餅つきをしておでんを食べて過ごす年の瀬。
先日、南足柄にお住いの陶芸家のご家族から素敵なお誘いをいただいた。
「年の瀬にうちで餅つきをするのでれいちゃん、もしよかったらいらっしゃいませんか?」
餅つきは幼い頃、年始に家族旅行で宿泊した旅館で見たことがあるくらい。自分でついた経験はなかった。ぜひ経験してみたいという気持ちと、陶芸家のご家族に1年ぶりにお会いしたい気持ちとで二つ返事で参加の旨を告げた。(ちなみに陶芸家のご夫婦については以前記事を描いている)
年末に箱根旅行をする方々の中継地で利用される小田原駅。朝から駅弁や土産物を買い求める人でごった返していた。そんな中、私はするりと人混みを抜けて大雄山線と呼ばれるローカル線に乗り継ぐ。
電車に揺られ、数駅。最寄り駅に到着した。お迎えの車に乗車し、懐かしい景色に思わず笑顔になる。陶芸家のご友人の方や、ご近所の方。見ず知らずの方ばかりだったけれど、各々が好きな温度感で楽しむ場に力んでいた心がふっとゆるむ。その後、お米が炊けたとのことで1回目の餅つきが行われた。ちなみに6回戦まであるそう。
「よいしょ~」「あと3回~!」
声が飛び交う。私も杵を持ち上げて餅をつく。重いけれど、声援を受けてつくのは悪くない。お米がどんどん“餅”になっていくのは見ていて飽きなかった。
つき終わり、完全に“餅”になったものを一度お櫃に上げる。そこから、水をつけた手で丸めていく。
丸めたお餅にトッピングや味付けをしていく。
自家製あんこにきな粉、じゃこおろしに磯辺風。つきたての赤ちゃんのような肌のお餅にトッピングの化粧がなされていく。早く食べたい気持ちをぐっと堪えて準備をする。
大きな鍋に入ったおでんもリレー式に受け取る。20人近くの方々と一緒に乾杯をして、皆でつきたてのお餅をいただく。もち~っとしていて、つるつるで。味付けも最高に美味しかった。おでんの出汁も身体に沁み渡る。個人的にはきな粉が大優勝だった。
「美味しいですね~」
「じゃこおろしも美味しいですよ」
「ビール飲みますか?」
初めてお会いした方と食卓を囲めている自分に驚いたけれど、食事時間を空けていたり、お餅がお米由来なこともあってさほど緊張はしなかった。何より、陶芸家の梶原さんのお人柄とそのお知り合いの方とあって終始なごやかな雰囲気だったのが安心できた最大の理由だと思う。おでんは思わずおかわりをしてしまった。
庭先で、縁側で。各々談笑しながらお餅を味わう昼下がり。いい時間だなと1人でぼんやり思いながら過ごした。私は大概石油ストーブの前で暖を取っていた。
「れいちゃん焼き牡蠣いる?」
「あ、じゃあ1個いただきます」
ひとしきり食べ終わって(私は)各自デザートを食べたり、焚火で牡蠣やソーセージを焼いたりと好きな時間を過ごした。お餅美味しかったな、幸せだな。うん、幸せ。最近、上手くいかないことが多くて心が折れそうな瞬間が何度もあったけれど、南足柄の空を見上げて。「世界って広いぞ」って思って空気をたっぷり吸い込めば何とかなるさ、と思える。
「れいちゃんこれ持って帰りなね」
そう言って、たっぷりおでんとお餅(自家製あんこも)を持ち帰らせてくれた。味が染みた大根と玉子。それから、みんなでついたお餅。「誰も私のかばんに入っていることを知らないぞ」と訳の分からぬ幸せを1人噛みしめながらガタゴトと電車に揺られて帰路につく年の瀬だった。