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取り柄のない私と、先生と。

 公園のベンチに座り、美緒はため息をついた。今日もまた、何者にもなれない一日が終わる。

「…私には、何もない」

 そう呟くのが口癖だった。取り柄も、才能も、夢もない。ただ、平凡な毎日を繰り返すだけの、空っぽの自分。

 そんな時、隣のベンチに老人が腰を下ろした。

「若い人は、ため息ばかりついちゃいけないよ」

 老人は、穏やかな笑顔で美緒に話しかけた。

「…私には、何もないんです。取り柄も、才能も、夢も」

 美緒は、自嘲気味に答えた。

「そんなことはない。君には、まだ気づいていない何かがある」

 老人は、そう言って、美緒に一冊のノートを手渡した。

「よかったら、何か書いてみるといい。どんなことでも構わない。君の心の中にあるものを、言葉にしてみるんだ」

 その日から、美緒はノートに文章を書き始めた。最初は、ただの日記のようなものだった。しかし、老人のアドバイスを受けながら書き続けるうちに、少しずつ物語のようなものが書けるようになっていった。

 老人は、実は有名な作家だった。美緒の文章を読み、才能を感じたのだ。

「君の文章には、人の心を動かす力がある。自信を持ちなさい」

 老人の言葉に励まされ、美緒は書き続けた。そして、5年の月日が流れた。

 ある日、美緒は、自分が書いた物語を、新人賞に応募してみた。まさか受賞するとは思っていなかった。しかし、結果は、見事受賞。美緒は、ついに作家としてデビューを果たしたのだ。

 授賞式の壇上で、美緒は言った。

「私には、何もありませんでした。でも、先生と出会い、文章を書くことを教えてもらいました。先生がいなければ、今の私はありません。本当に感謝しています」

 会場は、温かい拍手に包まれた。美緒の目には、涙が溢れていた。

「取り柄のない私」は、もういない。そこにいるのは、自分の力で夢を叶えた、輝く作家の姿だった。

 公園のベンチに座り、美緒は空を見上げた。あの日、先生と出会った場所。先生はもういないけれど、先生の言葉は、今も美緒の心に響いている。

「君には、まだ気づいていない何かがある」

 美緒は、これからも、先生の言葉を胸に、文章を書き続けていく。

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