見出し画像

大学院で「桃太郎」の授業をしてきた。

――授業終盤、今の桃太郎のアイデアを教室全体で共有していたんですが、ひとりの学生が「『桃太郎』という名前だから男の子と思われがちだけれど、実はこの主人公の心は女の子で……」と語り出したときは、「おおっ!」となりました。


人生は物語。
どうも横山黎です。

作家として本を書いたり、木の家ゲストハウスのマネージャーをしたり、「Dream Dream Dream」という番組でラジオパーソナリティーとして活動したりしています。

今回は「大学院で『桃太郎』の授業をしてきた。」というテーマで話していこうと思います。


🏨大学院で「桃太郎」の授業⁉

10月31日の午前中、僕は大学院で「桃太郎」の授業をしていました。「学校教育における多様性の受容と活用」という授業のゲストティーチャーとして登壇し、「桃太郎からみつめる多様性」というテーマで授業を展開していったんです。

与えられた時間は、なんと90分。ちゃんと大学院の授業です(笑)

半年前に大学を卒業したばかりの青二才が、どうして大学院の教壇に立ったかというと、そもそものきっかけは、僕が「BOOK TALK LIVE ”桃太郎”」というトークイベントを開いたことでした。

僕は大学4年生のとき、「桃太郎」を題材に卒業研究を進めていました。卒論のテーマが「桃太郎」だったんです。

で、僕なりに面白い見解を述べることができて、卒論書いて終わりじゃもったいないなと思ってしまったんですよね。もちろん卒論発表会があったので20分くらいプレゼンする機会は用意されていたのだけれど、物足りなさを感じてしまったんです。

そこで、「BOOK TALK LIVE ”桃太郎”」というトークイベントを企画することにしたんです。卒論のテーマである「桃太郎」について1時間かけて物語るというよくわからんイベントです(笑)

学生最後の集大成として打ち出したこのイベントは、47人のお客さんに恵まれました。4人の運営スタッフをはじめ、2人の撮影係、17人のプチスポンサー、大学図書館や大学広報室、近くのブックエース茨大前店など、たくさんの人を巻き込むことに成功しました。

このイベントはダイバーシティ推進室の職員の目にも留まり、後日取材を受けることになったんです。というのも、公演中、「今の桃太郎は『多様性』がテーマになっている」といった話をしていたんです。そこからゼミの先生がつないでくれて、ダイバーシティ推進室の職員の方の認知を獲得することができたというわけです。

取材後、しばらくたってから、その取材の内容が記事になったんですが、その記事を見てくださったとある教授が、「学校教育における多様性の受容と活用」という大学院の授業を担当されていて、僕をゲストティーチャーに迎え入れようと思い至ったそうなのです。

こんなこともあるものですね。まさか「BOOK TALK LIVE ”桃太郎”」が大学院で授業をする未来に結びつくとは夢にも思っていませんでした。そんなこんなで授業をしてきたわけですが、想像以上に盛り上げることができたので振り返っていこうと思います。


🏨「桃太郎」の授業の流れ

今回の僕の授業の流れは以下の通りです。

①オープニング
・自己紹介
・登壇することになった経緯
・「桃太郎からみつめる多様性」

②多様な桃太郎
・4人グループをつくり、そのなかで「犬」「猿」「雉」「鬼」に分かれる。
・同じ役割同士でグループをつくり、与えられた資料を読み取り、主題や時代性、鬼が象徴するものなどを考察する。

☆各役割に与えられた資料
犬:『初期草双紙集』、江戸時代の「桃太郎」のあらすじ3つ。
猿:『桃太郎主義の教育』、唱歌「ももたろう」
雉:『芥川龍之介の桃太郎』
鬼:映画『桃太郎の海鷲』、詩『桃太郎の出陣』

・はじめの4人グループに戻り、それぞれに与えられた資料の内容や考察を共有する。

③現代の桃太郎
・桃太郎の物語の変容を伝える。
・令和に出版された『ふたりのももたろう』を紹介。
・今の時代の「ももたろう」は「多様性」がテーマであることを確認する。

④桃太郎の物語をつくる。
・以上の流れを踏まえ、「多様性」をテーマにした桃太郎の物語をつくる。その課題と向き合うために、グループや教室全体でアイデアを共有する。

⑤クロージング
・教師とは「天才(人を巻き込む存在)」であるのだから、自分とは違う相手を退治するのではなく、違いを受け止めて、尊重して、共に生きていこうとする文化を、いろんな人の手を借りながら、教室のなかで育てていったほしい、というメッセージを伝える。


🏨多様性の受容と活用

以上の流れで授業を展開していったんですが、特に見れてよかった景色は、ジグソー活動のなかにありました。②にあたる部分です。

ジグソー活動とは、グループのメンバーそれぞれがその分野のエキスパートになり、議論や考察を深めていく教育方法のひとつです。

僕の授業の例でいえば、江戸時代の「桃太郎」のエキスパートは「犬」の人、明治時代の「桃太郎」のエキスパートは「猿」の人……といった具合に、役割を分け与るのです。

これをすることによって、その分野を語れるのはグループのなかで自分しかいないという状況になるので、それを見越して情報を学び取ろうとしたり、意見をまとめておこうと前のめりになるんですよね。

実際、僕の授業のなかでも、すべての学生が役割を持ち、発言し、考えを深める姿が見られたので、とても有意義な時間だったのではないかなと振り返っています。

今回僕が目指したのは、桃太郎という物語の多様性の受容、そして、活用です

日本人なら誰もが知る桃太郎の物語は、時代によって変容しています。そこには各時代の価値観や思想が反映されているんです。桃太郎の物語を読み解くことで、その時代の人の価値観や思想を受容することになると考えました。

たくさんの嗜好や思想に名前がついて、違いの際立つ時代になった今、求められているヒーローとは、人との違いを尊重する人物です。自分と違うから退治するのではなく、その違いを受け止めて共に生きていこうとする姿勢こそ、今の桃太郎なのです。

つまり、多様性をテーマにした桃太郎の物語を考えることは、多様性の活用につながります。どうすれば、相手の違いを受け止めることができるのか、どんな言葉を選べばいいのか、それを考えてストーリーを生み出す作業は、多様性の活用といえるのです。

授業終盤、今の桃太郎のアイデアを教室全体で共有していたんですが、ひとりの学生が「『桃太郎』という名前だから男の子と思われがちだけれど、実はこの主人公の心は女の子で……」と語り出したときは、「おおっ!」となりました。

今まで「桃太郎」の名前に疑問も違和感も抱いてこなかったであろうその学生は、僕の授業を受け、「多様性」という観点から「桃太郎」という名前に懐疑的になったのです。多様性を受容し、活用しようとしているのです。

とにもかくにも、たくさんの「!」と「?」の生まれる授業を展開することができて、ゲストティーチャーを引き受けた甲斐があったなと思いました。まだまだ語りたいことがあるので、次回もこの授業の話をしていきますね。最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

20241101 横山黎





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?