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【ショートショート】放課後の約束
放課後の約束
放課後の教室は、いつもと違う静けさに包まれていた。窓から差し込む夕陽が、机の上に長い影を落としている。僕はその影をぼんやりと見つめながら、今日の出来事を思い返していた。
「ねえ、今日の放課後、ちょっと話せる?」
昼休み、彼女が突然声をかけてきた。クラスメイトの中でも特に目立つ存在で、いつも笑顔を絶やさない彼女が、今日は少し真剣な表情をしていた。
「うん、いいよ」
僕は何も考えずに答えたけれど、その後の授業中、ずっとその言葉が頭の中をぐるぐると回っていた。何を話すんだろう。何か悪いことでもしたかな。そんな不安が胸を締め付ける。
放課後、教室に残った僕は、彼女が来るのを待っていた。やがて、彼女が教室のドアを開けて入ってきた。
「待たせてごめんね」
彼女はそう言って、僕の隣の席に座った。僕は緊張して、何も言えなかった。
「実はね、私、来月から転校することになったの」
その言葉を聞いた瞬間、僕の心臓が一瞬止まったような気がした。彼女が転校するなんて、全く予想していなかった。
「え、どうして?」
「父の仕事の都合でね。急な話でごめんね」
彼女は少し寂しそうに笑った。その笑顔が、いつもよりも少しだけ大人びて見えた。
「そっか…寂しくなるな」
僕はそう言うのが精一杯だった。彼女がいなくなるなんて、まだ実感が湧かない。
「でも、これからも友達でいてくれる?」
彼女のその言葉に、僕は力強く頷いた。
「もちろんだよ。どこにいても、友達だ」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。その笑顔を見て、僕は少しだけ安心した。
その後、僕たちはしばらくの間、何も言わずに夕陽を見つめていた。教室の窓から見える景色は、いつもと変わらないはずなのに、どこか違って見えた。
「ねえ、最後に一緒に写真撮ろうよ」
彼女が突然言い出した。僕は驚いたけれど、すぐにスマホを取り出して、彼女の隣に立った。
「はい、チーズ!」
シャッター音が響き、僕たちの笑顔が画面に収まった。その写真を見て、僕は少しだけ安心した。これで、彼女がいなくなっても、思い出が残る。
「ありがとう。これ、大切にするね」
彼女はそう言って、スマホをポケットにしまった。僕も同じように、自分のスマホをしまった。
「これからも頑張ってね。新しい学校でも、きっと友達がたくさんできるよ」
僕はそう言って、彼女を励ました。彼女は少しだけ涙ぐんでいたけれど、すぐに笑顔を取り戻した。
「ありがとう。君も頑張ってね。いつかまた会えるといいな」
彼女はそう言って、僕に手を振った。僕も手を振り返しながら、彼女が教室を出て行くのを見送った。
教室に一人残った僕は、彼女との思い出を胸に刻みながら、これからの自分の未来を考えた。彼女がいなくなっても、僕たちの友情は続いていく。そう信じて、僕は新しい一歩を踏み出す決意をした。
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