすぐ、鯱の群れと白鯨がぶつかる。
どうなるんだ、何が起きているんだ。
私はただ、見ていることしか出来ない。
先程飛び上がった白鯨が海面にぶつかると共に、霧の中にいた星々は閃光を放ち、白鯨の群れは大きく海面から飛び上がった。
すると、大きな海水の壁ができ、鯱の大群の行く手を阻んだ。そして海の壁は鯱を飲み込み、水平線の奥へと押し戻していく。
そうして、白鯨達はそのまま消えてしまった。
霧が閉じ、また水平線の奥は何も見えなくなってしまった。
何が起きたのだろう。
白い蒸気船は荒々しく進んでいく。
海を切り裂き、飛沫を上げ、進んでいく。
今残っているのは、大量の水しぶきによって空に大きくかかった美しい虹だけだ。
綺麗だ。
不思議なものを見た。
私はこれからも進んでいこう。
白鯨達よ、助けてくれてありがとう。
俺はもう一人で進んでいけるさ。
※
不思議な大自然の理。
私は、生きている。
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