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ネオ東京の謎解き - 完璧なアリバイの崩壊

ネオ東京の謎解き - 完璧なアリバイの崩壊 -

「明智先生、大変です!ネオ東京で、またしても殺人事件が!」

 橘花蓮(たちばな・かれん)は、いつものように明智光輝の探偵事務所に飛び込んできた。彼女の表情は、いつになく深刻だった。

「ほう、またか。一体、今度はどのような事件だね?」

 明智光輝(あけち・こうき)は、いつものように冷静に尋ねた。

「被害者は、大手IT企業『サイバーリンク』の社長、榊原剛。自宅の書斎で、毒殺されていたそうです」

「ふむ、榊原剛か。ネオ東京のIT業界を牽引する、やり手の実業家だったな。一体、誰が彼を…」

「それが…容疑者には、完璧なアリバイがあるんです」

 花蓮は、事件の概要を説明した。容疑者は、榊原のライバル企業『テクノマトリックス』の社長、黒沢仁。彼は、事件発生時刻に、ネオ東京湾クルーズの船上にいたというのだ。

「クルーズ船か。確かに、外部との接触は難しいだろうな」

 明智は、顎に手を当て、考え込んだ。

「しかし、先生。黒沢は、榊原と激しいビジネス上の対立をしていました。動機は十分にあるんです」

「ふむ…動機はあっても、アリバイがある。これは、なかなか手強い事件になりそうだ」

 明智は、いつものように不敵な笑みを浮かべた。

「花蓮、早速だが、ネオ東京湾クルーズの運行記録を入手してくれ。それと、榊原邸の監視カメラの映像もだ」

「はい、承知いたしました!」

 花蓮は、明智の指示に従い、情報収集に奔走した。

 数時間後、花蓮は、入手した資料を明智の前に並べた。

「先生、こちらがクルーズの運行記録です。黒沢は、確かに事件発生時刻には船上にいました。乗客の証言もあります」

「なるほど。そして、こちらが榊原邸の監視カメラの映像だね」

 明智は、映像を再生した。そこには、榊原が書斎で仕事をしている様子が映っていた。

「事件発生時刻の映像は…」

 花蓮は、映像を早送りした。その時、明智は、映像を一時停止させた。

「花蓮、ここを見てくれ」

 明智が指差したのは、榊原の書斎の窓に映った、微かな光だった。

「これは…?」

「恐らく、レーザーポインターの光だ」

 明智は、そう断言した。

「レーザーポインター?まさか…」

 花蓮は、驚愕した。

「ああ、黒沢は、クルーズ船からレーザーポインターで榊原を狙撃したんだ」

「でも、そんな距離…それに、毒殺だったはず…」

「毒は、レーザーポインターに取り付けられた、特殊な装置から発射されたのだろう。そして、その距離だが…」

 明智は、クルーズ船の運行記録と、榊原邸の地図を照らし合わせた。

「このクルーズ船は、事件発生時刻に、榊原邸から直線距離で約1キロの地点を航行していた。そして、黒沢が使用したと思われるレーザーポインターは、軍事用のもので、その射程距離は…」

 明智は、ニヤリと笑った。

「…1.5キロだ」

「そんな…!」

 花蓮は、言葉を失った。

「黒沢は、完璧なアリバイを作り上げたつもりだったのだろう。しかし、彼の計画には、一つだけ誤算があった」

「誤算…?」

「それは、ネオ東京の夜景の美しさだ」

明智は、窓の外に広がる、ネオ東京の夜景を見つめた。

「ネオ東京の夜景は、非常に明るい。そのため、レーザーポインターの光は、肉眼ではほとんど認識できない。しかし、監視カメラは、その微かな光を捉えていた」

「先生…!」

 花蓮は、感動したように明智を見つめた。

「さあ、花蓮君。黒沢に、この証拠を突きつけに行こう」

 明智は、立ち上がり、帽子を被った。

 こうして、明智光輝と橘花蓮は、完璧なアリバイを崩し、事件の真相を解き明かしたのであった。


 事件解決後、明智と花蓮は、ネオ東京の夜景を見下ろす探偵事務所に戻ってきた。

「先生、見事な推理でした。まさか、レーザーポインターで…」

 花蓮は、改めて明智の推理力に感嘆の声を上げた。

「ふむ、まあ、少しばかり頭を使っただけだよ」

 明智は、いつものように謙遜したが、その表情は、満足げだった。

「しかし、先生。どうして、あんなに早く真相にたどり着けたんですか?」

「それは…」

 明智は、言葉を濁した。その時、彼の足元に、一匹の猫が擦り寄ってきた。

「そうせき、邪魔をするな」

 明智は、猫を軽くあしらった。その猫は、明智の愛猫、「そうせき」だった。

「先生、その猫…」

 花蓮は、そうせきを見つめた。

「ああ、こいつは、私の相棒だ」

 明智は、そうせきを抱き上げ、撫で始めた。

「相棒…ですか?」

「ああ。こいつは、私の推理の源泉とも言える存在だ」

 明智は、そうせきを見つめ、語り始めた。

「事件の真相にたどり着くには、常識にとらわれない、自由な発想が必要だ。そして、こいつは、いつも私に、その自由な発想を与えてくれる」

「猫が…ですか?」

 花蓮は、半信半疑だった。

「ああ。例えば、今回の事件。黒沢は、完璧なアリバイを作り上げたつもりだった。しかし、こいつは、私にこう囁いた。『本当に完璧なアリバイなど、存在するのか?』と」

 明智は、そうせきの耳元で囁いた。

「そして、私は、その言葉に導かれ、黒沢のアリバイを疑い始めた。そして、監視カメラの映像に、レーザーポインターの光を見つけたんだ」

「なるほど…」

 花蓮は、感心したように頷いた。

「つまり、先生の推理は、猫のおかげ…ということですか?」

「まあ、そういうことだ」

 明智は、そうせきを撫でながら、微笑む。

「しかし、先生。猫に話しかけるなんて…少し変わってますね」

 花蓮は、苦笑いを浮かべた。

「ふむ、そうかもしれないな」

 明智は、そうせきを抱き上げ、立ち上がると。

「さて、花蓮。事件も解決したことだし、今日は早く帰って、ゆっくり休むといい」

「はい、先生もゆっくり休んでくださいね」

 花蓮は、そう言って、探偵事務所を後にした。

 花蓮が帰った後、明智は、そうせきを抱き上げ、ソファーに寝転んだ。

「さて、そうせき。今日は、疲れたな」

 明智は、そうせきに話しかけながら、目を閉じた。

「ニャー」

 そうせきは、明智の胸の上で、気持ちよさそうに喉を鳴らした。

 明智は、そのまま眠ってしまった。彼の寝顔は、普段の鋭い表情とは異なり、穏やかだった。

 ソファーの上には、読みかけの推理小説が、無造作に置かれていた。その横には、脱ぎっぱなしの靴下が、丸まって転がっている。

 明智光輝。ネオ東京の名探偵。その華麗な推理の裏には、少々だらしない一面もあった。しかし、それもまた、彼の人となりを物語る、魅力的な一面なのかもしれない。


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