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世界で勝てる「国産エンタメAI」の条件 - 私達の未来。


こんにちは、AiHUB代表の園田 励です。
少し前に、こんな主張をしました。

「民間からでも今の日本に最大値で貢献できる方法が、僕ら日本人が胸を張れるジャパンエンタメAIを国産でつくることです。このディープテックが商流を根本から変えます。」

この言葉には、日本のエンタメ産業とAI技術への強い情熱、そしてある種の危機感を込めています。日本発の「国産エンタメAI」を本気で創り出すことが、今の日本にとって最大の貢献になりうる。そしてこの取り組みが、エンタメ産業のビジネス構造(商流)を根本から変え、世界のあり方すら動かす可能性がある——。私はそう考えています。

とはいえ、「なぜそこまで言い切るのか?」と疑問に思われるかもしれません。本記事では、エンタメ業界の皆さんやAI開発者、起業家、投資家の方々に向けて、私の主張の背景をまとめてみました。日本のエンタメ(アニメ・ゲーム・音楽など)とAIの融合が生み出す新たな可能性や、生成AIが制作プロセスをどう変えていくか。さらに、国産AI・ディープテックの重要性と海外勢との競争日本発のディープテックが商流をどう変え得るか。最後に、世界で勝てる「ジャパンエンタメAI」の条件を具体例や最新動向を交えながらお話しします。

日本はこれまで、「ドラゴンボール」「ポケットモンスター」「ワンピース」など、世界中で愛されるコンテンツIPを数多く生み出してきました。実際、累計収入トップ25のIPの約半数が日本発だと言われるほど、私たちの国には強力なコンテンツ資産があります。そんな“コンテンツ大国”である日本が、次なる飛躍のためにAIとどう向き合うべきか。一緒に未来をのぞいてみましょう。


日本エンタメ×AIの融合がもたらす新たな可能性

アニメ、ゲーム、音楽の世界に訪れる変革

アニメ、ゲーム、音楽——私たち日本人が得意とし、世界に胸を張れるエンターテインメント分野に「生成AI」が融合したら、一体どんな化学反応が起こるでしょうか? 今まで見たことのない体験やビジネスモデルが生まれてくると私は考えています。

まずアニメの分野。たとえばキャラクターやストーリーの自動生成です。近年の画像生成AIの進化はめざましく、テキストからアニメ風のビジュアルを起こすことも夢ではなくなりました。Stable Diffusionなどのオープンソース技術は、自分好みにスタイルをカスタマイズでき、独特のイラストをいくらでも生み出せます。もし「こういうキャラが欲しい」と思ったら、すぐにAIにプロンプトを与えてイメージを生成できる。これはクリエイターの頭の中にある「想像上の世界」を、瞬時に可視化する画期的なパートナーと言えます。

ゲームでは、大規模言語モデル(LLM)を活用したNPCが、従来のように決められたセリフを話すだけでなく、台本なしのやり取りを実現しようとしています。こうしたAIキャラと本当に会話しているような体験が生まれれば、ゲーム世界が今まで以上に“生きて”いると感じられるでしょう。物語がプレイヤーの行動に応じてどんどん変わっていく構造を作るのも、もはや夢物語ではありません。

そして音楽の世界では、AI作曲・AI作詞の技術がぐっと身近になりつつあります。月額2000円程度で商用利用可能な音源を生成してくれる「SOUNDRAW」といったサービスもすでに登場しており、初心者でも「こんな雰囲気の曲が欲しい」と入力するだけで、数十秒後にそれっぽい音源が出てきます。これまではプロの手を借りないと難しかった“オリジナルBGMづくり”が、ぐっとハードルを下げてくれる。AIが作曲し、AIがボーカルを歌うバーチャルコンサート——そんな新しいライブ体験だって実現するかもしれません。

例えば、バーチャル空間上でAIアイドルが世界中のファンと対話しながらライブを行うイメージも十分あり得ます。既に地方自治体などでは、メタバース上でイベントを開催し、24時間バーチャル接客や多言語SNS発信でファンを獲得する取り組みが始まっています。人材不足や地理的ハンデを超えて、「好き」を世界中に広げる力を持つのが、この生成AIなのです。


生成AIが制作プロセスを革新する

1. アニメ制作の自動化と効率化

アニメ業界が抱える人手不足は、昔から深刻な問題です。しかし、生成AIがその解決策の一つになるかもしれません。

  • 「中割り」(中間フレーム)の自動生成
    キャラクターが動く際、原画と原画の間に必要なフレームをAIが補完してくれる技術が少しずつ実用化しています。ベテランアニメーターが不足していても、AIが動きの粗を埋めてくれるなら、全体のクオリティを維持しつつ、より多くの作品を作れる可能性があります。

  • 背景美術の自動生成
    Netflix Japanが試験的に背景の全てを生成AIで作った短編アニメ『犬と少年』を公開し、大きな話題を呼びました。最終的な仕上げは人間が行っているものの、AIを活用することで制作時間の短縮につながると期待されています。

もちろん、AIのアウトプットをどう扱うかという課題は残ります。作画スタイルや著作権、クレジット表記の問題など、クリエイターとの協力体制やガイドライン整備が必須です。それでも、「AIに任せられるところは任せ、人間はよりクリエイティブな部分に集中する」という方向性は、アニメ制作をより強靭にするはずだと私は考えています。

2. ゲーム開発とAI: NPCからコンテンツ生成まで

ゲーム開発でも、生成AIの活用が急速に進んでいます。

  • NPCとの自由対話
    大規模言語モデルのおかげで、プレイヤーがどんなことを言っても、NPCが自然に理解・返答してくれるシステムが実現しつつあります。これにより、ゲーム内の会話が毎回違う展開を生むことも可能になります。ただし、暴走や不適切表現が起こらないような検証・フィルタシステム、デザイン面での工夫が必要です。

  • コンテンツの自動生成
    ダンジョンの地形、敵キャラの配置、アイテム説明文……こういった要素をAIが自動で生成する技術も研究されています。プレイヤーの熟練度やプレイスタイルに合わせて、ゲームの展開がダイナミックに変化する仕組みが実装されれば、“一度クリアすれば終わり”の概念が薄れるかもしれません。

一方で、スクウェア・エニックスが名作ADV『ポートピア連続殺人事件』のAI技術デモにおいて「雑談機能」を削除したように、自由すぎるAIが商用ゲームの整合性や体験を損なう可能性も否めません。ここをどうクリアするかがゲーム開発の大きな課題ですが、海外から大きな投資が集まっている分野でもあり、日本企業も新しい体験づくりに挑む絶好のチャンスです。

3. 音楽・映像制作への波及

  • 音楽制作
    AI作曲はすでに商用レベルで普及し始め、映像制作者や店舗経営者が手軽にオリジナル音楽を得られるようになってきました。AIボーカルやAI歌詞も合わせれば、“AIアーティスト”が本格的に登場する可能性すらあります。

  • 映像制作
    Runway MLなどのツールは、映像編集や合成、短い動画生成を自動化し、プロモーション映像の制作を劇的に効率化してくれます。将来的には「曲に合ったミュージックビデオをAIが自動生成する」「俳優なしで短編ドラマを作る」といった手法が普及するかもしれません。

このように、生成AIがエンタメ制作全体を再定義し始めているのは間違いありません。制作時間の短縮やコスト削減、クリエイティビティの拡張といった恩恵は大きいですが、AIはあくまで“道具”であり、最終的には人間の情熱とセンスが光る部分が勝負を分けるでしょう。AIと人間の最強タッグこそ、新時代のエンタメを支える原動力になるのです。


国産AIの重要性とグローバル競争

米国・中国勢がリードする生成AIレース

生成AIが注目されるにつれ、世界中で競争が激化しています。現状、ChatGPTやStable Diffusion、Midjourneyなど、有名な基盤モデルの多くはアメリカや欧米で開発されたものです。中国勢も百度やアリババが自前の大規模AIを猛追し、海外市場に打って出ています。
この状況に対し、日本はどう動くべきか。私は、「日本語・日本文化に特化した国産のAIモデルをもっと育てる必要がある」と考えています。

なぜ国産AIが必要なのか?

  1. 日本語・日本文化への最適化
    日本のエンタメをAIで扱うには、微妙な日本語表現や文脈、文化的背景をしっかり理解できるモデルが欠かせません。海外製AIが英語ベースで学習している場合、どうしても日本向けのローカライズが甘くなりがちです。だからこそ、NTTが開発中の「tsuzumi」をはじめ、日本語特化の大規模言語モデルが期待されています。

  2. クリエイティブ領域での独自性
    日本にはアニメ・漫画・ゲーム・音楽といった強力なコンテンツ資産があります。もし国産AIがこれらの膨大なデータを学習し、日本独自のアートスタイルや物語構造を深く理解すれば、海外には出せないクオリティや独創性を実現できるでしょう。

  3. データ主権とビジネス主導権
    AI活用が進むほど、誰がAI基盤を持っているかが重要です。もし海外製AIに全面依存すると、創作の根幹やデータ、そして利益までもが外部に流れてしまいかねません。日本でディープテックを掌握していれば、エンタメビジネスの価値を国内に留めながら世界へ発信できます。

政府も2024年度のAI関連予算を倍増させる方向で検討しており、「第二のChatGPT」を日本から生み出す機運が高まっています。アメリカはもちろん、中国の百度やアリババも独自のモデルで猛追する中、日本が世界で存在感を示すなら、エンタメという“得意ジャンル”での勝負が一つの大きな戦略になると私は考えています。


ディープテックが商流を根本から変えるとは?

ここで言う「ディープテック」は、ただのUI/UXではない基盤モデルやインフラ的技術を指します。つまり、表からは見えにくいものの、エンタメビジネスの価値の流れ方そのものを左右する技術のことです。「商流」とは、製品やコンテンツが生み出され、消費者に届くまでの一連の流れを指しますが、ディープテックはそこを根本的に組み替える力を持っています。

1. 創作の民主化と新たなクリエイター像

生成AIが進歩すれば、個人でも高品質な作品を作り、直接世界に売り出せる時代がやってきます。例えば、一人でAIを駆使し、長編アニメを制作し、ネット配信する——そんな光景が普通になるかもしれません。そうなれば、大手スタジオ主導や制作委員会方式といった従来の形が揺らぎ、才能ある個人が直接ファンから支援を受けるというエコシステムがさらに拡大します。VTuberやYouTuberがまさにそうですが、AIはこの波をさらに加速させるでしょう。

2. ファンエコノミーとパーソナライズ供給

AIによって、作品を一人ひとりの好みに合わせて自動生成する時代が来るかもしれません。結末が変わるだけでなく、推しキャラが主人公になるバージョンなどを好きなだけ作れたら、ファンは自分だけの特別な体験を楽しめます。ここで生まれるのが新たなファンエコノミー。従来は作品を“一括販売”していたものを、少量多品種・超パーソナルに供給できれば、特定のニッチ層が世界各地から集まっても商売が成り立つようになります。AIが言語や文化の壁を取り払ってくれれば、日本のコンテンツがさらに遠方のファンを掴める可能性が高まるでしょう。

3. プラットフォームと流通の再編

「AI時代のYouTube」や「AI時代の同人誌即売会」が登場すればどうなるでしょうか? 今は映像といえばNetflixやYouTube、音楽はSpotify、Apple Musicが強大なシェアを握っていますが、コンテンツ生成とマッチングをAIで自動化できるプラットフォームが生まれれば、中間業者の存在意義も変わるかもしれません。
もしそのプラットフォームを日本企業が抑えれば、世界的なビジネス主導権を得るチャンス。逆に海外に独占されれば、日本のコンテンツ制作者は新たなルールに従うしかなくなります。まさに商流の主導権をめぐる戦いです。

4. データと収益の循環

生成AIは、ユーザーの利用データを取り込むほど賢くなります。つまり、データが集まる場所に強みが集中し、そこがさらに良いサービスを生み出し、またユーザーを呼び込むという好循環が起きる。逆に海外のプラットフォームばかり使われると、データも利益も国外流出してしまい、日本のエンタメ産業にはあまり恩恵がない……というシナリオもありえます。ディープテックを国内で掌握するというのは、言い換えれば「データ・価値の流れる川筋を日本発のものにする」こと。エンタメの海外売上が年間4.7兆円規模とされる中、ここをどうデザインするかは、日本経済全体にとっても大きな戦略課題です。


世界で勝てる「国産エンタメAI」の条件

最後に、本当に世界で通用する「ジャパンエンタメAI」を形にするための条件を整理しましょう。

  1. 日本独自の創造力×最先端技術の融合

    • 日本語データ、日本のアニメ・漫画・ゲーム・音楽などの膨大な資産をAIが学習し、日本ならではの文化や表現を高次元で取り込む。

    • それ自体が世界での差別化要因となり、「クールジャパンAI」としてブランド化も期待できる。

  2. ディープテック開発への継続投資

    • 基盤モデルやインフラといった“根幹技術”は、時間と資金をかけなければ育ちません。

    • 大手企業やスタートアップ、研究機関、政府が連携して腰を据えた研究開発サイクルを回す。人材育成も含め、国家プロジェクト級の取り組みが必要。

  3. クリエイターとの共創と受容環境の整備

    • AIが自動生成すると、著作権や作画スタイルなどの問題が浮上しがち。

    • AIで作った作品をどう扱うのか、人間との共創モデルをどう作るのか——クリエイターの理解と協力が欠かせない。

    • 公正なルール作り、学習データに対する報酬や還元の仕組みなど、エコシステム設計が急務。

  4. オープンなコミュニティとエコシステムの構築

    • AIは一社だけでは育たない。オープンソースコミュニティとの連携やAPI公開などで、多くの開発者・クリエイターが参入しやすい環境を作る。

    • 企業が自社IPをAIに学習させて、新たな二次創作やコラボ企画が生まれるような“みんなで育てる仕組み”が強みを生む。

  5. 世界市場を見据えた戦略

    • 日本国内だけではなく、初めから英語対応や海外企業との協業、アライアンスを考える。

    • 世界各地に散らばる日本カルチャーファンを取り込み、グローバル展開でスケール。

    • 世界のトップレベルを狙う気概が、結果的に国内の産業にも大きなリターンをもたらす。


おわりに:未来を変えるのは今この瞬間の挑戦

私が「国産エンタメAIをつくろう!」と訴えているのは、単に技術を開発して終わりではありません。これは、日本のエンタメ産業を守り、成長させるための愛と、未来への提言でもあるのです。世界を席巻した日本のアニメやゲームも、時代の変化に対応してこそ進化し続けられます。生成AIという新しい波を恐れるのではなく、むしろ積極的に乗りこなし、主導権を握る。その旗を掲げたい——そう思っています。

幸い、日本には高い志を持つクリエイターや技術者、そしてそれを支えるファンと市場が存在します。あとは、それらを束ねて化学反応(ケミストリー)を起こすビジョンと行動力だけ。AIとエンタメの融合は今始まったばかりで、ここに書いた事例や可能性はほんの序章にすぎません。5年、10年先には、私たちが「こんな未来があったらいいよね」と思っていたことが現実化し、その先に新しい課題も生まれているでしょう。

しかし、それこそがイノベーションの証です。もし日本がこのチャンスを逃さず「ジャパンエンタメAI」を育て上げることに成功すれば、「未来の当たり前は日本が創った」という誇りを胸に、世界に胸を張れるはずです。エンタメ業界の方も、AI開発者の方も、投資家やスタートアップの皆さんも、一人ひとりの挑戦がこの扉を開きます。情熱を持ってこのディープテックに向き合い、商流を変えるイノベーションを起こしていきましょう。

それこそが、私が信じる「今の日本に最大値で貢献する方法」だと考えています。


【引用文献・参考資料】

  1. Jamie Lang, “Netflix Faces Backlash After Using AI Software To Create Backgrounds For An Animated Short,” Cartoon Brew, Feb. 2, 2023.
    https://www.cartoonbrew.com/artist-rights/netflix-backlash-ai-short-dog-and-boy-225988.html

  2. 株式会社世良, 「生成AIによるアニメ制作の未来とは?最新技術と導入メリットを徹底解説!」, 2024年11月20日.
    https://ai.sera-inc.co.jp/

  3. 武山隼大, 「「生成AIでゲームキャラと対話」が困難な意外事情 スクエニの「ポートピア」デモでは雑談機能削除」, 東洋経済オンライン, 2023年5月18日.
    https://toyokeizai.net/articles/-/673488

  4. MIT Technology Review (日本版), 「息づくキャラクターたち、生成AI/LLMが切り拓く『ゲームの新時代』」, 2023年8月.
    https://www.technologyreview.jp/articles/

  5. インフォメーション・ディベロプメント, 「日本発の音楽生成AI『SOUNDRAW』で作曲してみる」, 2023年11月30日.
    https://www.idnet.co.jp/

  6. WEEL, 「有名な国産生成AIサービス6選!海外のおすすめAIやAIサービスの選び方も解説」, 2023年.
    https://weel.co.jp/

  7. Keidanren (日本経済団体連合会), 「Entertainment Contents ∞ 2024 — Act Now! —」提言報告書, 2024年10月15日.
    https://www.keidanren.or.jp/

  8. 園田励 (AiHUB CEO), 「AIと世界中のファンが地方を変える!?」, note, 2025年2月15日.
    https://note.com/

  9. 園田励 (AiHUB CEO), 「『点』のデザインが魂を揺さぶる──生成AIがもたらす新たなクリエイティブ体験」, note, 2025年2月14日.
    https://note.com/


執筆:園田 励(AiHUB代表)
「日本が誇るエンタメの可能性を、AIの力で最大化したい」という思いを胸に、さまざまな活動をしています。少しでも興味を持っていただけたら、SNSなどでお気軽に声をかけてください。私たちと一緒に、新しい時代の扉を開いていきましょう。


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