僕は君から卒業する。
――僕は君から卒業する。それが今僕のできる愛し方だと信じているから。
人生は物語。
どうも横山黎です。
作家として本を書いたり、木の家ゲストハウスのマネージャーをしたり、「Dream Dream Dream」という番組でラジオパーソナリティーとして活動したりしています。
今回は「僕は君から卒業する。」というテーマで話していこうと思います。
昨日、今日と虚無感に苛まれる時間がありました。仕事の合間に、車を運転しているときに、夜眠る前に、noteを書いているときに、それは訪れて、僕の心を揺さぶりにきました。
正直な話、視界が滲むことも何度かあって、自分でも驚くくらいに、意外と堪えているんだなと振り返っています。
号泣することもなければ、投げ出したくなったわけでもありません。ただ、僕の身体のどこかにぽっかりと穴の空いたような、そんな感覚が続いているのです。今日は、そんな、穴の話をしていきます。
一昨日、元恋人に会ったんです。
大学卒業の日以来の久しぶりの再会で、とっても眩しい時間を過ごすことができて、会ってよかったなと思ったし、大変なこともあるけれどしあわせに暮らしているようで嬉しく思いました。
1軒目は焼き鳥屋に行って、2軒目は駄菓子バーに行きました。僕にしか話せないようなことを、君はちゃんと話してくれるし、ずっと飽きずに聴いていられるほど、僕好みの物語でした。2軒目のバーでは、久しぶりに君の歌声も聴くことができました。相変わらず、心に響く歌声でした。
前提として、僕は関係を永く続けたい人であり、自分の大切な人がしあわせになることをいちばんに願っている人です。だから、既存の関係に囚われず、流動的に相手との距離を変えていく意識を常に持っているんです。
君ともそうで、付き合う前も、付き合っているときも、別れた後も、僕らは仲良しでした。仲が悪くなったことがないんです。お互いが息苦しくない関係で在りたいとお互いが願っていたからです。
だからこそ、僕にはパートナーがいるし、君にも大切な人がいるのだけれど、久しぶりにふたりきりで会う約束をしたんです。そろそろ会いたいと思うタイミングが重なったのです。
ちなみに、大学卒業の頃、「今度ふたりで卒業式をしよう」と誘われました。そんな予定を持ち掛けてくれることが素直に嬉しかったので、近いうちに再会を果たそうとしていたのですが、お互い環境が変わったこともありなかなか折り合わず、会えずにいたんです。やっとのこと、一昨日、再会できたというわけです。
卒業式、というにはあまりに時間が経ってしまいましたが。
物語りたがりな僕だから、これは明日のnoteの記事にしようと思い至りました。ただ、デリケートな話が含むこともありますから、念のため、君に許可を取ることにしたんです。一緒に写った写真を使ってもいいか、名前を出してもいいか、君の大切な人の話に触れてもいいか、訊ねてみたんです。
結論からいうと、あまり触れないでほしい、とのことでした。
個人が特定されるような書き方は避けてほしい、事情が事情だから「大切な人」の話題も控えてほしい、写真の使用も……。
何を思い上がっていたんでしょうかね。君からの提言は至極当然で、気にせずに使おうとしていた僕の方が間違い。すっかり君の物語に魅せられて、いい気になって自分の物語に組み込もうとしていました。
君の大切な人が、僕と君との関係を知って気にしてしまうおそれもあります。せっかく巡り合った人と紡いでいるしあわせを、僕の物語によって断ち切ってしまうなんてことがあってはなりません。
僕の願いは、君がしあわせであること。
そのためだったら、僕は何だってするんです。
あの頃からそうでした。
君がしあわせになるから、僕はふたりの関係に名前をつけました。大きな水槽の前で、未開封の勇気をつかいました。君がしあわせになるから、星の見えない公園で距離を置く約束を交わしたし、数か月後に訪れた別れの未来も受け入れました。
別れた後に君に誘われて一緒に大学の課題をやったのも、あの公園で恋愛相談に乗ったのも、卒業式の日に一緒に写真を撮ったのも、君のしあわせをつくるためでした。
今、君が望むのは、僕の物語から君がいなくなること。
ならば、僕はそれを心から受け入れるだけです。
大学卒業までの間に、君に触れた記事はたくさんありました。その取扱いについても併せて訊いたところ、それらに関しては特別措置を施さなくてもいいとのことでした。しかし、「できることなら……」という願いが透けてみえました。
したがって、僕はさっき、今まで君に触れた記事を遡って、できる限り、個人が特定されるような情報を取り除いていました。名前は全部代名詞に換えました。君が映っている写真は消しました。記事として成立していないものも生まれてしまったけれど、仕方がありません。君のしあわせに水を差さずに済むのなら取るに足りません。
ひとつ、ひとつ、写真を消す度に、そこに穴が生まれました。記事に生まれたいくつもの穴が、僕と君がいた日々であり、ふたりの物語の始末でした。
君は「これからもたくさん話がしたい」と言ってくれたけれど、ちょっと心が痛いかな。もちろん次に君が誘ってくれることがあるのなら、僕は喜んで会いにいくけれど、自分からは声をかけないつもりです。
僕は君から卒業する。
それが今僕のできる愛し方だと信じているから。
どうやら一昨日の再会は、本当に「卒業式」だったみたいです。
なんだかまとまりのない、とりとめのない記事になってしまいましたが、自分の胸のなかがそのまま言葉になったみたいな気がしていて、いつもの記事よりもより本心に近いことを書けたんじゃないかな。
最後になりますが、君に言葉の花を贈ります。
これからの君が、誰のそばでもしあわせでありますように。いつだって君が本当の姿でいられますように。また新しい物語を綴れる日が来るなら、そのときはよろしく。またね。
20241208 横山黎
追伸
君が教えてくれたバンド。当時は既に解散していましたが、最近再結成したそうです。ここ数日、この曲ばかり聴いています。とっておきの卒業ソングです。