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空色の思い出

――東京へ帰る度、実家に帰る度、僕の心に空色の思い出が蘇るんです。


人生は物語。
どうも横山黎です。

作家として本を書いたり、木の家ゲストハウスのマネージャーをしたり、「Dream Dream Dream」という番組でラジオパーソナリティーとして活動したりしています。

毎月最終日には、誰の目を気にすることもなく、自分の過去についてつらつらと綴っています。今日は11月30日。今月も最後の日がやってきたので、記憶の旅に出かけたいと思います。

今回は「空色の思い出」というテーマで話していこうと思います。



🏨中島みゆきの「ホームにて」

最近よく聴いている曲があります。中島みゆきの「ホームにて」という楽曲です。1977年リリースの古い曲をどうして聴くようになったのか、きっかけははっきりしています。この前泊まったゲストハウスミンタロハットのオーナーがこの曲を弾き語っていたんです。

僕は今、木の家ゲストハウスのマネージャーをしています。茨城県水戸市にある8棟の宿泊施設の管理運営を担当しています。それに加えて、山形県鶴岡市にあるゲストハウスわたうさぎの運営代行もしていて、この前挨拶がてら初めて泊まりにいってきたんです。

で、その帰路、山形駅で降りて、駅近くにあるゲストハウスミンタロハットに泊まりに寄ったんです。詳しくは以下の記事を読んでいただきたいんですが、とにかく最高の夜でした。交流型のゲストハウスの最高峰だと思いました。



毎晩のように料理が振る舞われて、いろんな世代、いろんな国籍の人たちで飲み語り合う場所。それがミンタロハットです。

僕が行ったときは、外国人もヘルパーさんもたくさんいて、ちょっと窮屈に思えるくらい。でも、それはそれだけ他の人と距離が近くなるということで、自然と会話が生まれたし、アットホームな空間に心が解けました。

やがて場が落ち着いてきた頃、オーナーの佐藤さんはギターを手に取り、弾き語りを始めました。さっきまで賑やかだったリビングに、穏やかなアルペジオと柔らかな歌声が響き始めました。

何曲か弾き語ってくれたんですが、最後に佐藤さんが歌っていた曲が、中島みゆきの「ホームにて」だったのです。彼いわく、ミンタロハットのテーマソングらしいです。それくらいに思い入れのある曲のようで、僕自身、ぐっと来るものがありましたし、旅を終えてからもなお、毎日のように「ホームにて」を聴いているんです。


🏨帰りたいけれど帰れない理由がある

「ホームにて」は望郷の歌です。ふるさとへ帰ろうと最終の汽車に乗ろうとしているその瞬間を描いています。しかし、この語り手は結局汽車に乗らないんです。思い出の空を思い出して、懐かしい街や家族に思いを馳せて、ふるさとへ帰ろうとホームへ来たのに、汽車に乗らずに佇んでいるんです。

いろんな解釈ができるほど余白のある歌詞ですが、はっきりしているのは、ふるさとへ帰りたい気持ちはあるけれど、何かが原因で心に歯止めがかかり、汽車に乗らない選択をした、帰省しなかったということ。叶えていない夢があるからなのか、帰ったところでろくな土産話ができないからなのか、あるいは……。

佐藤さんが弾き語ってくれたきっかけもあったし、ザ・フォークソングのセンチメンタルなメロディーが好みってこともあるけれど、歌詞の内容に思い当たる節があることが、今僕がこの曲にはまっているいちばんの理由なんだと思います。

帰りたい気持ちはあるけれど、今はまだ……。そんな風に思って、帰省にあまり気が乗らない自分がいることに気付くことがよくありました。

僕は、東京生まれ、東京育ちの都会っ子でした。だから、僕の実家は東京、僕のふるさとは東京なんです。あのビルが生い茂る、人が行き交う大都会なんです。

大学で水戸へ来て、卒業後も水戸に残って仕事をすることにした、こういっては水戸に失礼ではありますが、なかなか珍しい部類の人間です(笑)

ただ、何かと東京に用事が生まれて、月1~2回くらい行く用事があるので、東京にはよく行っているし、日帰りというのもあれなのでよく実家に泊まっています。

東京へ帰る度、実家に帰る度、僕の心に空色の思い出が蘇るんです。


🏨空色の思い出

駒込駅から坂道を登って、わざわざ歩道橋を渡ります。すぐ近くに横断報道があるからそれを使えばいいのに、毎回歩道橋を使うんです。車の河の上で眺める夕暮れ空が、僕の大好物だったから。

この前、祖母の喜寿の祝いの席がありました。上野の和食屋さんで開かれたんですが、久々に上野公園のなかを通って、あの頃の思い出を空に浮かべながら家族との待ち合わせ場所へと向かいました。

中学生時代、当時付き合っていた人と上野動物園行ったなあとか、その人が誕生日プレゼントに僕が作詞した「Twilight」という詞に曲をつけてアカペラで歌ってくれたなあとか、クリスマスに光の並木道を歩いたなあとか……。



高校時代には親友たちと博物館の屋外スペースみたいなところで企画を持ち寄って、YouTubeもどきのことをしたりもしました。中学高校が上野駅に近かったこともあり、上野という場所にはたくさんの思い出が転がっているんです。

翌朝、僕は水戸で仕事があったので早朝に家を出発。日が昇り始める頃に実家を後にして、最寄りの上中里駅へ向かいました。途中、急な下り坂があって、そこから目の前に広がる線路を一望できるんですが、あの景色が今になっても胸に来るものがあるんです。

あの坂道の上からの景色が好きで、あの頃からよく写真を撮っていました。この前も久々にシャッターを切りました。明らむ東の空が透き通るほどに綺麗で、目が離せなくなって、いつまでも残しておきたいと思って。


水戸にいるときも空色の思い出を想像することはあるのだけれど、それよりも仕事、それよりも自分の夢、そんな風にして遠く遠くへと追いやっていました。

学生が終わって、半年以上たって、まだまだ何も叶えられていなくて、いちばん持ち帰りたい土産話は見つけられていなくて、焦燥感に苛まれるなか、不安定な日々を生きています。

夢を叶えて、ちゃんと帰りたい。

ちゃんと笑顔で、心の底から笑って、僕の物語を伝えたい。

家族に、地元の友達に、今まで出逢ってきた全ての人に感謝を伝えたい。

それまではこっちで頑張るよ。

茨の道をゆくよ。いつか未来の戸を開くよ。

20241130 横山黎










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