映画日記〜雨の日は会えない、晴れた日は君を想う〜
先日、映画「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」見る。「溺れるナイフ」の監督が感想を寄せているのを見て、気になった映画。いつも通り、気が向いたら読んで。迷ってるから背中を押してという方。是非読んで。とても素晴らしい映画。
主人公は何不自由ない生活の銀行マン。毎日数字の世界。利益を作るのみの仕事。最新家電、洗練されたスマートな家具、高級住宅。美人、性格のいい妻。生活は交通事故で突然姿を変える。
呆気なく死んだ妻。残った。涙1粒も出ない主人公。自分は妻を愛していなかった。確信が頭に浮かぶ。彼は乗る電車の緊急停止レバーを引く。彼の奇妙な行動の始まり。
心の形を見た事がある。見た事があるという方、心臓。レントゲンで映し出される形。普通でも普通と違っていても心には影響がない。心は人に1番重要と言われる心臓から1文字取って名付けられた本来は名付けようの無いもの。心の輪郭をなぞったことがない私達。何故か私の心は欠けていると度々考える。理解のし合えない他人に対し、あの人の心は何か欠落していると感じる。
本作は心の何かが欠落している主人公。自身の心を解体する話。主人公に何処か引き寄せられて集まる変人物語。
自分の感情が上手く分からないまま主人公は、故障のあったチョコ自販機の会社に苦情の手紙を書き始める。「病院のチョコ自販機にお金を入れたのに詰まって出ない。空腹で苛立った。妻が死んだ10分後」手紙を受けた自販機カスタマーセンターの女性、15歳の息子との出会い。共鳴で主人公の解体は進む。
常識的な感覚で娘の死を悼み、娘婿の主人公を心配する義父。分かりやすく泣き、落ち込みもせず、全く理解の出来ない行動を起こす主人公。次第に怪訝な目で見る。
人の感情回線には容量、速度がある。同じ設定の出来事が誰かにとっては瞬間直ぐに涙。他の誰かにとっては3時間後。哀しさを理解し、涙。同じ哀しみ。涙を流さない人もいる。哀しいと分からない人もいる。
私達は皮膚の外側にいる他人と表情、言葉、行動を読み取りながら意思疎通を取る。他はない。情報が自分の中の普通と違う時、人は驚き、感銘を受け、蔑み、認識を辞める。
心の普通の在り方は一体何。答えを言えば心の形に普通は無い。主人公は義父の言う「修理時は隅々まで点検し、組み立て直す」言葉をそのままの意味に受け取る。自分の心、日常、人生を解体。身の回りを破壊、解体。
周りから見たら変わっているように見える主人公の行動。感情、脳神経を交互に混ぜる。エモい映像、ロック音楽で追った本作。私には心が普通じゃないと誰かから言われた事のある全ての人へ生易しくも分かり易くもない遠回りし、本当に響く嘲笑的恋文。
哀しみ、喜び。全感情はあなたが分かるよう現れる。大きな遠回り。感情表現が出来なく、みんなと同じ感想を抱けない。悩んでいる人は沢山。私もズレている。ズレていないことに悩んでいる人も。主人のが心を解体するための方針。壊したものの1つ1つが見つけた幾つかの手助け。手分けし、繊細な彼に少しずつ亡くしたことを伝える。亡くしたと解る。あったということを解る。他ならない。あったということを解った彼の胸。確かにあった。
受けた出来事が感情に変わるまでの道のり。人それぞれ1番の方法はある。誰の方法が正常か、良いか否かにはならない。哀しく、泣く人。哀しい時に無表情になる人、哀しい時に笑う人。全員正しい。絶対。
十人十色の感情の受け入れ方。人にしかない美しさ。突然の雷雨、1日中降る霧雨、曇りの日の凪いだ大海原、誰かが軽快な音を立てて踏む霜柱。本作で主人公が泣いた時、朝露みたい。
とても遠く、とても綺麗。本当にあるのかずっと解らなかった。とても切実。胸もくしゃくしゃ。ぎゅっと雲の全部の水分から本当に蒸留し、生まれる。ぎゅっと詰まった哀しみ。私もくしゃくしゃに泣く。
誰も駄目じゃない。誰も可笑しくない。自分を捜した主人公のハンマーの1振り1振りの最終場面。美しさを作ったのは本当。深い所にある確かな優しさ。本作は持っている。
何処に行き、何が起きても新しくあなたが始まる。絶対に祝福。疎かにし、すり抜けた全ての愛。ベルを鳴らしている。大丈夫。胸が明るくなる。自分は何が変と感じた事のある人。人生。いい。悩んだ事のある人。みんなに見てもらいたい映画。
本作の感想。仮面を借り、読んでいるどんなあなたも肯定。試みる。とても幸福。有難う。遅くまで書いた。とても魅力的な役。頑張る。