「何を話してもいい」と言われても、人は言葉を選んでしまう
チームワークを高めるための第一歩として、「互いに信頼し合い、本音で話し合える関係をつくる」というのがあります。
これはこれで大切なことですが、実際に本音で話し合えるようになるまでには高いハードルを越える必要があり、簡単には到達できません。
例えば、チームのリーダーが「対話会」を主催してメンバーに「今日は何を話してもいいですよ」と投げかけたとします。
リーダーとしては「普段言えない悩みを言ってほしい」という思いはありますが、「ぶっちゃけ○○の仕事はやりたくない」「○○さんの言い方が苦手」なんてストレートに言うメンバーはほとんどいません。
(空気を一切気にせずに言える人もたまに居ますが、貴重な存在です)
研修の場でも同様で、講師が時間をかけて参加者との信頼関係をつくったうえで、「ぜひ本音を話してください」と投げかけても「本音」が出てくることはほとんどありません。
前向きな姿勢で参加されている人でも、「あっ、これは言葉を選んで話しているな」というのがはっきる分かるほど、言いたいことをオブラートに包んで話そうとします。
人は「言っていいこと」と「言ってはいけないこと」の線引きをする
本音を言わないのは「相手を信頼していない」ということもありますが、信頼している相手であってもすぐには本音は言えません。
心の中では尊敬し、信頼している上司であっても「言っていいこと」と「言ってはいけない」を区別しながら発言していきます。
この「言っていいこと」と「言ってはいけないこと」の線引きが人によって異なることが本音で話してくれない要因ではないかと考えています。
下図のようにリーダーとしては「自分への不満も含めて何でも言ってほしい」と思っていても、メンバーはどこかで線引きをしてしまいます。
そのため、「仕事に対する不平不満」は言えても、会社やリーダーへの不満は「言ってはいけない」と考えてしまいます。
本音を引き出すためには、「言ってはいけないライン」をとことん下げる
本音を引き出すためには、相手が「言ってはいけない」と思っていたことでも「言っていいんだ」と思えるようにする必要があります。
そのためには相手が思っている「言ってはいけないライン」を下げてあげると良いかもしれません。
ここでは研修やワークショップで私がよくやる方法を2つ紹介したいと思います。
①.自分から「言ってはいけないこと」を口にする
ある企業の管理職研修では「部下に対してどう思っているのか」を話していただく場面がありましたが、「○○さんにはもっと成果を出してほしい」とか「○○さんには自分から成長してほしい」といった”綺麗ごと”ばかりが並んでいました。
(もちろんこれはこれで嘘ではないと思いますが)
そこで、私はあくまで研修の場に限定することを伝えたうえで、「ぶっちゃけコイツ使えない」とか「コイツは信用ならない」と思っているなら言っていいですよと投げかけました。
そうしたらそれまで出てこなかったネガティブな本音が次から次へと出てくるようになり、ここに来て管理職の皆さんはようやく「本当は部下に任せることができない自分がいる」ことに気づくことができました。
この方法は即効性がありますが、難点は自分が問題発言をしてしまって自爆する恐れがあるので、時と場合を考えて使ったほうが安全です。
②.「言ってはいけないライン」を議論してから本題に入る
2つの目の方法は時間がかかりますが、参加者の納得度が高いというメリットがあります。
この方法はチームで対話会を始めるまえに、まずが「対話のルール」を決めるということを行います。
そこで、「他人に言ってほしくないこと」を全員に出していただき、全員が賛同できる最も低いラインを「ルール」として設定します。
例えば、ある人が「他人の悪口を言ってはいけない」ということを提案したとき、別の人が「でも、他の人のやり方に納得がいかないのは言いたい」と反論したとします。
そこで、「他人の人格を否定することはNGだが、他人の行動を否定するのはOK」というラインを提案し、両者が賛同すればこれを採用します。
この方法のポイントはルールを決めるプロセスに全員を参加させることであり、参加者にとっては自分自身も参加して決めたことなので、受け入れやすくなります。
「言ってはいけないライン」が明確になれば、あとは安心して発言できますので、本音も出やすくなります。
本音を引き出すためには工夫が必要
本音で話し合える関係を築くためには相互の信頼関係が前提となりますが、これだけでは気軽に本音は出せないので、コミュニケーションの工夫として「言っていいこと」と「言ってはいけないこと」の線引きを明確にするとよいかもしれません。
他にも様々な方法があると思いますが、本音を引き出すための一つのやり方としてご参考になれば幸いです。
今回もお読みいただきありがとうございました。