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【NEWS】ゲーム中の画面で映画を作る特殊ジャンル「マシニマ」がここまで来た。『Day Z』のプレイヤーに960時間以上密着したゲーム内ドキュメンタリー映画『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』が11月30日に公開。

ドキュメンタリー映画『ニッツ・アイランド 非人間のレポート』が11月30日よりシアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開を予定している。本作はオンライン・ゲーム『DayZ』内に963時間潜入し撮影されたドキュメンタリー映画である。

エキエム・バルビエ、ギレム・コース、カンタン・レルグアルクの3人で監督し、本作は作られた。彼らはインタビュアー、技師、カメラマンの役割を担い、チームでサバイバルしながら、遭遇したプレイヤーたちにインタビューを重ねていった。

暴虐の限りを尽くす集団や”誰も殺さない”ことを信条とするグループ、プレイヤーたちに信仰を施す自称牧師。様々なプレイヤーとの出会いを通して、撮影クルーは人間の二面性に直面する。

“リアル”と“バーチャル”の境界を問う本作は、先鋭的なドキュメンタリーに特化した第54回ヴィジョン・デュ・レール(スイス)で国際批評家連盟賞を受賞したほか、山形国際ドキュメンタリー映画祭2023審査員特別賞受賞をはじめとしてドキュメンタリー映画として各国で高い評価を受けた。 



この映画は単なる「ゲーム内をドキュメンタリー映画にした」というワンアイディアの作品ではない。「マシニマ」と呼ばれる、ゲーム中の画面を使った映画製作ジャンルに連なる一作なのである。

執筆 / 葛西祝・両目洞窟人間


『Day Z』ドキュメンタリーは、ゲームプレイから映画を作る試みがたどり着いたものである。


さて”マシニマ”について説明しておこう。これは「マシン」と「シネマ」を組み合わせた造語であり、一般的にはビデオゲームを用いて作られた映画である。
ゲーム内のグラフィックを使用して映像を作るマシニマは、始まりは1980年代のデモシーンからだと言われている。1990年代にはid Softwareの『Doom』や『Quake』などのFPSをゲームプレイした録画からマシニマが作られていた。

もともと、これらの録画はスピードランやマルチプレイヤーマッチを記録する目的であったが、次第にこれらの映像にストーリーがつけられるかたちで、ひとつの映画となってゆく。『Quake』を用いて作成された映画であったことも『Quakeムービー』と呼ばれていたが、次第に『Quake』だけでなく様々なゲームでこのような映画が作られていった。

現在は『GTA』シリーズなどのゲームを利用してマシニマが作られ続けている。今ではマシニマ専門の映画祭も登場しており、「ミラノ マシニマ フェスティバル」にて『ニッツ・アイランド』も評価されてきた

 

“ゲームアート”としてのマシニマ


マシニマはまた、 “ゲームを一つの素材として利用したアート”であるゲームアートとしても活用されてきたジャンルである。

たとえば上記の『Limbus lV』というマシニマによるゲームアートは、ゲームプレイ中にアクセスできない空間(いわゆる壁抜けで空間の外に落ちてしまうバグの時に見える世界)を、 グリッチや改造を使用して探索することで、ビデオゲームが持つ、現実世界や映画とは違うメディアの特性を明らかにする。

その意味で、『ニッツ・アイランド』は現実とビデオゲーム、映画とビデオゲームというメディアの差も自覚的でありながら、異色の場所のドキュメンタリーであるという体に収めているのが興味深いところだ。

このように、「ニッツ・アイランド」はゲーム中の空間を使った映画のみならず、ゲームアートなどの文脈も踏まえたようなプロジェクトには違いない。あるビデオゲーム内におけるプレイヤーのドキュメンタリーであるだけではなく、ビデオゲームと映画、ビデオゲームとアートにまたがる一つの可能性について提示しているだろう作品なのだと思う。





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