見出し画像

あなたへ

ねえ、今日も大きな声で笑ってる?
きっとどこかで「おい!」って呼んで、
びっくりするくらい響かせてるんでしょう?
ほんとに、うるさいんだから。

でもね、不思議なの。
あんなに大きかったあなたの声が、
今はどこを探しても聞こえなくて。

    それなのに、心の奥ではずっと鳴り響き続けている。


あなたがいた場所は広すぎるよ。
笑い声がないだけで、
世界がとても静かすぎて、
こんなにも空が遠く感じるなんてね。

あなたの腕は、不器用なくらい大きかった。
ぎゅっと抱きしめるたび、
まるごと包まれて、
私はただ、安心して目を閉じた。


    あなたの声は、風の中にある。


大きくて、まっすぐで、
迷いのないあの声が、
耳の奥で今も響いている。

    振り向けば、
        あなたがまだそこにいる気がするの。


    あなたの声がどこかで響く。

それは風の音かもしれないし、
夕暮れの鳥のさえずりかもしれない。

    でも私は知っているの。
        それが確かに、あなたの声だということを。

大きくて、不器用で、
だけどいつだって温かかった。
何か言いかけては照れくさそうに笑い、
私の肩をぽんと叩く、
そんなあなたの手の重みまで思い出せる。

    それなのに、
        あなたはもうここにはいない。

手を伸ばしても、触れることはできなくて、
名前を呼んでも、返事はなくて。

    なのにどうして、
        あなたの気配はこんなにも消えないの?


夜の静けさの中でふと思うの。
もしかしたら、私はまだ、
あなたを探しているんじゃなくて、
あなたに呼ばれているんじゃないかって。


    どこか遠くで、懐かしい声がする。

「おい」って、優しく、でも迷いなく。

私はふと立ち止まり、目を閉じる。

    その声が、どこへ続いているのかを、
        ゆっくり確かめるように。


    ふとした瞬間、あなたを思い出すの。

朝の光の中、
風の中、
その温もりが、
まだどこかに溶け込んでいるような気がして。
あなたのあの大きな声が、
あの明るくて柔らかい笑顔が。

    まるで、あなたがここにいるかのように。


やりたいことは、たくさんあった。
    伝えたいことが、たくさんあった。

あの瞬間、言えなかった言葉が、
    今も、私の中でひっそりと生き続けている。


あなたの笑顔を見ながら、
    どれほどの「ありがとう」を
        伝えたかっただろう。
    どれだけの「ごめんね」を
        言うべきだったのだろう。

手を伸ばしても届かないあなたを、
    ふと近くに感じる。
振り返れば、
その温もりがまだ残っている気がするのに、
    あなたの姿はどこにも見当たらない。

その虚しさが胸を締めつけて、
    言葉はずっと、喉の奥につかえてる。


あの時、もっと素直に言えていたなら。
    一緒にいることが幸せだと、
    もっと早く、あなたにすべてを伝えていたなら。
今、こんなにも後悔に縛られなくてすんだのだろうか。


でも、時は戻らない。
あの瞬間に戻っても、
やっぱり私は、言えなかったのかもしれない。


それでも、もしも。
    もしも、
        もう一度だけあなたに会えるなら。


    今度こそ、心から伝えたい。

あなたの声を、もう一度聞けるなら、
    その瞬間に、すべてを言いたい。

「ありがとう」も、
    「ごめんね」も。
そして、
     「愛している」も。

そのすべてを、
    胸が痛くなるくらいに伝えたい。

今はただ、
    目を閉じて。



あなたに会えるその時を、
    静かに、静かに待ち続けている。


    その瞬間(とき)が来ることを信じて。



いいなと思ったら応援しよう!