人手不足に悩む職場で、人に定着していただくには①
世の中でテレワークが普及するようになっても、現場で働く“エッセンシャルワーカー”の方々の存在なくして社会は成り立たないと思います。
一方でエッセンシャルワーカーを抱える業界では慢性的な人手不足に悩む企業が多く、「人や組織の問題」の前にそもそも「人が足りない」という難題に直面します。
私自身も20年前に東京都内のマクドナルドで店長をしていたときは人の確保に大変苦労した記憶があり、十分な数のアルバイトスタッフを揃えるのが大変難しい中で何とかやりくりをしていました。
今日ではロボットやAIといった技術革新によって多くの業界で従来と比べて少ない人数でも現場を運営できるようになりましたが、それでも人手不足に悩む企業はまだまだ数多く存在しています。
人手不足の問題は様々な要因が複雑に絡み合っており、一朝一夕では解決できません。そこで、何回かに分けてこの問題について考えてみたいと思います。
どこに問題があるのか
人手不足について、まずは採用の問題と定着の問題に分けて考えてみたいと思います。
そもそも必要な人数を採用できないと何も始まらないのは確かですが、昔と違って今では様々な採用手段があり、外的要因に左右されることはあるものの、一定の投資をすればある程度の採用は見込めるようになりました。
一方で採用しても定着してくれないと、いつまでも採用活動を続ける羽目になってしまいます。とはいえ、採用した人が誰も辞めないのは現実的ではなく、家庭の事情や本人のライフステージの変化といった要因で人が入れ替わることはあります。この場合、退職するにしても急な退職ではないため、先を見越した対策を打つことは可能です。
しかし、下図のように「バケツに穴が開いた状態」になってしまうと、採用した人が不本意な形で流出してしまうことがあり、しかも急に辞めてしまうため対応が追いつかなくなります。
すなわち、本来は辞めなくてもよかった人がある日突然辞める、という現象こそ真っ先に取り組みべき問題と言えます。
また、不本意な形で辞めた人は口コミサイトでネガティブなコメントを残す可能性があるため、企業のイメージを低下してしまい、新たな人を採用するのが難しくなります。
下図のように悪循環に陥ってしまうと、いくら採用活用に力を入れてもバケツの穴は拡がるばかりで人手不足の問題は解消されなくなります。
人手不足は業界の問題というより職場の問題
慢性的に人が足りないのは業界全体が不人気であるため仕方ないという考え方もあります。
ただし、いわゆる不人気業界であっても人が定着する企業もあれば、人気業界であっても人不足に悩む企業もあります。また、同じ企業でも人が定着する職場もあれば、人がすぐに辞めてしまう職場もあります。
私が勤めていたマクドナルドでも、店舗によって大きく異なっていました。もちろん郊外の店舗と都心の店舗では採用の難しさが異なるため単純比較はできませんが、比較的に採用しやすい地域の店舗でも慢性的にアルバイト不足に悩み、社員が休日返上で働いて社会問題にもなった店舗もあれば、採用が難しいオフィス街の店舗で社員が定時に帰れるほどアルバイトが充足している店舗もありました。
(20年以上前の話ですので、現在は状況も変わっていると思いますが)
このことから、人手不足の問題は業界というよりも、個々の企業、職場で考えたほうが適切と思います。つまり、バケツに穴が空いている職場を特定し、バケツの穴を塞ぐための対策を職場ごとに行う必要があると言えます。
バケツの穴をどう塞ぐか
よく行われている対策が待遇面の改善や職場環境の整備です。
とはいえ、給料を上げつづけることはできないうえに、職場の環境も大きく変えることはできません。
そこで、実際に人が突然辞めるときの要因について考えてみたいと思います。
ほとんどの場合において、突然退職する人は本当の退職理由を教えてくれません。職場の上司が嫌で辞めるにしても、表向きは「新しいチャレンジをしたい」といったもっともな理由を出してきます。
とはいえ、突然辞めるので何らかの要因はあると考えられるので、大きく2つの仮説を立てることができます。
1.「そこで働きたくない」と思った
待遇や環境に不満があってもすぐに退職につながるとは限りませんが、人間関係のトラブルや本人にとって理不尽な扱いを受けたといったことは、強い退職の要因になり得ます。
何をもって「働きたくない」と思うのかは人それぞれですが、少なくとも本人にとって容認しがたいことがある場合、その職場から去ってしまう可能性が高くなります。
2.「そこで働き続けたい」と思えなかった
特に不満がなくても、その職場で働き続ける理由がなければある日突然辞めてしまうことはあります。それこそ「金の切れ目が縁の切れ目」と言わんばかりにより好待遇の職場があればすぐに移ってしまいます。
そのため、辞めてほしくない人を職場に留まっていただくためには、その人にとって「この職場で働き続けたい」と思える理由を作ってあげる必要があると言えます。
以上をまとめると、バケツの穴を塞ぐためには、「そこで働き続けたい」と思える要因を増やし、「そこで働きたくない」と思う要因を減らすことが基本になります。
このとき、重要なのは両者のバランスです。「そこで働きたくない」と思う要因をゼロにするのは理想ですが、現実的にはほぼ無理と思います。実際に仕事をしていく中で「どうしても合わない人がいる」、「自分の評価に納得がいかない」といったことは避けられません。
とはいえ、「そこで働きたくない」と思う要因よりも、「そこで働き続けたい」と思える要因が勝れば、その人は職場に留まっていただける可能性は高くなります。
ちょっと極端な例ですが、以下の2人の事例で考えるとわかりやすいかもしれません。
Aさんは職場に対して特に不満を持っていないが、仕事は単なる生活の手段として割り切っており、職場や仕事に対して強い思い入れはない。
Bさんは上司に対して強い不満を持っており、周囲の同僚ともうまくいっていないが、この仕事は自分の天職と思っており、職場に対しても強い愛着がある。
傍から見ると、Aさんのほうが特に問題なく働いているように見えるかもしれませんが、Aさんをその職場に留めておく力は弱いため、ちょっとしたことで辞めてしまう可能性があります。
一方で、Bさんは色々問題を抱えており、退職のリスクも高いを思われがちですが、Bさんをその職場に留めておく力も強いため、残ってくれる可能性も高くなります。
基本的な考え方はシンプルなものですが、ここで難しいのは「そこで働き続けたい」と思える要因も、「そこで働きたくない」と思う要因も人によって異なるということです。
そのため、自分の基準だけですべてを決めるのではなく、様々な視点から人が辞める要因と残る要因について幅広く考えることが必要です。
「人はどういうときに辞めたくなるのか」については次回の記事で更に掘り下げていきたいと思います。
今回もお読みいただきありがとうございました。